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引き裂かれた恋 (連載小説 3)




もうすぐ雅人に会える。
期待と興奮で胸が高鳴る。
新幹線に乗車してから、じっと座ってなどいられないほど、ずっと落ち着かない状態だった。
雅人に会えるのは現実のことなのに、夢の中にいるようだった。

東京駅に到着すると、東海道新幹線に乗り換える。
車内は3割程度、席が埋まっている。
座席に座ると、先刻までは小雨だったのに、
次第に雨粒が激しく車窓を叩きだした。
予報通り、台風がこちらに近づいているのかもしれない。亜矢は不安になる。
同時に、車内にアナウンスが流れる。
台風の状況によっては、終点に到着する前に運行を取りやめる場合もあるという内容だった。

(困るわ、大阪まで行けなかったら、どうしたらいいんだろう? もし、途中で新幹線が止まってしまったら、雅人は迎えに来てくれるだろうか?)

最悪の場合、今回は会えないかもしれない。
せっかくここまで来たのに、全てが無駄になってしまう。

発車のベルが鳴り、新幹線が緩やかに発進する。
亜矢は胸の前で手を組み、ギュッと目を閉じる。
(お願い、絶対に大阪まで辿り着いて)

途中で新幹線が止まってしまうのではないかと
思って、気が気じゃなかった。
駅を幾つか通過すると、ますます天候が荒れてきた。
静岡で停車している間、窓を叩きつける雨が激しさを増し、外の景色が霞んで見える。
考えてみると今の時期、いつ台風が発生してもおかしくない。雅人に会いに行くのは、もう少し先に伸ばしたほうが良かったのかもしれない。
でもそうすると、彼に会えない期間がますます長くなる。それに耐えることが、果たしてできただろうか?

次の停車駅は名古屋。
必ず、絶対に大阪まで辿り着いて……。
だが、亜矢の望みも虚しく、恐れていたことが現実となった。
まもなく名古屋に到着する。そう思った時、
車内アナウンスが流れた。
名古屋で運行を停止するという知らせだった。
一時、車内がどよめく。
亜矢は愕然とし、一旦思考が停止した。

(いったい、どうしたらいいんだろう? 雅人に会うのは、もう無理なの?)

とりあえず、雅人に連絡しないといけない。
まだ勤務時間内だから、電話はできない。
メールで詳細を伝えることにした。
名古屋に到着し、亜矢は重い足取りで新幹線から降りた。改札を通り抜け、窓口で運賃の払い戻しの手続きをした。
とりあえず、待合室のソファーに腰を下ろす。
途端に、電話の着信音が鳴り響いた。
バックからスマホを取り出す。雅人からだ。

「メール見たよ。新幹線、名古屋で止まってしまったんだね」

雅人の声を聞いた途端、ホッとして泣きそうになった。
「うん、どうしよう? 今回は諦めたほうがいい?」
亜矢は涙声になった。

「行くよ!」
「えっ?」
「名古屋まで行くよ!」
「でも、遠いよ……」
「大したことないよ、亜矢に会いたいから! 
車で行くから時間かかるけど、待っていてほしい」
「嬉しい、もう無理だと思ってたから。雅人、ありがとう」

亜矢は逸る気持ちを押さえながら一階の待合室に移動し、雅人が到着するのを待つことにした。
窓から外に目を向けると、まだ夕刻前なのに台風のせいで薄暗い。そろそろ風と雨がピークに達しているようだ。通行人の差す傘が風に煽られている。
少し歩くだけで、ずぶ濡れになりそうだ。

この悪天候の中、雅人が無事に運転してこれるのか
心配だった。名古屋までは2〜3時間かかるだろうと言われた。

(大丈夫かしら?) 
待合室のソファーに座ったまま、亜矢は不安に襲われる。
台風で前方の見通しが悪いだろうから、運転は大変に違いない。雅人が到着するまで安心できない。
じりじりと時が過ぎていく。不安で呼吸することすら、苦しく感じる。

何度も腕時計で時刻を確かめる。既に2時間が経過している。
亜矢は溜め息をつく。周りを見渡すと、既に誰もいない。途中で新幹線を降りることになってしまった乗客達は、早々にホテルを予約するなどして駅から出て行ってしまったのだろう。
目を閉じ、無事に雅人が迎えに来るのを祈り続けた。

どれくらい時間が経ったのか、背後から「亜矢」と呼ぶ声がした。
振り返ると、雅人が立っていた。
亜矢は全身の力が抜けていくのが分かった。

「雅人!」

亜矢は立ち上がり、雅人の元に駆け寄った。

「無事で良かった、何かあったらどうしよう、って
すごい心配だったの」

言いながら、雅人に抱きついた。

「雅人、やっと会えて嬉しい……」
「僕も嬉しいよ、ずっと会えなくて、ごめん……」

雅人の両腕が亜矢の背に回され、ギュッと抱きしめてくる。

「良かった。会えなかったら、どうしようって思った……」

雅人の腕の中で、亜矢は今まで感じたことがないほどの幸福感に包まれていた。
いつの間にか滲み出た涙が、亜矢の頬を濡らしていた。


    つづく





























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