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【言葉】ポシェットに名言を

 私が何からの影響汁を啜ってこんなものを書くのかは明白であろう。勿論、言わずもがな、寺山修司の『ポケットに名言を』である。

 すると、或る侍ウィズ無精髭出できて曰く、「お主、名作を愚弄する気か!四条河原で英国紳士が展覧会の運びでございまして、ざるうどんをいかがあそばせ、浅草の人。」憤怒余りて脳における言語を司る部位が発火し、訳のわからぬ戯れ言を曇天に呟きながら、目ばかりはぎらぎらと、鮮血を前にした野獣の如く光らせて、鞘に収まる御自慢の名刀、腰の辺りから引き抜き、刃先に発光小人を急かせた。顔面蒼白、息もきれぎれ、気温氷点下で異様な発汗、これでは非常に頼りなさげでも、兎に角、私をつくる8割は水分、ならぬこの言葉。これを見てから文句を垂れろ、ってもんだい。外、調子づき、内、毛穴から発泡の震え。

【リスペクトを表しつくして】

1.たしかに言葉の肩をたたくことはできないし、言葉と握手することもできない。だが、言葉にも言いようのない、旧友のなつかしさがあるものである。
『ポケットに名言を』寺山修司

【若人よ】

2.鉄は赤く熱しているうちに打つべきである。花は満開のうちに眺がむべきである。私は晩成の芸術というものを否定している。
『もの思う葦』太宰治

3.青年には自己処罰の欲求があって叱られたい、罰せられたい、というマゾヒズムが心中深くひそんでいるのも青年の特徴であり、これが外面的にはサディズム的行動をとることがある。
『現代青年論“弱い父親”への反逆』三島由紀夫

4.勉強がわるくないのだ。勉強の自負がわるいのだ。
『如是我聞』太宰治

5.レッテルつきの文豪の仕事ならば、文句もなく三拝九拝し、大いに宣伝これに努めていても、君のすぐ隣にいる作家の作品を、イヒヒヒヒとしか解することが出来ないとは、折角の君の文学の勉強も、疑わしいと言うより他はない。
『如是我聞』太宰治

6.人間は自由に生きる権利を持っていると同様に、いつでも勝手に死ねる権利も持っているのだけれども、しかし、「母」の生きてるあいだは、その死の権利は留保されなければならないと僕は考えているんです。それは同時に、「母」をも殺してしまう事になるのですから。
『斜陽』太宰治

7.人は極端になにかをやれば、必ず好きになる性質をもっています。
『人間の建設』岡潔

8.感情をもととして、ベドイトゥングを考えて、その指示するとおりにするのでなければ、正しい学問の方法とは言えないと思っています。
『人間の建設』岡潔

9.数学は必ず発見の前に一度行き詰まるのです。行き詰まるから発見するのです。
『人間の建設』岡潔

10.ちかくの新聞社は父の訃を号外で報じた。私は父の死よりも、こういうセンセイションの方に興奮を感じた。
『思い出』太宰治

11.あのあんまをした。みよの事をすっかり頭から抜いてした。みよをよごす気にはなれなかったのである。
『思い出』だ。

12.別にどうしようというあてもないのだが、そのすれちがった瞬間に、彼はいのちを打ち込んでポオズを作る。人生へ本気になにか期待をもつ。
『道化の華』太宰治

13.たとえ偉くなったって、ランプティ・バンプティのお蔭だなんて思やしないんだよ。自分にはもともと偉くなれる能力があったと思うんだ。
『こぶ天才』筒井康隆

14.人間と歴史は同じものだ。
『教祖の文学』坂口安吾

15.天才は外的偶然を内的必然と観ずる能力が具わっているものだ、と言う。
『教祖の文学』坂口安吾

16.すべてが、禁止と反対の、積極的な努力と工夫でなければならぬ。
『戦争論』坂口安吾

17.二代目、三代目となるとその背景の方をすっかり落としてしまう。
『かけがえのないもの』養老孟司

18.伝染し合いながら、私たちは人間であることを保ち続けているのだと思う。
『コンビニ人間』村田沙耶香

19.教師はサラリーマンの仕事になっちゃった。
『バカの壁』養老孟司

20.老年の謐かな智恵が、あの秋の末によくある乾いた明るさを伴って、我々の上に落ちかかることがある日には、ふとした加減で、私にもわかるようになるかもしれない。だがわかっても、その時には、何の意味もなくなっているであろう。
『煙草』三島由紀夫

