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思い出日記

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2020年3月の記事一覧

どうしてこんなに、19歳の私のことばかり思い出してしまうんだろう。

どうしてこんなに、19歳の私のことばかり思い出してしまうんだろう。

19歳の頃。

駅前の坂道を地面を見つめながら登った。時には父と。時には知人と。そして、ほとんどの場合はひとりで。

滑り止めのためのドーナツ型のへこみがついたコンクリートは、駅の光景より、街の光景より、何より覚えてる。下を向いて歩く私は、自分の人生になにが必要でなにが必要ないのかいつも考えていた。

お金もなくて、目的もなくて、社会に居場所もなくて、楽しく話す相手もいなかった。ただ、今生きている

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久しぶりにしっかり聞いた電車の音を、はじめて聞いた日は眠っていても起きてしまうほどだった。

久しぶりにしっかり聞いた電車の音を、はじめて聞いた日は眠っていても起きてしまうほどだった。

家選びは人生を変える。初めて一人暮らしをしたあの日から、早9年。いくつかの場所を転々として、そんな気がしている。

手離す、手に入れる初めてこの家に来た日は、ドイツ旅行から帰国してすぐだった。3年勤めた職場は、連休すら取るのを憚られるような環境だった。そんな職場を辞めて、初めて行けた海外旅行だった。

仕事を辞めた日は、感傷的だった。やっと解放された、という嬉しさと、初めて働いてここまで育ててくれ

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マジックスコープ

マジックスコープ

空が青かったとか、星が綺麗だったとか、風が気持ちよかったとか、草の匂いがした、とかを世界中の100人の作家に文字にしてもらったら、いったい何通りのことばに出会えるのだろう。

感じたもの全ては、感知したその瞬間から少しずつ崩れはじめる。ことばや、写真や、絵画に湧き立つような感覚をおぼえるとき、人はその中に忘れていたかも知れない なにかを探すのだろう。

あったはずなんだけれど思い出せない何か。忘れ

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なんにもない部屋。床に置かれた3つの荷物だけを明日は片付ければいい。

なんにもない部屋。床に置かれた3つの荷物だけを明日は片付ければいい。

バイト帰りの午前2:30。今夜は土砂降りだった。降水確率90%。

傘をもってこなかった私は、たった1回のために新たに傘を買う気にはなれず、この雨の中をレンタル自転車で走った。

なんてことない信号のあかりが、こんな日は地面を染めて綺麗。青信号の写真を撮りたかったけど、どれだけ雨が強くなるか分からない今は、少しでも早く自宅までの距離を縮めたい。

顔に打ちつけて滝のように落ちる雨水。マスクと口の間

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私の青春の傍らには、いつも嵐がいた

私の青春の傍らには、いつも嵐がいた

崖から転げ落ちるとき、何かに掴まらずにはいられない。それが心の中で起こるとき、人はきっと強烈に何かに依存するのだろう。

私は燃え尽きた。らしくない強さを羽織り、趣味じゃないことが楽しくて、嫌いなことが嫌いなまま終わり。全てが本当の私に還ったとき、張り詰めた糸は弾けた。離れた両端を見つることが、困難な程に。

足場は既に、それなりに大きな音をたてて崩れ始めていた。それでも気づかなかったのは、きっと

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もしあの時あの場所を選んだなら、どんな私になっていたのだろう

もしあの時あの場所を選んだなら、どんな私になっていたのだろう

視界を埋め尽すビルが、イルミネーションのように輝く街。グレーのダウンコートのファスナーを胸元まで上げた19歳の私は、窓に無数に宿るオレンジの光をぼんやりと見つめながら、ゆっくりと歩いていた。

歩道の両脇に並ぶ街灯やコンビニの灯りに、煌々と照らされ白んだ空。それを背景にそびえる1棟のビルが目に留まった。

18歳の冬。私は母と不動産屋さんと一緒に、そのビルの一室にいた。ベッドを置いたら、半分が埋め

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