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アイスクリームとアイスクリームと、




パシャリ、と音がした。


「やあっと会えたー、もう。人が多すぎるのよね。」

ほんとさー、なんで金曜日ってこんなサラリーマンやら学生やらもう、勢ぞろいすぎよねえ。

ぶつくさと文句をたれる彼女の、横顔を見つめた。

「ほんとそうね。」



――黒い髪、黒い瞳。



さっきあがったばかりの雨が残していった水たまりを踏んだのは、彼女の足だった。
いまここに、むさ苦しいほど大勢の人々それと何ら変わらない。

「映画館って、あっちだっけ。始まるにはまだ早いよね。」
どうしよっか、とスマホをいじる彼女の横を、人の波を縫うようにして歩いていく。


そうでないと分かっていてもまた、あの腹の中をスプーンでえぐられるような感覚に蝕まれる。
――視線、視線、視線。

私に注がれる、向けられる、
〝異〟に対する好奇心、恐怖心、軽蔑。

雨上がりの快晴が、水たまりに歪んで映る。



「ね、アイス食べよーよ、アイス!」
ほら見て、と彼女が指す指の先に、見慣れたアイスクリーム屋。
「え、もう夏終わったよ?ちょっと肌寒いくらいだし。」
「だから良いんじゃん、なんかトクベツって感じじゃん。」
はやくはやく、と彼女はもうどの味にしようかとメニューを食い入るように見つめている。口が半開きだ。

「バニラ、レギュラーサイズで。」
私は、バニラが好きだ。王道で、真っ白で、混じり気がなくて。誰もが好きな味。

「私はー、ピスタチオと、、、キャラメルのダブルで!」
エエッ、
「二つも食べるの?!」
「二つじゃないもん、二つで一個なんですー。何よ、バニラ?そんなんでいいの?もったいなーい。」

バニラ味を持ちながら突っ立っている私に、フンと突っ張った態度で彼女がそう言った。
一体、彼女のもったいないの基準は何なのか。
店を出る。相変わらずの空が、さっきより高くなっている気がした。

「ウ~、、やっぱちょっと寒いな、、。」
「だから言ったじゃん。」
「いいの、美味しくて幸せだから。」

食べ進めるスピードが遅くなったからか、この気温でも二つのアイスクリームは溶け始めているようだった。


私は、味が混ざった料理が大っ嫌いだ。
まず、見た目が悪くなるし、味だってよく分からなくなる。
なんで、わざわざこれにこれを一緒にしちゃったかなあ、なんて恨んだお店は数知れない。
アイスクリームなんて、特にそうだ。
一つの味にもう一つ違うのを直接のっけて、しかもそれが溶けてドロドロに混ざっていく様なんて、もう見てられない。
夏のアイスクリームは言うまでもない。

「ねえ、嫌じゃないの、それ。味混ざるじゃん。絶対まずい。」

ピスタチオ味とキャラメル味の境目がどんどん無くなってきている物体を見て、眉をひそめながら私が言った。

「何言ってんの。これは混ざるから良いんじゃん。」

ちょうどその境目をスプーンで掬いながら彼女が言った。

「これが好きでアイスクリーム食べる人、多いと思うんだけどなあ。」


彼女が私を見る。黒い瞳。


私だけかな?いや、絶対違うな。だってこないだなんて、なんとかちゃんは、、、
また彼女のぶつくさが始まる。




私は、突如襲ってきた言いようのない切なさと、胸の下の方から流れ込んでくるあたたかな安堵感とに戸惑い、思わずその黒い瞳をジッと見つめた。

え、なに、どうしちゃったの。あっ、分かった。これ、食べてみたくなったんでしょー。

ほら、ほら。と彼女は私の口先にキャラメルピスタチオ味のアイスクリームを差し出してくる。
ほら、と、終わらない命令とその屈託のない瞳に負けてそれを口に含む。大っ嫌いなもの。

 あー、ほら、意外とおいしかったんでしょ!その顔はそうだな。

得意げにまたぶつくさを始める彼女の隣を歩く。
空に溶け込むようにして浮かぶ雲が、私の目に映った。

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