21.少年期は永劫につづくべきものであり、又現につづいているのではないだろうか。
『煙草』三島由紀夫

22.可能性という言葉を無限定に使ってはいけない。我々という存在を規定するのは、我々がもつ可能性ではなく、我々がもつ不可能性である。
『四畳半神話体系』森見登美彦

23.才能とは、自分に何かできると信じることだ。
ジョン・レノン

24.いつだって今より優先すべき過去などない。
『ノスタルジック満腹』 最果タヒ

【現代に言う】

25.それまで丸一日かかっていたことが、一、二時間で済むようになった。じゃあ、いいじゃん。別に問題ねぇよ。てなもんであるが、そうでない。その空いた時間、やることが無くなってしまったのである。
『夫婦茶碗』町田康

26.寺があって、後に、坊主があるのではなく、坊主があって、寺があるのだ。
『日本文化私観』坂口安吾

27.天才世阿弥は永遠に新らただけれども、能の舞台や表現形式が永遠に新らたかどうかは疑しい。
『日本文化私観』坂口安吾

28.わかっただけでは、なんにもならない。もうみんなが、わかってしまっているのだ。
『碧眼托鉢』太宰治

29.いまどき源氏物語を書いたところで、誰もほめない。
『古典龍頭蛇尾』太宰治

30.秩序が欲望の充足に近づくところに文化の、又生活の真実の生育がある
『欲望について』坂口安吾

31.東大問題は、全般を見まして、自民党と共産党が非常に接点になる時点を見まして、これなるかな、実に恐ろしい世の中だと思った。
『討論 三島由紀夫VS.東大全共闘』 三島由紀夫

32.私が今、天皇、天皇というのは、今まさに洞察されたように、今の天皇は非常に私の考える天皇ではいらっしゃらないからこそ言える。
『討論 三島由紀夫VS.東大全共闘』 三島由紀夫

33.そこで考え出したのは、道化でした。
『人間失格』 太宰治

34.必要ならば、法隆寺をとりこわして停車場をつくるがいい。我が民族の光輝ある伝統は、そのことによっては決して亡びはしない。
『日本文化私観』 坂口安吾

35.現実というものは、いかなるときでも、いっこうに自らの歴史的な機会のごときものを自覚しておらず、つねに居眠ったり、放尿したり、飲んだくれたりする、ただの人間であることを免れず、ぐうたらでだらしがないものだ。
『二合五勺に関する愛国的考察』 坂口安吾

36.結局は権力にもみぬかれている大衆が、権力をうごかしている、そういう姿が現れてくる。
『詐欺の性格』 坂口安吾

37.都会人はスタイルなどということを言わない。
『現代小説を語る』 織田作之助

38.世界の知力はどんどん低下している。
『人間の建設』 岡潔

39.いまの科学文明などというものは、殆どみな借り物なのですね。
『人間の建設』 岡潔

40.時と所の隔たりは、人間の存在を抽象化してみせる。
『仮面の告白』 三島由紀夫

41.人間科学の対象は客体にではなく、身体のうちにとりこまれた主体にあるのよ
『1963/1982年のイパネマ娘』 村上春樹

42.ボタン一つ押し、ハンドルを廻すだけですむことを、一日中エイエイ苦労して、汗の結晶だの勤労のよろこびなどと、馬鹿げた話である。
『続堕落論』 坂口安吾

43.本当の人間主義は人間主義を超える感覚によってしか支えられない。
『宮沢賢治の気流に吹かれて』 真木悠介

44.人工身体と自然身体という二つのいわば緊張関係が、日本の社会で展開されている
『かけがえのないもの』 養老孟司

45.ドナルド・トランプを大統領に選んでしまうほどの「現実」を抱えたアメリカの「現代文学」が「無国籍」的な作品によって代表されてよいはずがないのである。
『失われた三〇年』 諏訪部浩一