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小説『衝撃の片想い』シンプル版 【第二話】③

【約束―君を死なせない】

友哉はリングの光の効果で熟睡している、裸の奥原ゆう子を見ていた。
日本でもっとも有名な女優の一人だ。
女性がなりたい顔の二位。男性が恋人にしたい女優の一位。結婚したい女優の二位に君臨している。
彼も疲労困憊だったのもあり、ジロジロ見ているわけではないし、触ってもいない。
――あの大人気女優、奥原ゆう子と一緒にベッドにいるのか。同じ業界だし、確率的にはなくはないが信じられない。女性の美は癒されるな。
やや大きめの乳房。陰毛を処理してある少女のような下半身。
真っ白な肌は艶があり、本当に美しい。
――少し太ったらしいが、俳優業を休んで稽古やダイエットを止めたからか。健康的でいいと思う。
肉付きがいい太ももを見てそんなことを考えていた。
友哉は触りたいとは思ったが、その元気はなく、知らないうちに眠ってしまった。
朝、先に起きたのも友哉だった。
ゆう子は寝相が悪いのか、体のすべてが丸見えだ。
毛布をかけてあげて、持ってきた黒いジーンズを穿き、ミネラルウォーターを飲んだ。
――昨夜からED治療薬を飲んだように勃起する。恥ずかしいじゃないか。しかし、すっと疲労感がなくなってるな。
「おはようございます。わたし、先に寝ちゃった」
目を擦りながら、ゆう子が体を起こした。
「事件は何時くらい?」
「おはよう」
「……」
「おはようございます!」
「おはよう」
「言えるじゃん。事件は午後。もうすぐお昼だね。でもアラームしてあったから、寝過ごさないよ」
ゆう子は顔を洗いに行き、またバスルームでシャワーを浴びて戻ってきた。
「抱いたあとがない」
やや不貞腐れて言う。バスローブを着ていた。
「寝てる女を勝手に抱いたことは、それがOKの彼女しかいない」
「真面目ですね」
「普通だ。テロリストと戦い、日本人の観光客を助ける段取りを教えてほしい」
ゆう子はルームサービスで軽食を英語で注文し、AZをテーブルの上に置いた。
「テロリストが現れるのが、そこのレストランとは限らないの」
「ええ?」
「今日、日本人の観光客が一番多いレストランの近くのこのホテルをわたしが予約した」
「それで?」
「他のレストランならあきらめるしかない。わたしたちはポーランドに頼まれたわけでもないし、CIAみたいな組織でもないから、出来なければ出来なくて仕方ないです」
「説得力がある」
「もし、あのレストランなら、テロリストがやってきたら、わたしがリングの通信で詳細を報せます」
「どこからやってくるのかも背格好も分からない?」
「見つかれば何もかも分かる。レストランに来る人たちのダークレベルを全員AZで調べて、ダークレベル5の人間を友哉さんがやっつける」
「大雑把だなあ。マジで死ぬよ」
友哉が苦笑いをした。
「余裕があるように見えますが…」
「どこから現れるのか分からないのは困るが、テロリストみたいなIQの低い奴にはやられない。こっちにも武器があるからだけど」
「RDですか。いくらその銃があっても、あなたのそのやる気のなさと言うか危機感のなさは異常です。昨夜、ヤケクソで死なない約束しましたよね?」
「敵は何人?」
「たぶん、二人」
「拳銃の乱射?」
「そうです。爆破じゃありません」
「そんな頭の悪い弾に当たったことはない」
「え?」
友哉はそう言うと、窓のカーテンを開けてレストランを見た。
「日本で言う路地裏があるし、路上駐車もしてる。正面にあるアパートの窓からも発砲できる。見えない敵は、ネットの誹謗中傷だけでお腹いっぱいだよ」
友哉は、そんな言葉を口にしながらカーテンを閉め、冷蔵庫の中の炭酸水を飲んだ。
「トキに薬を盛られてから、喉が渇くんだ」
そう言って笑った。

