第三話「ラストオーダー」2024年4月29日月曜日晴れ
最終出勤日はゴールデンウィーク中の平日の通常営業。
週末はにぎわうカフェになっていたが、開業からまだ半年。大型連休の集客数は読めなかった。レジャーにとられ、おそらくは客数も売上も芳しくないだろうと半ばあきらめた予想をしていた。
反して、午後から客足が伸びた。しかもご新規の一名様が多い。どうやら、近隣の大型チェーン系カフェが盛況すぎて、あふれた客層を受け入れる形になったようだ。
閉店間際、最後のお客様はハンドドリップ・コーヒーをオーダーした。
うちのカフェはエスプレッソマシンを導入しており、エスプレッソをお湯で割ったアメリカーノを「コーヒー」のメニュー名で提供している。
一方、ハンドドリップ・コーヒーも提供している。ちょっと贅沢な時間を楽しんでいただくためだ。
N美さんはエスプレッソマシンは扱えるが、ハンドドリップは苦手としていた。抽出時間と注ぎ入れる湯量のコントロールは習熟になかなか時間がかかる。
必然的に、ハンドドリップのオーダーは私の担当になる。私が退職したあと、つまり明日からハンドドリップ・コーヒーはメニューから下げることになっていた。
私の最後の出勤日。
最後のオーダーがハンドドリップだった。
あまりにも出来すぎていて、N美さんと顔を見合わせて小さく笑った。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?