見出し画像

小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】⑤

【血に染まった町】

自動小銃を撃ちながら、レストランに向かい歩いてくる男は、宗教の言葉を叫んでいた。友哉にはそれの意味も分かった。「我々の神は偉大だ。世界を創造したのは我々の神だ。資本主義社会は間違えている」と言っていた。
歩道にいた人たちが壊れたロボットのように倒れていく。
そして路面が赤く染まった。
「やだー!」
ゆう子がホテルの部屋で悲鳴を上げている。
「奥原、落ち着け!絶対に窓から顔を出すな!」
――クソ!レストランに妙な奴がいないと分かった時に外に出たらよかった。何もかも遅れた。
イメージトレーニングはしていた。日本で、チンピラのケンカを止めに入って練習もした。だが、テロは日本の街のケンカとは規模、いや殺気が違った。
「友哉さん、できないなら転送するよ!」
ゆう子の声が聞こえた。
「待て」
友哉の右手にはワルサーPPKが握られていた。友哉のコレクションのモデルガンをトキが改造したものだ。しかし銃弾は発砲されない。
――扉にステンドグラスの小窓が……
レストランの扉に小さなステンドグラスが嵌め込まれていて、そこから外の光が射し込んでいる。
友哉はその小窓にPPKの銃口を向けた。
――RDとやらはあれを突き抜ける?
薄い青色のステンドグラスに、男の影が見えた。
――来た
友哉がトリガーに力を入れる。
銃口から発射された物質は弾丸ではなく、赤色の光線だった。一直線に進む、光る赤い糸に見えた。
その光線はステンドグラスの小窓を突き抜けて、さらにテロリストの男の胸を突き抜けて、そこで消失した。
――な、なんて強力な光線だ。ん?ステンドグラスが壊れてない?なぜだ。
「奥原! レストランに近づいた男は?」
「すごい!友哉さんが撃ったの? 絶命したよ!あ! もう一人が、死んだ奴のおっきい銃を取りに走ってきてる!」
友哉が慌てて、レストランから出た。
先に、自動小銃を手にしたのは、もう一人のテロリスト。
友哉が素早い動きで、レストランとアパートの間の道に逃げた。足元のアスファルトを銃弾が破壊し、友哉の体に破片が飛んでくる。
狂ったように撃ち続けるテロリスト。
レストランの壁が崩れてきた。
――まずい。レストランに人が大勢いるのがバレる。友哉が奴らが乗っていたBMWに向かって走った。追う銃弾。
車の影に潜ると、ドアミラーが飛んできて友哉の顔をかすめた。
――激しいだけでバカっぽい。
「奥原、俺の見た目はお洒落か?」
「なに言ってるの?ボロボロ! 転送させて!」
「死ぬまで待て」
「ふざけないで!転送する」
「死ぬのはあっちだ。猿が機関銃を持ってるだけじゃないか」
「……はあ?」
友哉は力なく、ゆう子がいるホテルに視線を向けた。
――抱きたかった。日本一の女優を。…三年後の約束、守れないかも…。
血塗れの街を気にしてないような透き通った青空を見上げ、目を閉じた。
――急に疲れてきた。貧血みたいな……。トキ、これが治療薬、ガーナラの副作用だろ?
「おまえは誰だ?」
男が叫んだ。
「奥原、今のは何語だ?」
「知らない!AZがあなたの指示に従えって!逃げて欲しいのに、こっちもそっちもバカなの!?」
「……?」
通りに、沢山の遺体が見えた。血塗れだった。
――二、三……六、七……くそう、よくも……なんのために?
「逃げない。人を助けにきて逃げる?意味が分からん。ぶっ殺してやる」
「え!?何してるの!?」
車の影に隠れていた友哉が通りに出て行ったのだ。
男は、狂ったように銃を乱射をしてきた。
道の上を素早く走り、転がりながら弾を避けていく友哉。
友哉の顔に真っ赤な血が飛んできた。
友哉が遺体を盾にしたからだ。
「すまない。体のでかいおじさん。そろそろ弾切れ…」
銃声が止まった。
敵はレストランの前。
レストランに向かう気はなく、友哉を睨みつけている。仲間の死体の横に立っていた。
「奥原、拳銃の方は何発、撃った?」
「ごめんなさい。数える事ができてません」
友哉が立ち上がると、自動小銃を捨てた男は拳銃を手にした。
――足が痛いな。
ジーンズが穴だらけだった。
――なんで血が出てないんだ、俺の足……。
テロリストの男が近寄ってきて、棒立ちになっている友哉の眼前に立った。
「なんだ。おまえは? 日本人なのに」
目を剥いている。観光客の一人が突然拳銃で応戦してきたのだから、驚いて当たり前だ。
友哉が息切れしているのを見た男は、うっすらと笑みを浮かべた。M1911の銃口を友哉の胸に向けている。
「転送させて!」
「あと三十秒くれ」
テロリストの男が、
「ワルサーPPKは落としたのか。どこにも落ちてない。腰にあるんだろ」
と言う。友哉の腰に目を向けた。
「そうだ。勝負しようじゃないか。おまえら、アウシュビッツに行く日本人を狙ったのか…」
「アウシュビッツ? 違う。世界遺産の美しい町はある意味、我々の人質だ。ああ、アウシュビッツも世界遺産だったな。日本人には関係なかろう。ヒロシマ? ナガサキ? アウシュビッツ?」
「なに……」
「静かな街になった」
静まり返ったワルシャワの街。
撃たれて倒れていた街の人がうめき声を出した瞬間に、男が銃のトリガーを引いた。
その時、素手だった友哉の右手にワルサーPPKが現れ、友哉もPPKのトリガーを引いた。
テロリストの銃弾は友哉の肺の辺りに命中し、友哉のPPKからの赤い光線は男の肩をかすめただけだった。
ゆう子の悲鳴が友哉の頭の中に響いた。
――心が乱れた。敵の銃を撃ち落としてくれなかった。
友哉は愕然とした。広島と長崎を嘲笑されたからか、感情的になった子供のような撃ち方をしていた。
ワルサーPPKから発射された赤い光線は、どこか迷ったような飛び方をしていた。
テロリストの肩をかすめた後、空中でカーブを描き、またテロリストに向かったが、途中で弱々しく消失した。
早撃ちの勝負に勝った男は肩から血を流しながらも笑ったが、急にその醜悪な顔を一変させた。胸の真ん中を撃たれた友哉が倒れないのだ。
「防弾チョッキか」
「この惨状は俺の責任だ。奥原、昨夜はありがとう。君は日本一、美しい女優だ。俺はアウシュビッツに逝く」
「ダメ! 転送!」
ゆう子がそう叫んだ瞬間、友哉はテロリストの男の頭を撃ち抜いていた。赤い光線は強い信念を得たかのような力強さで、テロリストの頭を貫通した。
友哉が消失する直前に撃たれたテロリストの男は絶命し、町の人たちが声にならない声を上げている。
「ここにテロリストと闘っていた日本人がいたのに、突然消えた!」
駆け付けた警察官に捲し立てているポーランド人の男もいた。
数分間の異常な出来事に、ワルシャワの町は混乱を極めた。

……続く。


普段は自己啓発をやっていますが、小説、写真が死ぬほど好きです。サポートしていただいたら、どんどん撮影でき、書けます。また、イラストなどの絵も好きなので、表紙に使うクリエイターの方も積極的にサポートしていきます。よろしくお願いします。