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小説

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こちら時空管理局。何らかの影響によりこのアカウント内に小説が発生してしまった。パルス誘導システムを使用して、マガジンに閉じ込めておいた。もし興味があったら見ておいてくれ。以上
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#短編

神社の縁日

神社の縁日

 この話は、おれが地元に帰るたびに友人のYから聞かされる話だ。以下はYが語っていると思ってほしい。
 ───その年の夏は、例年に比べると蒸し暑かったような気がするが、もしかしたらそれは、気の所為だったかもしれないし、本当に蒸し暑かったのかもしれない。
 夏休み最初の週末、私は祖父と一緒に近所の神社に向かっていた。日没がもうわずかという時間、毎年恒例の縁日へと向かう私の足取りは軽やかだった。家を出る

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小説|ピンク・ポッド・ペアレント

小説|ピンク・ポッド・ペアレント

[オートログ 5532年15月4日 12:05 ククリリ ラボ棟第27号ラボ]

 ああ、やばい。やばいよな。絶対にやばいよな。確かここに置いたんだよ。置いた置いた。間違いなく置いた。それは覚えてる。確実に覚えてる。で、それを眺めてて……。さっき起きたら、無いんだよ。無いんだよここに。なんで? なんでだろ。テーブルの下には……無いんだよな。無いんだよ。さっき探したよここは。何回も探した。で、やっぱ

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小説|独房|みかん

小説|独房|みかん

「こんにちわ」
パソコンのディスプレイに緊張した顔が浮かぶ。男はまだ新しそうなスーツを着て、シルバーグレイのネクタイをしていた。
「はいどうも、こんちにわ」
私は何百回も繰り返した返答をした。
男は、もう一度こんにちわと言いながら、画面に向かって頭を下げた。

「じゃあ、面接ということでちょっと緊張しているかもしれませんが、まあ、リラックスしていきましょう」
「はい! ヨロシクオネガイシマス!」

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短編小説|飛び降りてください

短編小説|飛び降りてください

「このマンションに引っ越したいのですが」

吉田が選んだのは、しばらくワイドショーを賑わせている物件で、世界一の超高層マンションとして有名になっていた。

特に最上階までの10フロアにいたっては一般人が住めるような家賃ではなく、仮に入居が決まったら扱いは有名人にも引けを取らなかった。入居が決まるたびに、その人物の人となりがニュースに取り上げられ、最上階の住人はテレビに引っ張りだこになっている。

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ショートショート|おみくじ

ショートショート|おみくじ

俺はその日、山の中腹にある神社でおみくじを引いた。おみくじを開くとそこには「即凶」と書かれている。
なんだこれはと思っていると、それを見た住職が血相を変えて逃げて出した。すると突然、本殿が傾きこっちに向かって倒れてきた。おれは慌てて参道を引き返して逃げ出すと、ちょうど狛犬の乗っている台座の耐震強度がゼロになり2つとも重なるように落ちてくる。ハの字になって落ちてくる狛犬の隙間を、転がるようになんとか

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ショートショート|おかしくはない

ショートショート|おかしくはない

2階の部屋にいると、突然ベランダに大きく黒いものが落ちてきてもおかしくなかった。それはカラスで、頭がふたつあり羽は4つあってもおかしくなかった。

おれは驚いて尻もちをついてもおかしくはなかったし、その拍子に手に持っていたビールを床に落としてもおかしくはなかった。

空は晴れていて、春先のような風がふいていてもおかしくはない。目の前のベランダにある、このカラスのような化け物だけが違和感を放っていて

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超短編小説|忙しい

超短編小説|忙しい

最近忙しい。

いや、最近というかずっと忙しいような気もする。でも忙しいのは間違いないかも。だって休む暇が無い。もうずっと動きっぱなしで、とにかく大変です。

なんかもう寝てる暇もない。そんな感じがずっとしてる。寝てる暇がない、というのは大抵比喩的に使われるのだけれども、僕の場合は本当に寝てる暇がない。

だってもう寝たら大変だもの。もう本当に大変なことになる。だから寝る暇がない。

たまに少しだ

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