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医療におけるエビデンス至上主義


エビデンス至上主義は正義ではない

エビデンス至上主義とは、証拠やデータに基づいて判断や行動をとることを重視する考え方を指します。特に医学や科学の分野においては、エビデンスに基づいた判断が求められています。エビデンスの重要性は確かに高い。なぜなら、客観的なデータに基づいて意思決定を行うことで、誤りを減少させ、より確実な結果を得ることが期待されるからです。

しかし、エビデンスが全てではないという考えも重要です。人間の経験や直感、感情もまた、私たちの日常生活や決断の中で大切な要素となっています。特に人間関係や芸術、宗教などの分野では、エビデンスだけでは捉えきれない部分が存在します。

歴史上、多くの優れた科学者が神を信じていました。例えば、コペルニクス、アイザック・ニュートンやガリレオ・ガリレイは深い信仰の持ち主でありながら、科学的な探究を続けました。彼らにとって、神や宇宙の理を追求することは、相反するものではなく、むしろ一致するものでした。

このように、エビデンスは非常に重要である一方で、それだけが全てではないということを認識することが大切です。人間は複雑な存在であり、私たちの判断や行動は多様な要素に影響を受けています。

エビデンス至上主義に陥ることは、認知バイアスや確証バイアスの影響を受ける可能性が高まります。以下は、このテーマに関連するバイアスのいくつかの特徴を挙げます:

  1. 確証バイアス(Confirmation Bias): これは、人々が自分の信念や仮説を支持する情報を探し求め、それに反する情報を無視または軽視する傾向を指します。エビデンス至上主義者が、自分たちの信じる「エビデンス」を持っているアイディアのみを受け入れ、それ以外のアイディアや情報を疑問視する場面でこのバイアスが働くことが考えられます。

  2. 利用可能性ヒューリスティック(Availability Heuristic): これは、最も記憶に新しい、またはすぐに思い浮かぶ情報をもとに判断を下す傾向です。多くのエビデンスベースの研究や情報が広まっている現代において、このバイアスはエビデンスの存在や不在に基づいて急速に判断を下す傾向につながります。

  3. アンカリング(Anchoring): ある情報を初期の「アンカー」として設定し、その後の判断や評価がそのアンカーに引っ張られる傾向を指します。エビデンスが示された初期の情報や研究をアンカーとして、後続の情報や研究を過小評価することが考えられます。

  4. 狭窄的視点(Tunnel Vision): 限られた情報源や視点にのみ焦点を当て、全体のコンテクストや他の重要な情報を見落とす傾向です。エビデンス至上主義に陥ると、特定のエビデンスや情報源のみを重視し、その外の情報や視点を考慮しない可能性が高まります。

  5. ステータスクオバイアス(Status Quo Bias): 既存の状態や手法を維持する傾向があり、変更や新しいアプローチに抵抗するバイアスです。エビデンスが存在する既存の方法やアプローチを優先し、新しいアイディアや手法を採用することに躊躇することがあります。

これらのバイアスは、エビデンス至上主義の考え方を持つ人々の意思決定や評価に影響を与えています。


エビデンスと産業化

エビデンス至上主義の限界や問題を指摘する重要な側面です。これらの問題点を詳しく解説します。

  1. ステータスクオの維持: 既存の知識や実践が一般的に受け入れられていると、それに挑戦する新しい情報や研究に対して防衛的になる傾向があります。これは特に、既存のアプローチや製品に経済的な利益が関連している場合や、プロの評価やキャリアが既存の知識や技術に基づいている場合に顕著です。結果として、イノベーションが妨げられ、既存の方法や知識の改善が遅れる可能性があります。

  2. 量より質: エビデンスの「量」はしばしば、その「質」よりも重視されることがあります。例えば、多数の小規模研究があるトピックは、少数のより質の高い研究があるトピックよりも注目されることがあります。しかし、研究の質やその結果の解釈は、科学的な真実を探求する際に極めて重要です。

  3. 認証バイアス: このバイアスは、人々が自分の既存の信念や期待を強化する情報を探し、それと矛盾する情報を無視する傾向があることを指します。エビデンス至上主義者であっても、このバイアスから逃れるのは難しい。特定のエビデンスや方法論に深く投資している研究者やプロフェッショナルは、それに異議を唱える新しい情報に対して無意識的に懐疑的になることがあります。


