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久しぶりにしっかり聞いた電車の音を、はじめて聞いた日は眠っていても起きてしまうほどだった。

家選びは人生を変える。初めて一人暮らしをしたあの日から、早9年。いくつかの場所を転々として、そんな気がしている。

手離す、手に入れる

初めてこの家に来た日は、ドイツ旅行から帰国してすぐだった。3年勤めた職場は、連休すら取るのを憚られるような環境だった。そんな職場を辞めて、初めて行けた海外旅行だった。

仕事を辞めた日は、感傷的だった。やっと解放された、という嬉しさと、初めて働いてここまで育ててくれた「人」との別れ。そして、有給が明けるまで、手に入るほんのちょっとの自由。そんな気持ちを忘れないように、Facebookになんだかセンチメンタルな投稿をした。

1枚の毛布と電車の音

そうして引っ越してきたこの家は、家のすぐ側に大きな駅がある。その電車の行き交う線路が窓際にあるもんだから、初めてこの家に泊まった日、まだなにも整ってない部屋で毛布1枚にくるまって寝た日には、夜中や明け方に通る貨物列車の音で、目が覚めてしまった。

ちょうど今ぐらいの時期で、しんしんと冷える訳ではないけど毛布1枚では寒過ぎる夜で、その日1日着てた服にコートも来たまま、縮こまって少し震えながら眠ったなぁ。

淡いクリームがかった色のフローリングと白い壁。収納スペースも、全部ツルツルの板で、すっごく綺麗で嬉しかった。ここ、1回もゴキブリ出なかったんだよ!

前に一人暮らしした家が古い建物で、そこに住んだ約1年間の最初から最後まで臭いに慣れられなかったから余計感動したなぁ。そういえば、今度住む家も臭いが気になる。すぐ忘れちゃうんだよなぁ、こういうの。

それから、多分ゴキブリへの恐怖感からだと思うんだけど、今度住む家にゴキブリいっぱい居る夢見ちゃった…。

なんにもしない休暇

このときは、実家に戻ってその近くで働いていた時期で、引っ越し先は車移動できる距離だったから、引っ越しは車でした。実家だから、自分用の大きな家具は無かったしね。そして、いくつかの家具家電を、あるものにはこだわって、あるものには妥協して揃えた。

すぐには働きはじめなくって、「働かなきゃなぁ~」って思いと、「めんどくさいなぁ~」って思いのはざまに、ごろ~んって寝転んでた。結果、街を散策して見つけたGEOで、大好きな名探偵コナンの映画を全シリーズ借りて帰って来た。

GEOはこの前に一人暮らししてたときに本当にお世話になったから大好き。だって、DVDが1本50円で借りれたんだもの。その後、まだ出始めたばかりだったHuluに登録してからも、そこで見つからないものは借りに行った。この話はまた別の機会に書いてみるかもしれない。

そうそう、コナンの映画もHuluに無かったんたけど、借りた分を見終わって返しに行く頃に、映画公開のキャンペーンでHuluで映画全部見れるようになったのは悲しくて笑える思い出。

そうして、中身があるようで無い日々を、多分1ヶ月ぐらいかなぁ?過ごした。これを書いてる今も、ちょうどそんな時期。

なんにもしない休暇をおおよそ3年ごとに取れてるのは、すごく幸せなことだね。もともと、「社会の一員」であることは得意じゃない。

遅くまで働いても、楽しいことできる!

どうして今の家住んでるの?ってよく聞かれると思うんだけど、1つあげるとしたら、「音楽の先生のライブを見にもともとこっちに通ってたから」かなぁ。

この質問って多分、「好きな色は?」とか、「血液型は?」とか、「彼氏いるの?」みたいな、別に本当に興味あるわけじゃないんだけど、アイスブレイク的に入れときますか!な質問だと思うんだけど、当時は行動にあんまり理由を求めなかったし、あんまり自分のことに興味も無かったので中々に困る質問だった。わかるよ、「今日は良いお天気ですね」じゃ、あまりにも他人行儀だもんね。

で、引っ越す前なら、17:10の定時ぴったりで職場を出て車に積んだ服に着替えて、化粧を直して、急いで出掛けてライブ開始ギリギリって感じだったんだけど、引っ越してからは、19:30まで働いて着替えて向かうのでギリギリ、って感じになった。

もともと、人がいなくて困ってるって分かっちゃったら、力になりたいと思うタイプで、人が足りない所を埋めながらも自分の趣味も大事にできることが嬉しかったなぁ。前の職場はサービス残業当たり前だったから、皆は毎日残って作業してるのに、自分だけ定時で帰る日が多いのは申し訳なかったの。

本当に大事なものはなに?

