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読書感想文

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#読書

読書記録015「廃屋の幽霊」(福澤徹三)

読書記録015「廃屋の幽霊」(福澤徹三)

ホラーを読もうプロジェクト。筆者である福澤氏は、『残穢』(小野不由美)の作中に平山夢明氏と並んで出てきたキーパーソンの一人でもあった。本作の解説も平山氏であり、界隈での横の繋がりを感じる。

表紙はこれぞホラー!という風だが、いい意味で予想を裏切られた。

短編集だが、どの話も泥臭く生活の厭な臭いが染み込んでいる。実話ホラーで脱色されがちなリアリズムが心地良い。それでありながらオチは見事にホラー調

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読書記録014「鈴木ごっこ」(木下半太)

読書記録014「鈴木ごっこ」(木下半太)

一つ屋根の下、一軒家にそれぞれ見知らぬ四人が集められ、「鈴木」を名乗ることに。四人には多額の借金があり、それを返済するには一年間「鈴木」として暮らすだけでいい……。

集められたのは四人だ。主人公の小梅、大学生くらいの青年、三十前半のスーツの男、そして五十過ぎの中年の男。主人公の小梅に母、青年に息子、スーツの男に夫、中年男におじいちゃんという役割が割り振られ、共同生活がスタートする。

突飛な設定

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読書記録012「ハイドラ」金原ひとみ

読書記録012「ハイドラ」金原ひとみ

 新宿に住むモデルが主人公であり、舞台設定としてはかなり華々しいものである。が、それと対照をなすかのように、モデルをしている主人公早希の内面はあまりにも暗い。早希は、有名なカメラマンである新崎と付き合っているものの、新崎の淡白な態度やほかの女に乗り換えられてしまうのではないだろうかという不安に絶えず脅かされている。恋愛という実感は薄い。またそこには仕事上の不均衡、新崎はほかの女優やモデルも撮るが、

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読書記録011「感情教育」フローベール

読書記録011「感情教育」フローベール

 金持ちで学識もある主人公フレデリック君のアプローチにヒロインたちはしばしば気を許し、イベントも発生するのだが、肝心なところでフレデリック君の優柔不断やその場の感情に流されてしまう性格が裏目に出てしまい、関係は思うさま上手く結実しない。言ってみればこれは、「複数のヒロインに目移りしていてたら正規ルートを逃してしまう青年の物語」なのである。フレデリック君は子供っぽく場当たり的で、誠実さもなく思いやり

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読書記録010「TVピープル」村上春樹

読書記録010「TVピープル」村上春樹

基本的に『TVピープル』収録の6つの短編は、コミュニケーションの失敗や挫折を描いている。
村上春樹の作品の主要なものは、意志の疎通がとれないながらも、物語が進んだり関係性が発展していくものが多い傾向にあるが、ここに収められた短編はどれも他者との交流が断絶したところで話が終わっている。関係が発展しない代わりに表現されているのは、喪失感に彩られた奇妙なリアリティだ。
たとえばそれは普通の人の0.7倍の

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読書記録008「光媒の花」道尾秀介

読書記録008「光媒の花」道尾秀介

ちょっと引いてしまうほど話が巧い。

なぜなんだろう?と考える。どうしてこんなに巧いと感じるのだろう?

『光媒の花』は六編の短編から構成されていて、同じ世界観のもとに書かれた連作であり、それぞれの登場人物がほかの短編のなかにも影を落とすようになっている。いわゆるスターシステム的な要素。これによって読んでる方は興奮する。しかしそれはジャブに過ぎない。では、それぞれの独立した短編として読むにしても、

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読書記録007「毒身」星野智幸

読書記録007「毒身」星野智幸

変な本を読んだ、というのが初読の印象だ。

奇妙で、面白い。刺激がある。それは構成の妙と、キャラクターの見せ方にかかわっている。ストーリーを紙に書いて、箱に入れ、それを見ないでよくかき混ぜ、取り出した順に並べていく。そういう方法を提案していたのは、バロウズだったか、ブルトンだったか、ウディ・アレンだったか、あるいはその全員だったか、忘れたが、そういう「時間軸の攪乱」が物語にいいコクを与えている。

