狂おしいくらいに

夕暮れの街、自転車を押し歩みを進める。
馴染みの道も、夕闇に染まると特別な色合いに変わる。
ここを何度も通ったあの頃、感じていたこと・苦しんでいたこと。
もう二度と会えないであろう、あの人のこと。

壊してしまったのは、私の方だった。
何年も、柔らかい関係が続いていたのに。
守りたい気持ちと、自分の至らなさが、人に簡単には怒れないあの人の怒りに火をつけた。

そんなこと、初めてだった。
少し大人になったフリをして、わかったような口をきいて。

些細なことに落ち込んでしまうような繊細さが、好きだった。
寂しそうに笑うちょっと元気ない顔も、少し息の交じった柔らかな声も。
自分に近いものを持っていながらやさしく温かい言葉を紡ぎだしてくれる彼は、その近いものを持っているからこそ、深く理解してくれているように思えた。

私は、彼と共通して弱さを持っているからこそ、近くにいることが心地よかったし、それが悪いことだとか思ったことすら、なかった。

助けてくれていた人を、傷つけてしまった。
ずっと励ましてくれていた人を、貶めてしまった。
繋がり続けたかった彼との関係は、あの一言でがらりと変わってしまった。

想像力が足りていなかったといえば、それまで。
私が悪いと思わない言葉だって、彼にとっては気にしていたことだったのだろう。
そういう意味で折り合いがつかなかったと言えばそれまでだけど、私は彼の力に心からなりたいと思っていたのに。
恩返しがしたいと思っていたのに。
結果として、逆のことしかできず、私たちの関係性はいとも簡単に崩れ去った。

毎年送ってくれていた誕生日のメッセージ。
まだ彼を傷つけてしまう前、見かけた背中に声をかけられなかった日のこと。
彼に会うために制服のスカートを2回折って短くした日のこと。
何も救いがないような青春の1ページは、ただひたすらに苦しいだけなのに。

この街で毎日を過ごしていると、通り道に棲みついた思い出が頭を掠める。
彼は元気にしているかなと思いながら、でももう二度と会うような関係性に戻れないことを悔やむ。
だけど、街ですれ違ったりなんて、もうしなくていいから。
思い出の中だけで、やさしく生きさせて。

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