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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】⑥

【副作用の特効薬はゆう子】
10月23日、誤字修正



ホテルの部屋に瞬間移動された友哉は、立ち上がれないほどの疲労感で、転送されたその場で倒れこんだ。
「これが転送?また覚えてない」
「そんなことより……」
ゆう子は泣いていた。化粧がはがれるくらいだった。
「む、胸を……」
ゆう子が友哉の胸に手を伸ばした。震えてる。恐る恐る触り、ゆう子は自分の手を見た。
「血が出てない……」
「大丈夫だ。撃たれた時は死んだと思ったが……」
友哉は鋭い眼光で部屋の窓を見た。
「あー、くそう!」
突然大声を出す。
「あの野郎、ぶっ殺してやる。まだいるのか!」
友哉の怒りは収まっていない。立ち上がろとして、たがふらついて座り込んでしまった。
「レストランの防犯カメラとGPSから見た。奴らは死にました。あなたがやっつけたの」
「仲間を探し出して、皆殺しにしてやる。ふざけやがって。世界遺産を狙ったテロだ。アウシュビッツも広島も長崎も知っていた。ジェノサイドを嗤いやがって、許さない」
ゆう子は驚いた。友哉はまさに鬼の形相をしていたのだ。
――こんなに変わるんだ。昨日まで適当な顔をしていたのに。それに…あの遺言のような台詞…。昨夜はありがとうって…あんな時に…
「おい、この疲労感はなんだ。心臓が止まりそうだ。一瞬、気を失った感覚があった」
「転送の消耗の回復まで五分ほどです。仮眠は約二十秒。でも戦った分、もっと疲れているんです」
ゆう子は彼をなだめるように背中を擦った。
ゆう子が触れる度に、友哉は自分の体力が戻ってくるのが分かった。
ゆう子の水色のインナーが窓から射し込む西陽に光っている。
いったんベッドに移動して、友哉は横になった。ジーンズの膝の部分が破れていて、ゆう子が気に入ってくれた赤いアウターにもアスファルトで擦った傷がいっぱいついていた。
「どこを撃たれたの?血は出てないけど」
「脚を撃たれていたのは分かっていた。トキがくれた不思議な力が弾いたようだ」
「良かった。本当に良かった」
ゆう子は泣きながら、友哉の体を擦っていた。
「逃げないで戦いに行くんだもん」
「助けに行ったのに逃げるなんて、恥ずかしい真似が出来るか。矛盾してるじゃないか。君だって、すぐに俺を転送しなかった」
「あなたがダメだって言うし、AZは大丈夫だって言うし」
「大丈夫なわけねえだろ。自動小銃、撃ちまくりだ。戦場じゃあるまいし」
「怖かったね」
「怖くない。あんな猿。だがレストランではパニックになった。狙われるのは違うレストランだと思ってしまった。あの時、冷静に対処していれば被害をもっと少なく出来た。トキになんと言って詫びたらいいんだ」
「トキさんに?」
「俺なら、この銃を使いこなせるってニュアンスだった。警察官が撃たれた後、すぐにRDってやつで奴らを撃ち殺せば……信じてなかったのかも知れない。あんな鋭い光線が放たれるなんて」
どこか泣きそうな顔に変わった。ゆう子は驚いて、
「そうだったんだ。ううん、初めての戦い、頑張ったよ。そのうち、使いこなせるようになるから。それに体は大丈夫ね。この時代の弾くらい弾き返すのね」
と言い、優しく肩を抱いた。
――トキさんに信頼されたのに、裏切ってしまった気分なんだ。自分に失望してるんだ。
「そうかもしれないが、ただで体を守ってくれるはずがない」
すでにテーブルの上に置かれてあるAZをゆう子が操作する。
「そうですね。リングが赤く光ったら、プラズマで体の表面を覆うみたい」
「プラズマ? プラズマの電磁波? 壁?」
「この時代の。トキさんの時代か国には、違う名称の同じプラズマがあるみたい。リングの赤い点滅はレーザーパルスだからそれも兼ねているようです。ただ、今のように疲労が回復しないうちだと、素早くプロテクトしない。または、プロテクトするけど一瞬。プラズマが出たり、無くなったりする。だから、洋服が破れてるのね。それでも、友哉さんの体の筋肉も硬くなっているから、銃やナイフくらいは平気のようです。それはプラズマではなくて、普通に筋肉」
「普通に筋肉? 筋肉が銃弾を弾き返すはずがない」
友哉が自分の右手で、左の二の腕を握った。ボクシングをしていたから綺麗な筋肉の筋が浮かんでいたが、人間のそれである。
「攻撃を受けたりして血圧が上がると、筋肉が死後硬直みたいになるそうです。人間の筋肉ではなくて、サイの祖先のって書いてある。気持ち悪い」
「俺はサイなのか」
「違いますよ。男の人は精力をつけるために、マムシとか飲んでマムシになりますか。血中にあるの。いろんなのが」
ゆう子はため息をついた後、
「どんどん出てくる」
とAZの画面を見せた。様々な動植物の名前が画面の表面に浮かんでいる。
「生薬と最先端技術のハイブリッドか。二重、三重に俺を守っているのか」
