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小説『衝撃の片想い』シンプル版

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大長編小説『衝撃の片想い』のシンプル版。読みやすく直しました。よろしくお願いします。
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#連載小説

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】⑥

小説『衝撃の片想い』シンプル版【第四話】⑥

【北の海原】



午後六時。利恵が深い眠りに就いたのを確認し、ゆう子に通信してみる。リングを見ながら、話しかければいいのだった。通信を受けたゆう子は、
「今はだめです。もうすぐ帰るから、あとで部屋にきて。副作用なんですか? なんでもするから」
と言っただけで、通信を切った。
――なんでもするとかじゃなくてさ…。
嫉妬して怒っているなら、謝ろうと思っていた。
付き合っているわけじゃないから浮気と

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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】⑦

小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】⑦

【水着の写真】

カバーイラスト 藤沢奈緒さん



ゆう子がメイクを直して、部屋に戻ってきた。
「俺が車の影に隠れたのを見てた?」
「うん」
ベッドの横に椅子を持ってきたゆう子は、なぜかショーツを白に替えていた。
「す、すまん。かわいいけど、ちょっと見えないようにしてくれないか」
苦笑いして頼むと、ゆう子は何も言わずに太ももの上にバスタオルを置いた。
「レストランから出てしばらくは体調が良かっ

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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】⑥

小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】⑥

【副作用の特効薬はゆう子】
10月23日、誤字修正



ホテルの部屋に瞬間移動された友哉は、立ち上がれないほどの疲労感で、転送されたその場で倒れこんだ。
「これが転送?また覚えてない」
「そんなことより……」
ゆう子は泣いていた。化粧がはがれるくらいだった。
「む、胸を……」
ゆう子が友哉の胸に手を伸ばした。震えてる。恐る恐る触り、ゆう子は自分の手を見た。
「血が出てない……」
「大丈夫だ。撃

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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】⑤

小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】⑤

【血に染まった町】



自動小銃を撃ちながら、レストランに向かい歩いてくる男は、宗教の言葉を叫んでいた。友哉にはそれの意味も分かった。「我々の神は偉大だ。世界を創造したのは我々の神だ。資本主義社会は間違えている」と言っていた。
歩道にいた人たちが壊れたロボットのように倒れていく。
そして路面が赤く染まった。
「やだー!」
ゆう子がホテルの部屋で悲鳴を上げている。
「奥原、落ち着け!絶対に窓から

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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】④

小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】④

【アウシュビッツ】



ワルシャワの街にあるレストランに、友哉は一人で入店した。
店内は木の椅子、木のテーブルばかりで、あまり人工的な小物も飾っていない温もりを重視した店のようだ。
ゆう子は近くのホテルに待機して、そこから指示を出す形になっていた。東京でもそういうやり方だとゆう子は言った。
窓際の席に座った友哉は、自分が店員とポーランド語が話せることに気づいた。空港やホテルでは、ゆう子が仕切っ

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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】③

小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】③

【約束―君を死なせない】



友哉はリングの光の効果で熟睡している、裸の奥原ゆう子を見ていた。
日本でもっとも有名な女優の一人だ。
女性がなりたい顔の二位。男性が恋人にしたい女優の一位。結婚したい女優の二位に君臨している。
彼も疲労困憊だったのもあり、ジロジロ見ているわけではないし、触ってもいない。
――あの大人気女優、奥原ゆう子と一緒にベッドにいるのか。同じ業界だし、確率的にはなくはないが信

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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】②

小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】②

【わたしを信じて】



「娘さんと楽しそうにしていたあの頃のあなたに戻してあげたい気持ちもあるの。でも、わたしの場合はいろんなことがばれて、わたしがあなたに嫌われると思う。女らしいことができないからさ。しかも、わたしみたいな女は優秀な男性には嫌われて当たり前なんです」
「俺は優秀じゃない。君が有名な美人女優で一般の男に嫌われる理由があるなら、その男が平凡ということだ。自分に自信がない。君のよう

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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】①

小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】①

【わたしがあなたを守ります】

(10月17日。誤字など修正しました)



空港に到着後、ワルシャワのホテルにチェックインする。
部屋に入ると友哉はすぐに、「SF映画に出てくる転送ってやつが本当にできるなら、その練習をさせてくれないか」と、シャワーを浴びに行こうとした彼女を制した。
「シャワーに向かう女を止める男の人…」
ゆう子がうんざりした顔で言った。
「女のシャワーは長い。嫌いじゃないが、

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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第一話】⑨

小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第一話】⑨

【二度目の衝撃】



奥原ゆう子は、今日、初めて会った佐々木友哉にひどく緊張していた。
眠れないのだろうか。何度も彼はトイレに立ったが、その背中を目で追っている自分を止めることができない。
――思ったよりも、ずっと、ずっとかっこいい。しなやかに歩く所作と言い、緩急をつける喋り方。サングラスの外し方…。しかもなんてスリムで筋肉質なんだ。
「体重は何キロですか」
と、寝る前に訊いたら、「57kg」

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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第一話】⑧

小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第一話】⑧

【病気を治す神秘の光『Marie』】

「友哉さんが、テロリストと戦っても誰か分からないようにする作戦も練ってあります。AZには高度な技術からくだらないマニュアルまでなんでも入っています」
「くだらないマニュアルって」
ゆう子は少しはにかんだ。
「友哉さんの女性の服装の好み、下着の好み、セックスのプレイの好み。…データに入ってます。分かるそうです。下着の好み……薄い色のを持ってきましたよ」
「洋服

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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第一話】④

小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第一話】④

【涼子を知らないゆう子】



友哉は彼女に気づかれないように、小さく深呼吸をした。
「わたしのファンじゃなかったみたいですが、そのうち好きになりますよ。そういう運命なんで。きっと律子さんも忘れられます」
あっけらかんと言い放つ。
「律子のことも知ってるのか」
少し語気を強めると、
「怒り出しましたね」
ゆう子は怖がった様子も見せずに言った。
「怒ってない。まっとうな怒りだ」
「怒ってないまっと

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小説『衝撃の片想い』シンプル版【序章】①

小説『衝撃の片想い』シンプル版【序章】①

【序章】国民的人気女優の決意①

「息苦しい。お酒の飲みすぎかストレスかわかんない」
女優の奥原ゆう子はベッドの上で胡坐になって、心臓の辺りに手を置き、ゆっくりと胸を擦った。パニック障害の発作だった。しばらく深呼吸をしていて、そのうちに横になり、浅い眠りに就いていた。
ゆう子は27歳。二年ほど前からパニック障害の発作が出るようになった。慕っていた父親が死んでから体調が悪くなってきていた。
――お父

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