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本から見える景色

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私の「手すり」となってくれる必需品。 自分の好きな本から考えたことをつらつらと
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誰かの言葉が聞きたくて、イヤホンを外して街を歩きたくなる本ー穂村弘著「彗星交叉点」ー

誰かの言葉が聞きたくて、イヤホンを外して街を歩きたくなる本ー穂村弘著「彗星交叉点」ー

外出時、私は大抵イヤホンをつけている。

イヤホンはノイズキャンセリング機能がついていて、話しかけられる用事がない限り、はずさない。電車の中や目的地へ向かう道では、外の音がほとんど聞こえない状態がとても落ち着く。

イヤホンが欠かせない理由は、他人の会話を聞くのがあまり好きではないからだ。電車の中でたまたま聞こえた愚痴に不用意に傷つく。電話越しに怒っている人の声を聞くと恐怖を感じてしまう。自分が好

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言葉が紡げなくなった私は、本と対話をはじめた。

言葉が紡げなくなった私は、本と対話をはじめた。

文章が、書けなくなってしまった。

いつもなら思ったことはそのまま言葉にできるはずなのに、最近はうまく言葉にできなくなってしまった。心の中で「ことば」になる前のもやもやとした輪郭はつかめるけれど、それは形になる前に、霧のように消えてしまう。

そのたびに、残像が雨になって私のこころは少し悲しくなる。

はたから見ると全然大したことのない変化かもしれない。確かにそういう時があっても不思議はない。でも

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「与える人か受け取る人。あなたはどちらになりたい?」~中島岳志著「思いがけず利他」より~

「与える人か受け取る人。あなたはどちらになりたい?」~中島岳志著「思いがけず利他」より~

留学中、授業のインタビューを受けていた時、ふいにこの質問を投げかけられた。ビデオガメラ越しに見つめられるキラキラした目を見て、私は喉の奥が詰まる感覚がした。なぜなら、聞かれた質問に登場する2つの言葉が、自分にとってはどちらも遠い言葉だったからだ。

「giver」つまり「与える人」とは、私にとって「助けられる人」「救える人」とほぼ同義だった。私は誰かを助けるためスキルを何一つ持っていないと思ってい

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「わからない」の先に、私たちは立体的な景色を見る。~鷲田清一著 「濃霧の中の方向感覚」より~

「わからない」の先に、私たちは立体的な景色を見る。~鷲田清一著 「濃霧の中の方向感覚」より~

はっきりとした意見を言えなくなってしまった。

そして、はっきり明確に話す人のことを直視できなくなってしまった私は、弱くなってしまったのか。

数年前の私は、意見をはっきりと言うことが美徳だと思っていた。
その根底にはみんなに「お~。」と言ってもらいたい自己顕示欲と、それくらい自分の言うことに自身を持っていたからだと思う。

そんな私は2年前にひょんなことからデンマークのフォルケホイスコーレに出会

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進路に迷い、疲れ切った私を支えてくれた本~ユルスナールの靴~

進路に迷い、疲れ切った私を支えてくれた本~ユルスナールの靴~

なんてきれいな装丁なんだろう。と思った。

柔らかいクリーム色で全体が覆われ、表紙の少し上に海の地平線が長方形に切り取られている。そこに黒の明朝体で、本の名前と作者名が書かれている。
手に取ってみると、程よくつるっとした質感。新品だったらもっとつるっとして張りがあったのかもしれないが、不思議と手になじむ感覚は、その本がいろんな人の手に渡ってここまでたどり着いたことを物語っていた。

題名に出来る「

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2021年、私の「手すり」になってくれた本10選

2021年、私の「手すり」になってくれた本10選

2021年。この年を「今年」を言えるのも、あと数日。

今年は本当によく本を読んだ年だったと思う。
私は普段から本が好きで、定期的に読む方ではあったが、今年は異常だった。

常にカバンに3冊入れて、移動中はそれをとっかえひっかえしながら読む。いつも手元に本が数冊ないと不安になるような、軽い読書中毒状態。
特に、秋から冬にかけては、卒業研究も追い打ちをかけ、私は毎日家にこもり本の世界に閉じこもってい

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