そうして、ギリギリまで働いて、趣味の活動もして…って生活は、続いていった訳じゃなくて。働く時間が長くなっていくと、だんだん自分が大切にしたいものが何なのか分からなくなっていっちゃった。

前の職場はストレスがすごくて、「ライブでも見なきゃやってらんねぇよー!」って感覚があったから、何としてでも「ライブをみる時間」「楽器を触る時間」は大切にしたかった。だけど、そんなにストレスもない環境でただ時間だけ長く働く内に、「どれだけの時間をお金と引き換えられるか」っていう気持ちになっていっちゃった。

時給制の仕事しか知らなかったから、1時間と約1,000円を交換する以外に、お金を増やす方法を知らなかったんだよね。

毎日11時間は働いて、日によっては15時間とか。週休も1日のときもあって。そんなことしてたら、帰宅後と休みの日は眠るかダラダラするかしかできないよね(そうじゃない人は本当に尊敬)。そんな単純なことにも気づかずに、なにかしなきゃと思いながら何もせず、ストレス発散する方法は、お金を使うか、夜更かしするかになった。

休みの日もどうせ寝てるんだから働こう

慣れというのは恐ろしいもので、体の疲れや頭の疲れは、日々感知できなくなっていって、睡眠不足も大したことないや、と思うようになった。

今でもたまにバイトに行くその職場の同僚も同じこと言うんだけど、「休みがあったって寝て過ごすだけだから、働いてお金にした方がマシ」って思っちゃうの。

そうして私がやったのは、掛け持ちで夜勤のバイトを入れること。メインの仕事に入る量はほぼ減らさず、休みの日と、18時に終わる日に働いた。

早く時間よ過ぎろー!と願いながら、ぐるぐる回るベルトコンベアとにらめっこした。

残像か寝不足か分からない目眩と、髪に付いて取れないイースト菌の臭いと引き換えに得たものは、せいぜい「寝なくても意外とイケる」という自信くらいだろうか。

ストレスでせっかく稼いだお金は使ったし、もちろん時間も使ったし、後に生きるような技術や下地は特に残らなかった。

まあ、どんなことも結局は自分で経験してみるまで分からないタチなので、人生のわりかし早い段階でこの残るものの無さを体験したのは良かった。

私は思い出ストック大好き人間なので、良くないこともなんだかんだ言いながら割りと大事におもってる。

なんだけど、このまま何も考えず、時間とお金を交換することでしか生活に必要なお金を稼げない、ということに猛烈なキツさと危機感を感じるようになったのがこの頃だったのである。

私はこれからどう生きるべきか

それまでの私は、今になって思えば、未来がどうなるかには関心がなかったんだろう。そして、ちょうどこの頃から、ちょっとずつ未来を生きる私の姿を想像しはじめた。

掛け持ち生活で絞りカスみたいになっていくのを感じていた頃。たまたま、とある大学の社会人入試の情報を目にした。「勉強したいことが無いのに行っても意味ない」そう思っていたから今まで行かなかった。でも、「これなら勉強したいかも」そう思う学部を見つけた。

そこからの約1年半は、ゆっくり過ごしたり、活動的に過ごしてみたり。どんな風に生きていきたいのか、社会に組み込まれる1人としてどう過ごしたいのか、そんなことについて考えるようになった。そんなにいきなりは変われなかったし、noteにかけるようなことも無いけど、未来は少しずつ輪郭を帯びようとしている。

選ぶ家と作られる人生

この家に住んだからこそできたこと、この場所だからできなかったこと、住み始めた日にこんな未来がまってるはずだと憧れた今日とは違う自分。引っ越しは、そんなことを考える良い節目になる。

決断は得意でも、取捨選択は上手じゃない。選んで掴んだつもりの幹は、川に浮かぶ流木だったことも、きっとたくさんあった。

新しい家ではどんな自分になれるだろうか。次に引っ越す時には、「今日の日の私は自分でつくった」といえる自分でいたい。

いつの間にか慣れきってしまって聞こえなくなっていた電車の音が、今日はやけに心地良い。

おいしいごはんたべる…ぅ……。