読書記録003「フィルス」アーヴィン・ウェルシュ
やってくれた。
ラストを読み終え、煙草を一服。
そして呟く。
ブラボー!
フィルス(filth)とは、「汚物」。そして俗語で「警察」の謂い。そして本作、アーヴィン・ウェルシュ3作目のタイトルであり、映画化もされている。
<警部昇進を画策する巡査部長ブルース・ロバートソンが、同僚たちを出し抜きながら、黒人が殺害された事件に挑む>
ではこれは、警察小説?犯罪小説?ちゃうね!これはそんな枠じゃおさまんねえほど、破壊的でパンク。読書を行儀のいい作法かなんかだと勘違いしてる自称・読書家が読んだら失禁しちまうような、モノホンの読書体験だ。不快で、不潔で、悪臭芬々たる人間の生に向き合えないようなら、読むのはやめた方がいい。ジムに通って、汗でも流してこい。人生の悲惨さ、みじめさ、空元気、逃避、病気、暴力、競争、薬物、良心、売春、不眠、差別、運命、幻聴、歴史、ヒューマニティ、事故、欲望、なけなしの愛……、そういったものに向き合う勇気がないならば。
”目の端に酔っぱらいが見える。そいつは壁をこするように進み、バスの待合所に落ち着く。目に恐怖の色を浮かべてるようだ。飲んだことは飲んだが、そうしたところで自分のみじめな人生のおぞましい現実は消えてくれないとわかり始めたみたいに。”(p387)
パンチの効いた文章、段落を食い荒らすサナダムシ、緻密なストーリー構成、無駄のない筆運び、隙のない心理描写、生々しい事件と動機、炸裂するエンターテインメント性。
それにしてもこれほどまでに静脈が一挙に明滅するような怒涛のラストを描く小説があるだろうか?
警察小説でもなく、犯罪小説でもない。
ではこれは?
いわば闘争小説だ。
ブルース・ロバートソンの血なまぐさい来歴と、露悪極まりなく、それでも必死に生をたぐり寄せようとする、闘争の傷痕。
生半可じゃない。
今世紀に残るべき怪作だ。
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