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#みんなの文化 (曳航の足あと) No.3

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みんなの文化 第3号目です。 大体、250~300ページで、次号へ向かいます。 こちらでは、わたしの代弁をしてくれる、あるいは、わたしを新しい世界へと導いてくれた大切な記事を、…
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#詩

〈小林秀雄試論〉全

〈小林秀雄試論〉全



1.はじめに
作品は何処へ帰着するのか、という問いが、批評にとって重要に思えるのは、そのことが、批評の言葉の帰趨を決定するように思われるからだ。だが、もともと作品は(ということは批評も)、どこかへ帰着する必然性を備えた存在なのだろうか。こういう疑念は、詮じつめれば言葉というものが、一体、誰の所有に帰属するのかという困難な問いに収束していくように思われる。現在まで、この

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コラム

〈小林秀雄 試論〉
   
  7. 回帰
小林秀雄の生涯は、何故か生き急いだ人のそれのようだ。そして多分そのように見えるのは、小林秀雄という傑出した才能と資質に〈戦時期〉という我が近代最大の劇的な一幕が用意されていたからだ。やがて、彼の魂が演ずるドラマの舞台は、彼の生きた時代とともに一挙に暗転する。『肉体の動きに則って観念の動きを修正するがいい、前者の動きは後者の動きよりはるかに微妙で深淵だから

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 〈小林秀雄 試論〉

 〈小林秀雄 試論〉

  

6. Xへの手紙 その(2)
現代に知識人など存在可能かという〈知的な〉問いはしばらく置くとしても、現在の日本のインテリと自称し他称される者たちに、『書物に傍点を施してはこの世を理解』するような『こしゃくな夢』を持つ者がいるとは到底思えない。何故なら第二次世界大戦後、全世界がアメリカナイズされていったことで、かって近代的知識人の自意識にとってプラトニックな憧れでありかつコンプレック

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コラム

〈小林秀雄 試論〉

5.Xへの手紙(その1)

「私小説論」の全体に漂う不透明な印象、もっと違う言い方をすれば、強烈な自意識の輝きが弱まり、鈍い翳りが漂っている。この翳りが小林の実生活のどんな体験に由来するのか、という疑問が入口である。
人は現実の中のどんな衝撃的な体験でも、その意味を真に納得するまでには、いくらかの歳月を必要とするようなのだ。つまり、その後過ごす歳月の合間、合間にその体験

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現代詩

〈かくめい〉

あのね
結婚したから

娘は

近くのコンビニに
アルバイトに行くように

しかも

他所(よそ)の家の
敷居さえまたがずに

嫁いだ

とついだ?

トツイダ

という音が

意味を構成しない
くらい

嫁いだ は
瞬時に
壊れて

見知らぬ
国語
をあらわす


なった

あらためて
国語
と書いてみると

このコクゴ

変だ

この
変だ は
もっと

ヘンだ

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現代詩

〈娘の四季〉

結婚したから
といって
知らない誰かに

娘が

知らない場所で

痛い思いを
するのは
嫌だ

あの日は
深い
鍋を
被った
ような
夜が明けて

遅い昼を
手練れの
まかないに
急がせた
はずなのに

たっぷりと
暮れた
次の夜を
もう
その身
一つに
迎えている

そのうちに

薄衣の夏を越して
おのづから
秋を見送り
鞭のように
峻烈な
冬に籠る

やがて

見知らぬ

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コラム

〈小林秀雄 試論〉

4.初期小林秀雄をめぐって~その(2)

19世紀半ばのロシヤの若い作家たちのことはいったん置くにしても、小林秀雄がここで言及しているわが国の作家たちが、「これ」即ち「自然主義文学の運動」を「行う必要を認めなかった」にもかかわらず、「自然主義文学」を輸入し「遂に独特な私小説を育て上げるに至った」経緯は、わが国に外来思想が見当違いに受容され流行しても、その「新製品」が輸入さ

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コラム

〈小林秀雄 試論〉

3. 初期小林秀雄をめぐって その(1)

初期小林秀雄は、作家や作品の解析と批評家の自意識を等価とみなすことを批評の方法とすることで、批評家としての出発を遂げた、と言ってよい。これは、ある作品を論ずる批評の言葉の描く軌跡は、批評家の自意識の描く軌跡に他ならないということを意味している。小林秀雄がボオドレールを、引き合いに出した言い方をを借りれば、(ボオドレー

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コラム

〈小林秀雄 試論〉
2.批評家誕生
近代批評に作者と作品について論ずるその仕方を尋ねれば、おそらく次のような言葉を聴くことができるはずだ。〈・・・作品の背後には作者という具体的な顔を持つ一人の人間が立っている。この場合の作者とは他の人々には窺い知れない資質と個性をたずさえ、他の誰かと取り替えのきかない具体的な生涯という軌跡を描いた(描きつつある)ある人物のことを指している。けれど、この人物は

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