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引き裂かれた恋(連載小説7)


あと1週間でクリスマスだ。
先日、久しぶりに雅人から電話がかかってきて以来
連絡は途絶えている。
亜矢は希望を無くし、毎日淡々と過ごしていた。
それでも、もしかしたら会いに来るという連絡が入るのではないかと、期待も少しはあった。

とうとう明後日がクリスマスイブ、という日の夜。
ほとんど希望は失いかけていた。でも、もしかしたら? という気持ちもわずかに残っていた。

そろそろ入浴しようかと思った矢先、着信音が鳴り出した。
携帯を手に取ると、雅人からだった。
瞬間、心が浮き立つ。
(やっぱり、会いに来てくれるのかしら?)
亜矢は期待した。

「亜矢、まだ起きてた?」

「うん、起きてるよ。ずっと電話こなくて寂しかったわ」

「ごめんね。忙しくて……」

「もしかして、会えるの?」

「イヤ、今日電話したのはね……」
雅人は口ごもる。

どことなく不穏な気配に不安がよぎる。

「実はね、好きな人ができたんだ」

「えっ?」

(いきなり、何を言いだすんだろう?)
亜矢は、すぐには言葉の意味が理解できなかった。

「もっと早く言うべきだったけど、なかなか言いだせなかった」

「好きな人って、どういうこと? 急に何を言ってるの? 冗談でしょう?」

「驚かせてごめん。でも冗談じゃない。だから、
クリスマスに亜矢とは会えない」

思考が追いつかなかった。
「雅人、ちょっと待って。だって、その人と付き合ってるわけじゃないんでしょう?」

「イヤ、もう気持ちは伝えてる。何回かデートもした」

「ウソ、そんなことって……」
亜矢はまだ信じられなかった。

「好きな人、って誰? 私のこと、嫌いになったの? もう好きじゃないの?」

「亜矢のこと、嫌いになったわけじゃない。
好きな人っていうのは社内の女性で、時々社員食堂で一緒の席になるうちに、仲良くなって……」

「イヤ、やめて! そんな話し聞きたくない」

雅人が誰に心を奪われたのか気になるが、これ以上聞くのは耐えられなかった。

「結局は、もう会えない、別れるってこと?」
亜矢は問いかける。ほぼ、絶望しながら。

「うん。ごめん、亜矢……」

「謝らないでよ」

気づくと、涙声になっていた。
まさか、この電話で別れ話しになるとは、想像すらできなかった。

「結局、距離に負けたってこと?」
亜矢は声を震わせた。

「距離は関係ないと思ってた」
雅人が言う。

「でも、遠距離じゃなかったら、雅人が他の人に心を奪われるのを辞めさせることができたかもしれないわ」

話しながら、ふと思った。これ以上電話を引き伸ばしても、雅人の気持ちが変わるはずもないだろう。話せば話すだけ、虚しさを感じていた。

(もう電話を切ったほうがいいだろうか?)

少しの間、沈黙が支配する。

「亜矢、大丈夫か?」

「大丈夫じゃないわ……。少し、考える時間をちょうだい」

そう言い放つと、自ら電話を切った。
本当は動揺して、考える余裕などなかった。
亜矢は崩れるように、その場に座り込む。

(なんで、こんなことになるの? 私、何もしてないのに、何も悪いことしてないのに。ずっと、雅人と一緒になれることだけ夢見てきたのに……)

亜矢はしばらく、放心していた。
そして、気づくと泣いていた。

(どうやって、雅人を諦めたらいいの?
今まで巡り逢った人の中で、雅人が一番好きなのに……)

雅人を忘れるなんて、到底不可能としか思えないのだった。
亜矢はひとしきり泣いた。
失恋は初めてではないのに、まるで初めての経験のように混乱していた。
心はバラバラに引きちぎられたみたいに
ズキズキと胸が痛み出す。
今、自分が世界で一番不幸にさえ思えるのだった。


       つづく











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