「どれも、友哉さんが疲れてくると、発生が遅れたり、効果が弱くなるそうです。健康体の時はどんな弾でもミサイルでも平気だけど、転送して疲れていたり、日常生活でストレスを溜めたりしていて、普通に疲れていても防御する効果が薄くなるみたい」
「個々のシステムは理解できるが、仕組みが理解できない。つまりスイッチはどこにあるんだ」
「基本は友哉さんの血圧って書いてある。血圧が上がるとリングを通してそれに反応して、様々な物質が発生するそうです。血圧と関係ないのはRDだけで、拳銃の地核のエネルギーは拳銃の中に圧縮されて収められていて、拳銃の表面はロンズデーライト」
「ロンズデーライト?」
「ダイヤモンドよりも硬いやつらしい」
「それは溶けるんじゃないか」
「冷却装置が銃の中にあるそうです。当たり前ですよ」
「地核のエネルギーがどうしてガラスを溶かさないんだ、あの扉だよ」
「さあ、わたしに聞かないでください」
「君以外の誰に聞けばいいんだ。まあ、いい。このリングを使って痛みを取ったりしてもそれで疲れる。こんな悪循環があるか」
「うーん…」
「なんだ。まさか人を殺すと力が出るとか、疲れたら黙って殺されるしかないとか、絶望的な答えか」
「初めての仕事でストレスがひどかった友哉さんがさっき撃たれたのに平気だったのは、わたしのおかげみたいです」
友哉があからさまに首を傾げた。
「昨夜、わたしと寝ましたよね?」
「添い寝だ」
「実はやったとか」
「やってない」
「裸で寝ちゃったからジロジロ見たとか」
「少しは見るよ」
「興奮した?」
「何をもって興奮なんだ? 犯してないなら、平静だよ」
「た、た……」
「たった! 当たり前だろ!悪いのか!生理現象だ!」
「ありがとうございます!代わりに言ってくれて!」
「ケンカしてる場合か」
「あなたが怒鳴るからです」
「笑える状況じゃない。CIAかインターポールか米軍基地に侵入して、奴らの仲間を探せ」
「ダメ。友哉さんが完全に回復するまで休み」
「どうしたら、この深海に落ちたような疲労感は治るんだ」
友哉はずっと息切れをしている。
「わたしです」
「?」
ゆう子が冷蔵庫から、水を持ってきて、「喉が渇いてるでしょ」と言い、病人に飲ませるようにコップを友哉の口につけた。
「わたしが友哉さんの傍にいないといけない理由。部屋でメイクして待機していないといけない理由。友哉さんがその力を使えば、ずっとセックスができる理由」
「まさか、転送されたり、このリングを使って誰かのケガや病気を治したりして疲れても、君が傍にいて、触ったりセックスをしたりしたら早く回復するってことか」
「そうです。セックスやエロチシズムで回復するようです」
「血流?」
「はい」
「どうしてそんな仕組みになってるんだ」
「トキさんの世界では、男性が何かの原因で筋力と精力を一時失ったらしいです。恋愛感情も乏しくなったために女性を欲しくなるように開発された薬らしいです」
「それはトキから聞いた。精力がすごくなっている。昨夜、君を抱かなかったのは俺も疲れていたからだ」
「フォローありがとう。本当はわたしがデブだからでしょ」
ぷいと横を向いた。
「少しな」
「はあ?フォローしないの?」
「昨夜は裸。今は下着姿。楽しませてもらってる。俺は嫌いな女は醜く見えて見ない。つまり、君は綺麗だ」
「……」
「これでいいか」
「うん」
ゆう子がはにかんで俯いた。
「で?」
「男性に使用すると精力はともかく戦闘力もすごくなるから、結果、戦争に使ったようです。だけど抱ける女を得られなかった兵士は消耗して死んでしまうから使用禁止になったらしいですね。疲労したら性愛で回復するんです。友哉さんの血中にあるそのガーナラっていう薬がさっき一時的に減少して、今、わたしの下着姿を見てまた増えてきたんですよ」
「興奮してる。女優、奥原ゆう子に」
真面目に言うと、ゆう子も生真面目に、
「女のエロチシズムに興奮すると、友哉さんの体の中にある友哉さんの足を治療したその薬が毛細血管まで廻って元気になる。単純に血圧が上がるんです。さっきも恥ずかしくて言えなかったからどうぞ、天才先生」
「勃起と同じ原理か」
「そうです」
ゆう子がチラっと友哉の下半身を見た。
「手か口でしましょうか」
真面目に言った。
「その話が本当なら頼みたいが、だいぶ回復してきたから、後で俺がリードするよ。…それより…」
友哉が、床に座っているゆう子の顔を見て、
「三年後に死なせない約束。守れないところだった」
と神妙に言った。
「友哉さんはちゃんと生きて帰ってきました」
「トキからもらった力に慣れるまで無茶はしない。さっきは怒鳴ってすまなかった。奴らの仲間はまた今度にする。四年後とか」
「………」
「さっきの仲間を殺す事より、君との約束の方を優先する。と、また約束する」
「友哉さん……」
「約束に約束を重ねて、人は冷静になるんだ」
ゆう子が友哉の手を握り、
「友哉さんじゃなくて、友哉先生って呼ぼうかな」
と笑った。また瞳に涙が滲んでいた。

……続く

普段は自己啓発をやっていますが、小説、写真が死ぬほど好きです。サポートしていただいたら、どんどん撮影でき、書けます。また、イラストなどの絵も好きなので、表紙に使うクリエイターの方も積極的にサポートしていきます。よろしくお願いします。