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ショートショート・短編

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さらっと読めて、ちょっと考えちゃうようなショートショートが書けたら良いなと思って書いてます。
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#短編小説

【ショートショート】ロボタ発進

【ショートショート】ロボタ発進

(2392文字)

登山口の駐車場に車を止め、登山靴に履き替える。
平日だからか、駐車場に他の車はなく、仮設トイレが一台立っているのみ。
よく見かける青いトイレ。トイレがあるのはありがたい。
それにしてもこのトイレは、後ろから見るとロボットに見えるなぁといつも思う。
換気口なのだろうけど、丸がふたつとその下に長方形が配置されていて、これがロボットの目と口に見えるのだ。なんだか可愛らしい。
登山靴の

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【ショートショート】記憶消去サービス

【ショートショート】記憶消去サービス

(667文字)

とある研究所で、忘れたい記憶だけをピンポイントで消すことができる装置が開発された。
研究所では収益を得るべく、記憶消去サービスを開始したが、あまりヒットしなかった。
しかしなぜかある職業の人にだけ、絶大な人気があって続いている。
今日もまたひとり、その職業の希望者がやってきた。

「はい、ではね、忘れたいことを頭に思い浮かべください」
白衣を着た博士に促され、昔のマッサージチェア

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【ショートショート】鬼の災難

【ショートショート】鬼の災難

(626文字)

あいつら、たっぷりと貯め込みやがって。
みんなのためにと金を集めて、みんなのために使うのはわずがなものだ。あとは自分たちの腹を肥やしてやがった。
裏金ってやつだ。
こういう時のためにオレたち鬼がいる。
ああいう奴らは、少し痛い目に遭わないと分からない。裏金を奪ってやろうと乗り込んだ。
乗り込んでみると現金が見当たらない。おかしいと思ったら、奴ら金を金銀財宝に換えてやがった。だから

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【ショートショート】穴の向こうへ

【ショートショート】穴の向こうへ

(617文字)

地球に隕石が衝突することが分かった。
回避する術はない。衝突すれば、間違いなく人類は滅びるだろう。
そこであらゆる生き延びる方法が検討された。
宇宙船で運ぶには人類は多すぎる。地下に広大なシェルターを作っても、壊れない保証はない。
そんな時、T大学のM博士がこう提言した。
「時空に穴を開けて隣の世界に逃げれば良い」
そんなバカなとみんな笑ったが、なんとその理論は立証され、ついに各

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【#毎週ショートショートnote】夜光おみくじ

【#毎週ショートショートnote】夜光おみくじ

お題:夜光おみくじ
文字数:410文字

彼は悩んでいた。彼女に告白するべきか。
小学生の頃から高校生になった今までずっと恋心を抱いている。
毎年、初詣のおみくじに良いことが書いてあれば告白しようと思っているが、はっきりしない答えが続いている。
今年の恋愛運は「待ち人来らず」。
この状況にどういう意味?

彼は今日も仲間達と夜遊びをしていた。
ゲームセンターで遊んでから、ファミレスのドリンクバーで

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【短編】ありがとうへの長い1日/#シロクマ文芸部

【短編】ありがとうへの長い1日/#シロクマ文芸部

お題:ありがとう
文字数:5110文字

「ありがとう!サンタさん!」
12月24日の朝は、娘の優花の喜びの声で始まった。
隆彦はその様子を嬉しくもあり、なんだか悔しいような複雑な気持ちで眺めていた。
「良いじゃない、あんなに喜んでるんだから」
「まぁ、そうなんだけどね。でも頑張ったのはオレなんだけどなぁ」
隆彦はそう言って笑った。

12月23日は長い1日だった。
「買った?」
営業車を運転しな

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【ショートショート】十二月の街で

【ショートショート】十二月の街で

#シロクマ文芸部
お題:十二月
文字数:2265文字

十二月だということを、カーラジオから流れるパーソナリティのオープニングトークで思い出した。
「そうか、12月1日か。だからか」
いつもより車が多いとは思っていたが、街中の大通りに入ると大渋滞で、先ほどから数メートル動いては長い間止まるを繰り返し、ついに動かなくなった。
少し前まで残っていた夕焼けの薄明りもすっかり消え、大通りは車のベッドライト