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読書記録006「私の奴隷になりなさい」サタミシュウ

読書記録006「私の奴隷になりなさい」サタミシュウ

会社の同じ職場の女性に惹かれるが、冷たくあしらわれる。そんな経験がいままでなかったから、主人公は一層その女性に執着するようになる。突然機会が訪れる。「今日、セックスしましょう」。そして、「ビデオカメラで撮ることが条件」だという。主人公は謎を抱えたまま、その女性と行為に至ることになる……。

官能小説でなくても性行為の描写は結局のところパターン化されているが、その限定された条件のなかでどのように性行

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読書記録005「可愛いかがわしいお前だけが僕のことをわかってくれる(のだろうか)」鹿路けりま

読書記録005「可愛いかがわしいお前だけが僕のことをわかってくれる(のだろうか)」鹿路けりま

――冴えない浪人生の主人公夢野巡のもとに悪魔ドロルフィニスが現れる、

この物語のテーマはなにか。

”魂の救済”。それである。

何事においても絶望し、なんどでも自殺しようとする主人公には、ドロルフィニスの導きで、それまでできなかったことが叶えられる。恋愛、金持ち、才能。ドラマの前半は、ラノベにふさわしいバトルが予想される下地にあてられる。好きな女性との恋愛模様、異能力を扱う敵、絶対的な兄貴。前

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読書記録004「ベケット・放浪の魂」堀田敏幸

読書記録004「ベケット・放浪の魂」堀田敏幸

「放浪」を軸に、ベケットの小説(戯曲は2本だけ)をいくつかの観点から考察している小論集。

先に断っておくが、僕はベケットの戯曲は結構読んでるが、小説の既読は二冊のみ。「モロイ」と「マーフィー」。積読本には「マロウンは死ぬ」「並には勝る女たちの夢」。

ベケットの小説はとにかく長くて苦しいから読み終えると読み終えた達成感でいっぱいになり、内容をほとんどなにも覚えていない、ということがままある。なの

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読書記録003「フィルス」アーヴィン・ウェルシュ

読書記録003「フィルス」アーヴィン・ウェルシュ

やってくれた。

ラストを読み終え、煙草を一服。

そして呟く。

ブラボー!

フィルス(filth)とは、「汚物」。そして俗語で「警察」の謂い。そして本作、アーヴィン・ウェルシュ3作目のタイトルであり、映画化もされている。

<警部昇進を画策する巡査部長ブルース・ロバートソンが、同僚たちを出し抜きながら、黒人が殺害された事件に挑む>

ではこれは、警察小説?犯罪小説?ちゃうね!これはそんな枠じ

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読書記録002「リアルワールド」桐野夏生

読書記録002「リアルワールド」桐野夏生

ミミズと呼ばれる男子高校生による母親殺しを中心に、四人の女子高生が関わって、巻き込まれていく。巻末の解説にある精神分析医である斉藤環が、桐野夏生の作品を『関係文学』と称しているのだが、まったくもってキャラ設定と全体の場面設定にこの作品の妙が息づいている。トシ、ユウザン、きらりん、テラウチという仲良し女子高生。それにミミズという異端者が割り込んでいくことで、彼女たちの日常の顔ではない裏の側面が見えて

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読書記録001「逃亡くそたわけ」絲山秋子

読書記録001「逃亡くそたわけ」絲山秋子

追っ手は来ない。金もなくならない。飢え死にもしない。ロード・ノヴェルを盛り上げる、「お約束」のハプニングは起こらない。物語を駆動させているのは、主人公の「どうしよう」という不安と、「亜麻布二十エレ...」云々という幻聴だけだ。あまりに潔い。この潔さは絲山小説の美学とも言える。逃亡は明らかに「発作」として始まり、「症状」として続いていく。実際には「追っ手」などいない。「敵」など存在しない。亜麻布二十

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