汗牛充栋ーー「社内にある数百冊の本を全部読みなさい」と社長に言われた新人時代
(1765字・この記事を読む所要時間:約4分 ※1分あたり400字で計算)
【汗牛充栋】
ピンイン:hàn niú chōng dòng
意味:牛が汗をかきながら運ぶ大量の本、天井に届くぐらい多くの蔵書があること。
『「社内にある数百冊の本を全部読みなさい」と社長に言われた新人時代』
新しい会社に入ったら、最初の頃は業界関連の専門書をひたすら広く浅く読み漁る。
これは私が持っている、地味な癖の一つだ。
この癖がついたきっかけは、社会人になって初めて会社に入社した頃に遡る。
当時の職場は、やたらと本が多かった。
小さな事務所にも関わらず、大きな本棚が3-4個ドーン置かれてあって、それが作業部屋と会議室を仕切る壁の役割にでさえもなっていた。
中身は、ほとんどが専門書。
業務のヒントになりそうだと思ったのか、ジャンルがバラバラな雑書もちらほらあった。
新入社員にはまず研修期間というものがある。
簡単な学習資料を数枚渡され、先輩の後ろにつき直に業務を見て覚える見習い期間だ。
その研修期間に入る前に、私は社長に呼ばれ、一つ特別な「業務命令」を下されたーー
『会社の本棚にある本を、全冊読みなさい』。
精読で無くても良い。
分からない部分は飛ばし読みでも構わない。
中には技術情報だけがぎっしり書かれている本もあるけど、それも一通り目を通す。
とにかく、研修期間が終わるまでに必ず全冊の本を手に取りなさいということだった。
こうして、一味違ったスタイルで研修が始まった。
朝、早めに出社して本を読む。
先輩方が来たら、一旦本を置いて雑務を手伝い、手が空いたらまた本を読む。
出張の移動時間、電車で本を読む。
帰宅後や、週末に本を持ち帰って読む。
数百冊にもなる大量の蔵書だ。急がなければ当分間に合わない。
来る日も来る日も、とにかく時間さえあれば本を読んだ。
最初の頃はさっぱりだった。
特に技術書は内容が難しい分読み進めるのも一苦労で、取り敢えず読み切る為にもひたすら内容を飛ばし飛ばしで読むしかなかった。
毎日大量に新しい知識を頭に詰め込むので、脳みその負担も酷かった。
とにかくぼーっとする。同じ行を何度読んでも頭に入ってこない。
睡魔にやられそうになりながらも、根気強く進めた。
なんだかんだで一冊一冊と片付いた。
そのうち、いつしか大体のパターンが見えてくるようになり、そこから一気に面白くなった。
異なる書物同士のつながりに気付け始めた。
「そういうことだったのか!」といった閃きが増え、好奇心が刺激され「もっと色々知りたい!」と読むスピードがアップした。
効果が出てきたのは読書だけではない。
最初はチンプンカンプンだった社内会議も、次第に一部の用語を聞き取れるようになった。
お客様との打ち合わせで何か言われても「あの本で出てきたことだ!」とピンと来ることが増えた。
大量の専門書を読むことで、業務を覚える速度も一段と速くなったのだ。
短期間で数百冊もの本を読んでも、もちろんプロになることはない。
時間の制限もあり、じっくり理解する暇もない。
それぞれの本も一回ぐらいしか目を通す機会が無い。
こんな適当に多読をしても何がどうなるのかと思われるだろうが、大事なのは脳内に「ひっかかり」を作ることだ。
常用の用語、大事な概念は何度も本に登場する。
別々の本であれ、同じ業界のものであれば基本的な情報、強調すべきポイントはほぼ変わらない。
それを何冊も何冊も読めば、自然と何が大切なのかが分かってくる。繰り返し出て来る用語も、いつの間にかすっかり脳内に定着している。
こうしてざっくりとした業界知識の枠組みを掴めた上で業務に取り掛かかれば、覚えも速くなる。
社長はこれを狙って、私に『会社の本棚にある本を、全冊読みなさい』と言ったのだ。
あれから数回転職したが、どの会社に行ってもこの癖は残っていた。
新人時代は、とにかく本を読み漁る。
図書館から専門書を借りて読んだり、本屋を回り気になった本は自腹を切って購入して読んだり、社内のあちこちに置かれた先輩方々の参考書を借りて読んだり。
こんなので専門的な知識が身に付くわけなんてないが、「ひっかかり」を脳内に持っただけでも仕事への馴染みやすさが格段に上がる。
新社会人時代に異色な研修スタイルで育ててくれた社長には、今でも感謝している。
なかなか仕事を覚えられないと悩んでいるのなら、取り敢えず関連書籍をひたすら読む期間を設けてはいかがだろうか。
きっと突破口が見えて来るはずだ。
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