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【ショートショート】記憶消去サービス

(667文字)

とある研究所で、忘れたい記憶だけをピンポイントで消すことができる装置が開発された。
研究所では収益を得るべく、記憶消去サービスを開始したが、あまりヒットしなかった。
しかしなぜかある職業の人にだけ、絶大な人気があって続いている。
今日もまたひとり、その職業の希望者がやってきた。

「はい、ではね、忘れたいことを頭に思い浮かべください」
白衣を着た博士に促され、昔のマッサージチェアのような大きい椅子に座った背広の男が目を閉じる。
男の頭には電極がつけられ、何本ものコードが大きな銀色の箱へと繋がっている。
「えーっと、波形からすると、この記憶で間違いないですね」
博士がパソコンの画面を見ながらそう言い、サングラスをかけると助手を見て頷いた。
博士と同じ白衣を着た助手もサングラスをかけて、背広の男の前に立つと、
「それでは、これをよく見てください」
と言って、ボールペンのような棒を顔の前にかざした。
その瞬間、その棒から強い光が発せられ、背広の男はあまりの眩しさに目を閉じて顔をしかめた。
「はい、ではこれで終わりです」
「博士、本当にこれであの記憶が消えたんだろうね」
「もちろんですよ、心配いりません」
博士にそう言われ、背広の男はにこやかに帰って行った。

「T大臣!あなたは大手ゼネコンから賄賂を受け取りましたよね?正直に答えてください!」
「Tだいじーん」
議長に促され、背広の男がマイクの前に歩み出て答える。
「記憶にございません。記憶にないということは、やっていないと言うことです!この目を見てください!」
背広の男の目は、嘘をついているようには見えなかった。

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