第十話「親孝行と親不孝」2024年5月14日火曜日 晴れ、15日水曜日 晴れ
失業したことはまだ両親には言っていなかった。カフェ事業は二つの組織とそれぞれ立場の異なる四人のチームプロジェクトだった。その立ち上げから閉業までの経緯は、80歳を超えた両親に電話で説明しても伝わらないだろうと思ったからだ。
カフェ閉業が閉業する前にこの帰省は決まっていた。実家は雪国の古い百姓屋である。年老いた二人にはメンテナンスが難しい。昨年あたりから定期的に帰省してはあちこち掃除したり補修したりしてきた。
失業者には痛い出費だが、これも親孝行だろう。
冬の間、屋根から落ちる雪の重みと高さで家屋を破損させないようにする雪囲いをバラして納戸にしまった。
実家は田んぼに囲まれている。大きな川が近くを流れており、地面と水温の温度差のせいで季節を問わず風が強く吹く。その防風の竹垣の刈り込みも行った。
N美さんも来てくれた。都会育ちの割にこういう力仕事が得意なN美さんのお陰で段取り良く作業は進んだ。
晩飯は近所のスーパーで刺身や寿司や惣菜などで済ませた。高齢の両親には外食はむしろ負担になる。
日本海に接した地元では、スーパーの刺身や寿司が安価で美味いのだ。地酒もまた美味かった。
両親とN美さんの相性は良いように見える。
家のメンテナンス、N美さんとの食事。
良い親孝行ができたと思う。
翌朝、まだ言えていなかった失業のことを話した。難しい説明は省き、失業手当がもらえること、次の仕事の目処は立っていることを少し楽観的に話した。
老朽化が進む家に高齢の二人だけの暮らし。二人ともいくつかの持病がある。息子は遠く離れていて、そして失業者になった。
50歳を過ぎて、年老いた両親を不安がらせている。
不孝者だ。
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