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ちょっとした物語

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主に夜中と夜明けに浮かんだ物語たちをちょこっと。
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アイスクリームとアイスクリームと、

アイスクリームとアイスクリームと、

パシャリ、と音がした。

「やあっと会えたー、もう。人が多すぎるのよね。」

ほんとさー、なんで金曜日ってこんなサラリーマンやら学生やらもう、勢ぞろいすぎよねえ。

ぶつくさと文句をたれる彼女の、横顔を見つめた。

「ほんとそうね。」

――黒い髪、黒い瞳。

さっきあがったばかりの雨が残していった水たまりを踏んだのは、彼女の足だった。
いまここに、むさ苦しいほど大勢の人々それと何ら変わらない。

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ひねくれ者のうた

ひねくれ者のうた

人は、他人の不幸で安堵を得る。

その人の絶望の中に共感を見出し

そのシンパシーに慰めを得る

絶望の中にある虚弱な使命を

惰性で繰り出す様に

私たちは自分たちを重ねる

絶望という悲しさに

虚無というやるせなさに

弱さというもどかしさに

捻くれた慰めがあることを

私たちは知っている。

子守話

子守話

もう一度、目を開けてみる。
暗闇に慣れたのか、ぼんやりと薄い灰色の景色が広がる。気が紛れるだろうと思ったが、そうでもない。落ち着かない心を表すかのようにゴソゴソと動き回る。頭の下に違和感。身体をずらしてそれを引き抜く。と、灰色の景色に鋭い光が灯った。
4:48。
時を刻む嫌な音が次第に鮮明になってくる。
ジッ、、ジッ、、ジッ、、ジッ、、、、
――もう、何度これを繰り返したのだろう。
いつまで経って

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片道切符の旅は、私たちをもっと自由にする #旅とわたし

片道切符の旅は、私たちをもっと自由にする #旅とわたし

「旅に出る前と出た後で、人生がどう変わったか?」と問われたら、何と答える人が多いのだろう?

「全然変わらなかった」「旅なんて、ちっとも面白くなかった」「本当に素晴らしかった」「ぜひもう一度」。

様々な意見、それこそ十人十色の意見があるだろう中で、もし私が答えるならば、「旅は私のすべてを塗り替えていった」。その返答以外、ない気がしている。

長い旅――、つまり最初の世界一周と、行き足りず思わず続

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さすらいごころ

本当に、こんな面相になるんだなあ

すすっても戻らなくなった鼻水を拭いに洗面所までティッシュを取りに行った、そこの鏡に映った、目の下の真っ黒なしずく模様に苦笑いする。

ウォータープルーフのマスカラだったら、こんな風にはならなかったのかしら。
手でゴシゴシこすっても消えないその痕跡を、クレンジングで一から洗い流す。

―――何に惹かれて、私はあの人がこんなにも好きなんだろう。

そう問いかけた時、

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