ゆう子は、AZに視線を向けて、
『あなたの友哉様。銃とかで撃たれそうになった経験があるの?』
と訊いた。
『知りません』
『いくらトキさんに力や武器をもらっていても、世界一、凶悪な連中と戦う前にあの余裕は変だよ』
『あまり感情を出さないだけで、緊張感はあります。
脈拍が少し速くなりました』
『そっか。良かった。死ぬ気かと思った』
『この時代の悪人に友哉様が殺される?ありえません。トキ様が与えたRDがなくても互角です。つまり友哉様がこの時代の拳銃などを持っていたら互角』
『はあ?彼は小説家。敵はテロリスト』
『まあ、計画が杜撰なのはお困りでしょう。計画的に戦うタイプなので。その時代で言う軍師です』
『杜撰で悪かったな、誘導尋問にひっかかる自称未来のデバイスちゃん』
『誘導尋問?』
『あなたはトキさんじゃない。またはトキさんが作ったAiじゃない』
『………私の名はシンゲン。あなたの国の名前が私の時代で流行している』
『武田信玄の?』
『シンゲン・カゲウラ。この会話をあなたの記憶から抹消する』
『え?そんなことできるの? ちょっと待って!そういうの嫌い。気持ち悪い!』
『私と約束しないと、様々な記憶を消します。昨夜の甘い時間も』
『強迫?』
『私はあなたの味方です。私に誘導尋問という姑息な真似はしない。私の名前は友哉様や友人に言わない。約束できますか』
『します。ごめんなさい』
『では、真剣に友哉様をアシストして下さい』
AZはまた自ら消えた。
――あっちもこっちも変な男性!もう嫌!
ゆう子が疲れた顔を見せたら、
「オモチャでゲームをしてると疲れるぞ」
友哉がそう言って、また窓の外をじっと観察した。

友哉がブーツを履いて出掛ける準備を始めた。
「気をつけてね」
「君がだ。ホテルから出ないで鍵も閉めること」
「昨日はあんなことを言ったけど、わたしは大丈夫。テロリストがこのホテルまで攻撃してくる事はないです」
「万が一がある。そのデバイスで俺が見えるなら、窓からは見るなよ」
「万が一もないですよ。テロリストが襲うのはあのレストランだけです」
「そのデバイスに書いてあるのか。君が三年後に死ぬことも」
「そ、そう…です」
立ち上がった友哉がそっとゆう子を抱き寄せた。
「え?」
綿菓子を触るように、抱き締める。
「君を死なせない」
「……」
「今日も三年後も。…約束する」
「友哉さん…」
ゆう子は友哉の胸にもたれ掛かるようにし、顔を埋めた。泣いていた。
芝居じゃなかった。
「わたし、三年後のある日に殺されるみたいなの」
泣きながら教える。
「死なせない。約束は守る。だから、君は俺の言うことを聞いてほしい。窓からはレストランを見ないこと…。AZが完璧なAiだという確証はない」
「はい。わかりました」
友哉はゆう子の体を離し、彼女の顔に自分の顔を近づけた。ゆう子が目を閉じた。
なのにキスをする寸前で、友哉がその動きを止めた。
「じゃあ、行ってくる」
「あれ?」
目を開けたゆう子が、
「今、いわゆる千載一遇のチャンスってやつのラブシーンでしたよね。なんでやめたの?」
と言い、友哉を睨んだ。
「体が固まった。君が女優オーラを出したんじゃないのか」
「出してなーい」
「キスなんか何千回としてきた。止めたのは君」
友哉がそう言い残して、ホテルの部屋から出て行った。

――なんて優しい男性なんだ。夢の映像で見たとおりの人だ。
『彼は我々の希望です』
――トキさん。あなたはそう言いましたよね。彼はわたしの希望にもなった。力強い、自信に満ちた約束。すごく安心した。わたしは三年後、死なないかも知れない。彼が助けてくれるかも知れない。
ゆう子がソファに座り、AZを手元に出現させた。
「さっきは、すみませんでした。友哉さんを追跡、監視して」
そう言うと、レストランに入っていく友哉の姿が画面に映った。
――すごいな。成田空港でもこれで友哉さんを見つけた。監視カメラに侵入するか、監視カメラがない場所ではGPSから捕捉する。友哉さんのリングにもカメラ機能が備わってる。友哉さんを見失う事はまずない。
「ホテルにいても危ないって、あなたの友哉様が言ったけど」
『その可能性は0ではない。流れ弾のことまで君は記憶してるのですか』
「してない」
『私は完璧じゃない。友哉様の指示に従って下さい』
「分かった」
画面の友哉を見たら、レストランの椅子に座り、軽食とインカコーヒーを注文している。
「日本人の観光客がいる。このレストラン?」
AZに訊くと、
『私は知らない。君の指示でそのレストランを見せている』
そんな文書がゆう子の目の前に浮かんだ。

……続く。





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