既存のエビデンスは最良を証明するものではない

エビデンスが存在することはそのアプローチや治療法が最も優れているという証拠ではありません。エビデンスベースのアプローチは、現在利用可能な最良の証拠に基づいて治療や判断を行う方法論を指しますが、それは「現在知られている範囲での最良」であり、未だ未知の新しい治療法やアイディアが存在する可能性を否定するものではありません。

医学界においても、新しい治療法や技術が登場すると、それが既存の方法よりも効果的であると示すまでのエビデンスが必要とされるのは事実です。このプロセスは、新しい治療法の安全性と有効性を確認するための重要なステップとなっています。しかし、この要求が過度に強くなると、革新的なアイディアや治療法が過小評価されるリスクも存在します。

特に伝統的な医療や代替療法に関しては、エビデンスが不足しているとされることが多いです。しかし、それが効果がないという意味ではなく、科学的な方法論での検証が十分に行われていない場合が多いのです。一方で、患者の体験や臨床家の経験を軽視してしまうと、有効な治療法やアイディアが見過ごされることもあります。

エビデンスベースの医学は非常に重要ですが、それだけに偏らず、開かれた態度で新しいアイディアや治療法に接することが、医学の進歩や患者の最善の利益を追求する上で必要です。既存のエビデンスをベースとしながらも、新しい可能性を追求し、その有効性や効果を評価するバランスが大切でしょう。

エビデンスの信頼性と信憑性

  1. エビデンスの信頼性

    • 定義: 信頼性とは、同じ実験や調査を繰り返した場合に、同じ結果が得られる確率や安定性を指します。

    • 要因: 信頼性は実験の設計、使用される器具の品質、サンプルの質や量などに依存します。

    • 問題点: もし実験や調査が一貫していない結果をもたらす場合、そのエビデンスの信頼性は低いと言えます。

  2. エビデンスの信憑性の欠如

    • 定義: 信憑性とは、研究の結果が実際の現象や事実を正確に反映しているかどうかを指します。

    • 要因: バイアスの存在、不適切な研究設計、データの取り扱いの不適切さなどが信憑性を低下させる可能性があります。

    • 問題点: もしエビデンスが現実の状況を正確に反映していない場合、そのエビデンスに基づく判断や意思決定は誤りとなる可能性が高まります。

  3. 信頼性と信憑性の関連性

    • 信頼性が高いとは、一貫性があるということですが、それだけではエビデンスの信憑性が高いとは言えません。例えば、間違った方法で一貫してデータを収集することは、信頼性は高いが信憑性が低い結果をもたらす可能性があります。

    • 逆に、信憑性が高いエビデンスは、その現象や事実を正確に反映していると言えるので、そのエビデンスに基づく判断や意思決定は正確である可能性が高まります。

最終的に、エビデンスを評価する際は、その信頼性と信憑性の両方を考慮することが重要です。適切なエビデンスの評価と解釈は、情報を効果的に活用し、より正確な意思決定を行うための鍵となります。


エビデンスの初期は常に気づきである

エビデンスは、ある事実や主張の正確性や有効性を示すための証拠や根拠として存在します。しかし、新しい発見や技術、アイディアが生まれるとき、その最初のステップにはエビデンスがまだ存在しない状態が通常先行します。これは、エビデンスの生成は研究や試験、実験を通じて徐々に築き上げられるものだからです。

エビデンスがない状態が先行するという事実は、新しい発見やアイディアを生み出す過程での探求心や創造性の重要性を示しています。歴史を振り返れば、多くの偉大な発明や発見は、当初はエビデンスや実証がない状態からスタートしています。

たとえば、アントニー・ファン・レーウェンフーフェックが初めて細菌を観察したとき、その発見には即座にエビデンスが存在していたわけではありません。彼の観察や実験が次第に積み重ねられて、後の科学者たちによってその存在が確認され、細菌の研究が進展したのです。

このように、エビデンスがない初期の段階があるからこそ、新しい発見や技術、アイディアが生まれ、それが次第に検証されてエビデンスが生み出されるプロセスが進行します。この過程は、科学や技術の発展を牽引する重要な要素となっています。

エビデンスと新しいアイディアの狭間には「可能性」が広がっています。新しいアイディアや発見は、往々にして未知の領域から生まれるものです。この初期段階では、まだ具体的なエビデンスが伴っていないことが多い。しかしこの時点でのアイディアや仮説には、将来的に大きな価値や影響を持つ可能性が秘められています。