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【ショートショート】逃げる夢 #シロクマ文芸部

【ショートショート】逃げる夢 #シロクマ文芸部

お題:逃げる夢
1399文字

逃げる夢を追いかけて、気がつけば知らない町にいた。
ここはまだ夢の中なのか。

妻が死んで1ヶ月が経った頃、私は妙に鮮明な夢を見た。
頬で受ける木漏れ日の暖かさまで覚えている。
たくさんの椿が咲くその道を、私は妻と手を繋いで歩いていた。
「椿のトンネルだね」
妻は張り出した枝に咲いた椿の花たちを眺めながら言った。
濃い緑の葉と、鮮やかな赤い花、雄しべの黄色だけの世界

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【毎週ショートショートnote】カフェ4分33秒

【毎週ショートショートnote】カフェ4分33秒

(417文字)
お題:カフェ4分33秒

時計台の鐘の音がまだ耳の奥に響いている。
気がつくとカフェの前にいた。
「カフェ4分33秒」と書かれたプレートが下がっている。
男は扉を開けて店内に足を踏み入れ、店員に案内された席に腰を下ろす。
店内は静かでBGMは流れていない。
客は全てひとりずつで、目を瞑って涙を流している人、微笑みを浮かべている人と様々だ。カップの音や、スプーンで砂糖を混ぜる音が静か

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【毎週ショートショートnote】告白水平線

【毎週ショートショートnote】告白水平線

「告白水平線?」
「その水平線に向かって叫ぶと、告白が形になるんだって」
学食で上田が噂話を始めた。
「形って?」
「そりゃ、上手くいくって事だろ?そこでユカちゃんに告白したらどうだ?」
ユカはサークルの仲間で、2人で飲みに行く事も良くある。
「付き合ってるの?」と聞かれると、ユカは「ないない」と言うが、俺は満更じゃないと思ってる。
俺はユカをドライブに誘った。
「珍しいね、ドライブなんて」と言い

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【#シロクマ文芸部】書く時間

【#シロクマ文芸部】書く時間

お題:書く時間
140文字

書く時間は君への時間。
君のことだけを考える時間。
なぜ僕はあんな事をしてしまったのか。
決して君を怒らせたかった訳じゃない。
だけど結局、君は怒ってしまったね。
どうしたらこの気持ちを君に伝えられるのか。僕は自分の無力さに途方に暮れている。

こんな反省文じゃ、先生許してくれないだろうなぁ。

【シロクマ文芸部】食べる夜

【シロクマ文芸部】食べる夜

お題:食べる夜
(410字)

食べる夜に誰も気がついていない。
その夜はいつもより少し静かで、艶のない雲が星々の瞬きを遮る。
闇は窓の隙間から忍び込む。
その闇はふたつに分かれ、人のような形になって、寝ているアナタのベッドの隣に立つ。
「この人はずいぶんと辛い思いをしてきたんだね」
「してきたんだね」
「かわいそうに。苦しかっただろうね」
「だろうね」
闇のひとりが、寝ているアナタの胸の上に手を

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【ショートショート】あなたのいない世界で #虎吉の交流部屋初企画

【ショートショート】あなたのいない世界で #虎吉の交流部屋初企画

ミーン、ミン、ミン、ミー。
セミの声が少しずつ、ボリュームを上げるように街の音とともに耳に入ってくる。
昼寝をしていたようだ。
陽を遮るためにカーテンを閉め、エアコンをかけていたにもかかわらず、じっとりと粘り気のある汗が体を覆っている。ソファまで少し湿ったような感じがする。
読んでいた文庫本は、ページが開かれたまま胸に乗っていた。
僕はページを閉じて傍に置き、体を起こした。
夢を見ていた。
夢とは

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【シロクマ文芸部】消えた鍵

【シロクマ文芸部】消えた鍵

お題:消えた鍵

「消えた鍵はいりませんか?」
そう呟きながら歩く鍵屋の声は、熱された空気と渦巻くようなセミの声に溶けて消える。
地平線から湧き上がるような入道雲の上に、絵具をそのまま塗りたくったような青い空。遮るもののない太陽の光に灼かれたアスファルトが、下から鍵屋を炙る。
数十メートル先は蜃気楼に揺れ、国道をゆく車の排気ガスが、汗ばんだ肌に貼りつく。額から流れた汗は、縁石に落ちた途端に蒸発して

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