見出し画像

第五話「面接と面談」2024年5月6日月曜日 曇り 風強し

 西日本から天候が崩れていくという予報があった。九州地方は風雨の警戒レベルが高いそうだ。
 関東も雲が厚くなり、刻々と風が強くなっている。幸い雨にはならないようだし、風に電車が止まるほどの強さはなかった。
 午後3時。私は都心から離れた私鉄沿線の街のカフェにいた。面接のためだ。
 屋号にカフェとあるが実際はランチタイムのみの営業。健康的な食材によるランチ、コーヒーやハーブティーはそのオプションという位置付けであった。
 船長の知り合いの店で、その伝手で紹介していただいた。
 オーナーさんは美容と健康に関するブランドを立ち上げた女性で、このカフェもその一環として営業している。
 ブランドの営業と会社経営に専念するためにもカフェの人手を探していたところだという。
 条件面は非常に良い。船長の仕事にいつか戻りたいということも承知してくださった。オーナーさんは船長のお菓子とのコラボも検討しており、むしろ双方のブランドを知り、間に入ってくれる人ができることがより望ましいとさえ言ってくれた。
 オーナーさんと私の事情・条件面をクリアにし面接を終えた。
 私の他の引き合いーー現在のダブルワーク先であるワインバルでの働き方と失業手当受給ルールとを照らし合わせながら、シフトインする頻度や時間を検討しなければならない。

 帰りの足でワインバルの人事担当者に会いにいくことにした。翌7日で調整してあったが早い方がいいだろう。たまたま人事担当者は帰路の沿線の店にいる。ワインバルチェーンの一店舗の店長である彼が人事担当者でもある。小さな会社なのだ。
 彼が店長を兼任している店はチェーンの中でも比較的大規模店だ。ゴールデンウィークの最終日の夕方。カフェタイムは過ぎ、少し落ち着いていた。
 面談や相談といっても、私は営業中の店に客として来ている。カウンターに座り、ハイボールを頼んだ。
 カウンター越しで、酒を交えて仕事の話をするのは、この会社の文化だった。
 他の客のオーダーや洗い物をこなしながら、彼は私の話を聞いていた。
「結局、ハローワークの手続きが終わらないと具体的な話はできないですよね?」
彼はこの辺がクールだ。かつての仲間が失業者になったからといって同情や歓迎めいた言葉は出てこない。実務の話に止まる。彼のその態度を私はむしろ好ましく感じている。
「失業手当の受給ルールは置いといて、仮にうちの会社でがっつり働きたいと言っても、サトウさんの希望通りにはいかないですよ?店長だった店に、そのまんま勤務日数を増やすのは他のスタッフの手前、できないすね。わかりますよね?」
 彼はどこまでも実務の男なのだ。
 融通が利かないのではなく、会社の判断として正しいだけだ。こんなことで彼との友情はなくならない。なくなりはしない、が複数店舗勤務を日替わりでとなると体力的にキツい。

 窓の外を見ると、風がまた強くなっていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?