エビデンスの盲点

エビデンスベースのアプローチは、確固たる根拠に基づいて判断や行動を取るための非常に重要な手法です。しかし、新しいアイディアや発見の初期段階において、過度にエビデンスを求めることは、創造性や革新性を妨げるリスクも持っています。

以下は、エビデンスと新しいアイディアの狭間に存在する「可能性」のいくつかの特徴です:

  1. 探求の自由度: 新しいアイディアの初期段階では、まだ固定された枠組みや制約が少ないため、多方向に探求を進めることができます。

  2. 革新性: 未知の領域からの新しい洞察や考え方は、従来の方法や考え方を根本から変える可能性を持っています。

  3. リスクとのバランス: エビデンスが不足している段階では、予測や結果に対する不確実性が伴います。このリスクとのバランスを取ることで、新しいアイディアの価値や可能性を最大限に引き出すことが求められます。

  4. 迅速なフィードバック: 新しいアイディアや方法を試すことで、その効果や有効性についての迅速なフィードバックを得ることができます。

エビデンスと新しいアイディアの狭間での「可能性」は、科学や技術、芸術やビジネスなど、多くの分野での革新や発展のキーとなっています。この狭間を大切にし、エビデンスの生成と新しいアイディアの育成を同時に進めることで、より良い未来を築くことができるでしょう。

エビデンスとイノベーションの融合

科学の歴史は、新しい発見や考え方によって、常に進化と変化を繰り返してきました。何世紀も前の知識や理論が、今日の科学の中心的な役割を果たしている例は稀です。新しい発見や理論が登場するたびに、それが過去の知識や研究とどのように結びつくのか、また、それをどのように適応させるのかを考える必要があります。

このダイナミックな変化の中で、新しいアイディアやアプローチに開かれた心を持つことが非常に重要です。しかし、それは単に新しいものを受け入れることだけではありません。新しいアイディアやエビデンスを適切に評価し、それが実際に有効であるかどうかを判断するための既存の知識やエビデンスをベースとすることが不可欠です。

また、科学や技術の分野での目的は、単に新しい知識を得ることだけではありません。それよりも、常に質の向上を目指しています。このため、新しいアイディアやアプローチが質の向上に寄与する可能性がある場合、それを採用することは、科学者や研究者にとっての責任とも言えます。

真の科学者や研究者は、決して満足することなく、疑問を持ち続けることで新しい知識や方法の探求を行います。そして、多様な背景や視点を持つ他の研究者からのエビデンスやアイディアを尊重し、それを取り入れることで、科学全体の質をさらに向上させることができます。


科学と医療の真の目的

科学と医療は、歴史を通じて人類の知識の増進と健康の向上を目指して進化してきました。これらの分野の積み重ねられた成果は、単に研究や実践する専門家たちのためのものではなく、社会全体の福祉や健康の向上のためのものと考えるべきです。専門家たちが持つ高度な知識や技術は、その本質において、人々の生活の質の向上のためのものであり、その役割を忘れてはならない。

研究に数十年を投じ、真理を探求してもその成果が直ちに明らかになるとは限りません。しかし、これらの努力は決して無駄ではありません。多くの研究者や医師の結集する知識や経験が、時を経てより洗練された真理へと繋がるのです。一方、業界内で研究者や医師を過度に保護しようとする動きや、私的な利益を追求するための行動は、科学と医療の真の目的から逸脱するものであり、注意が必要です。例として、一部に見られる利権を求める動きや権力の集中は、この分野の信頼性や公平性を損なう可能性があります。

最終的に、科学と医療に関わる者たちが追い求めるべきは、個人的な名誉や利益ではなく、より高い理想や社会の福祉の向上であると考えます。理想を探求し続けること、それが真の探求心の姿であり、この分野の基盤となるべき価値観であると信じます。

あとがき

エビデンス、すなわち科学的な証拠や根拠は、その性質上、客観的な事実を示すものとして重視されます。しかし、エビデンスを「善」であるという一方的な視点や価値観とともに他者に強要する行為は問題があります。なぜなら、エビデンス自体が「善」であるという絶対的な価値観は存在しないため、それを押し付けることは他者の意見や立場を尊重しない行為となり得るからです。そのような行為は、エビデンスの本来的な意味を歪め、科学的な議論の健全さを損なう可能性があります。エビデンスを共有する際は、相手の立場や背景を尊重し、一方的な価値観を強制しないよう注意が必要です。


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