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裁量労働制が「定額働かせ放題」と化している

前回に引き続き、サービス残業と違法経営についてお話します。

「うちは裁量労働制だから、どんなに働いても手取り17万円」と言う編プロ社員を見たことがあります。
(※編プロ=編集プロダクション。出版社から受託して出版物などを制作します)

定額働かせ放題」になりつつある裁量労働制について、制度が適用される要件、残業代は出るということ、雑誌編集は裁量労働制に当てはまるのか? について書きたいと思います。


裁量労働制に当たる3つの業務

前回の記事で、「みなし労働時間制」は
・事業場外みなし労働時間制
・専門業務型裁量労働制
・企画業務型裁量労働制
の3つに分けられると書きました。

①事業場外みなし労働時間制とは?

労働者が仕事の全部もしくは一部を社外で行い、使用者が労働者の労働時間を正確に把握することが難しい場合に、前もって決定された時間を働いたものと考える制度です。

所定労働時間が8時間の労働者に適用した場合、
■ 社外でどのような働き方をしているのか把握できなくても、8時間勤務したとみなす
■ もし業務が6時間で遂行できたとしても、使用者は8時間分の賃金を支払う義務がある
という点がポイントです。

それでは、テレワークは適用されるのでしょうか?
事業場外みなし労働時間制には、以下のような縛りがあります。

◯ 当該業務が、起居寝食等私生活を営む自宅で行われること
→テレワークの中でも、社外であっても仕事だけに集中できる環境があり、仕事時間と日常生活時間帯をはっきりと分けられることが多いもの。この場合、労働時間が算定できます。

◯ 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
→基本的にテレワークは、使用者がインターネットや携帯電話を通して労働者に具体的な指示を出せる状態が普通です。

◯ 当該業務が、随時使用者の具体的な指示に基づいて行われていないこと
→これも同様で、テレワークでは上司からの具体的な指示があるものです。

これらの場合、事業場外みなし労働時間制は適用されません

外回りの多い営業マンでも、
・携帯電話を常時持っている
・使用者から携帯電話を通して指示があったり、連絡を取り合ったりしている
・業務の具体的指示を受けており、帰社する場合
この場合は事業場外みなし労働時間制は適用されない可能性が高いようです。

②専門業務型裁量労働制とは?

業務の遂行手段や時間配分の決定において、使用者側が労働者に具体的な指示を行うことが難しい業務が導入の対象となります。

以下の職業に適用されます。

WEB労働時報 より転載

③企画業務型裁量労働制とは?

事業の運営に関する企画、立案、調査及び分析の業務に限って適用できます。
・経営企画
・人事
・財務・経理
・企画戦略
などが当てはまりますが、経営企画や人事に属していたとしても、企画、立案、調査及び分析を行わない業務に従事する従業員は対象にはなりません。

裁量労働制でも残業代は受け取れる

主に使用者にメリットがある制度ですので、裁量労働制を導入するには、以下のような要件を満たす必要があります。

例)専門業務型裁量労働制の場合
・業務遂行の手段や方法、時間配分等について使用者が労働者に具体的な指示をしない
・労使協定の有効期間(3年以内とすることが望ましい)を決める
・1日あたりのみなし労働時間を決める
・実施状況に関する労働者ごとの記録を、協定の有効期間及びその期間満了後3年間保存する

例)企画業務型裁量労働制の場合
・対象となる従業員が業務を遂行するための知識と経験を十分に持っていること
・対象となる従業員が企画業務型裁量労働制の適用に合意していること
・労使委員会で委員の4/5(80%)以上によって賛成を得ていること

使用者が勝手に「裁量労働制にします」と言うのはダメということですね。皆さんの会社は、この要件を満たしていますでしょうか?

さらに、裁量労働制でも残業代は受け取れます。

みなし労働時間が1日8時間と設定されている場合は、実労働時間が6時間でも9時間でも「8時間労働した」という扱いになります。

しかしみなし労働時間が法定労働時間である8時間を超えた場合、8時間を超えた分の時間に対して残業代(割増賃金)が支払われます

例)みなし労働時間が9時間と設定されている場合であれば、1時間分の残業代が支払われる

また、22時から翌5時までの時間帯に働いた場合には労働時間数に応じて割増賃金が発生します。休日も同様で、労使協定で定めた休日に働いた場合、やはり休日労働として割増賃金が発生します

よくフレックスタイム制との違いがわからないと言われるのですが、フレックスの場合は「この時間は出社しなさい」というコアタイムが設定されているのが通常です。一方で裁量労働制は出社・退勤時間を完全に自由に決められます。またフレックスタイム制は、対象業務が限定されておらずすべての社員に使えます。

雑誌編集や新聞記者は裁量労働制が適当か?

さて、では私が前職で行っていた雑誌の編集者は専門型裁量労働制に当てはまるのでしょうか?
確かに、厚労省が定める職業に「雑誌編集」とあります。

しかし、裁量労働制には要件があります。
・会社から具体的な指示がある場合や、業務につきかなりタイトな納期の設定がされている
・「勤務時間は9時〜18時」と、勤務時間帯が固定されている
・遅刻・早退という考え方がある
・チームで働いており、他のメンバーの業務と密接に関わって連帯して進めていく必要がある

この場合は専門型裁量労働制に適用されない可能性が高いです。

いかがでしょうか? 多くの編集者・記者はこの制度に当てはまらないのではないでしょうか?
(「かなりタイトな納期の設定がされている」時点でほぼアウト笑)
また同じ編集でも、書籍ならともかく雑誌編集は他のメンバーと連帯して進める必要があります。

裁量労働制は、対象業務に当たらない人にも適用されてしまう可能性がある制度です。安易な拡充は最大限に警戒すべきです。

そして前述のように、編プロの社員は「どんなに働いても手取り17万円」という話はよく聞きます(編プロに限らず小規模出版社も同様だと思いますが…)。

うちは裁量労働制だから、残業代出ないけどよろしくね」という一言だけで済ませている経営者は多いと思います。

そして、業務が本当に制度に当てはまるのかをチェックはしていないのでしょう。あるいは一応確認してはいるけれど、わかっていて濫用しているか。いずれにしろ、裁量労働制は「定額働かせ放題」と化しています

法律違反が常態化している状況は、先進国とは言えないと思います。
やはり、基本的には違反した場合のペナルティを重くすべきなのではないでしょうか。

制度を濫用するようなブラック企業は離職率が高く、いつまで経っても人が育たないもの。それが会社経営にとってどれだけ損失なのか、経営者はもっと認識してほしいと思います。

次回は、ブラック経営者から身を守る方法について書きます。






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