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引き裂かれた恋 (連載小説 4)


時間を止める方法があったらいいのに。
亜矢は真剣にそう願った。
半年ぶりに雅人と肌を重ね、これ以上望めないほどの幸せに包まれていた。

(やっぱり、雅人が好き。愛してる)
それを再確認した。
雅人の隣で、一つのベッドで眠りに就く。
それが生涯、続いていけたらどんなにいいだろう。

「雅人と暮らせたら、毎日幸せだろうなぁ」
雅人の腕に抱かれ、ベッドに横たわったまま亜矢は呟いた。

「そうだなぁ。僕もそう思うよ。亜矢、そのうち必ず迎えに行くから」
「でも、お母さん、説得できるかな? ちょっと不安だわ」
「大丈夫だよ。必ず説得してみせる。僕の兄も協力すると言ってた」
「えっ、お兄さんが? そうなんだ、味方ができて
嬉しいわ」

協力者がいる。それはとても心強いことだった。
不確定で不安を帯びている未来に、一筋の光が差し込んだようだった。

雅人と一夜を過ごした翌朝、外は驚くほどの快晴だった。
夕方の新幹線の発車時刻まで、雅人の車でドライブや食事をしたり、思う存分お喋りして2人の時間を過ごした。
途中、海岸沿いを通り抜けた時、亜矢は海上に目を向けた。台風が過ぎ去った後の海原は、キラキラと輝いて見えた。それは、2人の未来は幸福に満ちているという暗示のように思えるのだった。

次第に別れの時が、刻一刻と近づいてくる。
雅人と過ごした時間が充実して満たされていたからこそ、なおさら寂しさが忍び寄ってくる。

新幹線が到着するまでの間、2人はホームのベンチに座っていた。
別れが近づいているこの時に、寂しさと焦燥感が徐々に増していく。耐え難い時間だ。

(帰りたくない、雅人と離れたくない。なぜ別々の場所に帰っていかなければならないのだろう?)

心身共に、引きちぎられてしまうかのような痛みに襲われる。
もう、こんな別れは経験したくない。でも、あと
どれだけ経験しなければいけないのだろう。

「次は、僕が会いに行くよ」
「本当? いつ?」
「クリスマスに会いに行く。亜矢と一緒にクリスマスを過ごしたいからね」
雅人は柔らかな眼差しを亜矢に向けてくる。
「嬉しい! クリスマスに会えるなんて」

クリスマスまで、まだ3ヶ月はある。3ヶ月という期間は決して短くはない。でも、雅人を信じて待つしかない。
気づくと、軽い振動と共に新幹線の先が視界に入ってくる。やがて、滑るようにゆっくりと目の前で止まる。
寂しさが、一気に押し寄せてきた。
「また、離ればなれになるね」
そう言いながら、亜矢は立ち上がる。涙が込み上げてくる。
「うん……。でも、また毎朝電話するよ。亜矢、そんなに寂しい顔しなくても大丈夫だよ。次は絶対会いに行くから」
「うん、待ってる……」
亜矢は涙声で答えた。
後ろ髪を引かれる思いで歩を進め、新幹線に乗り込む。
雅人も座席まで一緒に付いてくる。
お互いに腰を下ろすと、雅人は愛おしみを込めた眼差しで亜矢を見つめ、唇を重ねた。
途端に感情が激しく込み上げてくる。
雅人が唇を離すや否や、
「離れたくない……」
そう呟くと、また亜矢の目から涙が零れた。
雅人は亜矢の背に腕を回し、きつく抱きしめた。
発車のベルが鳴る。
「じゃあね、クリスマスに会えるの楽しみにしてるよ。ちゃんと電話するから、ね」
「うん……」
雅人は立ち上がり、早足で出口へと向かう。
ホームに降りると、亜矢のいる車両の前に立ち、
手を振った。雅人の笑顔が、よけい寂しさを誘う。

新幹線がゆっくりと発進すると、車窓から雅人の姿がふっつりと消えた。
途端に、ドッと寂しさが押し寄せてくる。
雅人を信用したい気持ちと、次の約束が守られるのだろうか? という不安がない混ぜになるのだった。
亜矢はギュッと目を閉じ、余計な思考を追い出そうとした。


     つづく












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