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枝瀬優
2021年12月26日 19:09
からっぽになったときほど涙が溢れるのはどうして視界がゆるやかに滲んで世界を曖昧にするからっぽのわたしたちに丁度いい世界風で乱れた前髪の隙間から見る夕陽の美しさはいつまでもわたしだけのもの君の感情を知らない昨日までがとても心地よかったんです知ってしまったら戻れないから嫌いなものも好きなものも、知ってるだけでいいの理解しなくていいのに、理解することが君のためとか言ってくるあなた嫌いだよ
2021年11月22日 16:40
理科室の窓から覗く裏庭園芸部の育てている夏野菜の小さな畑不格好でもおいしい未熟でなにも知らなくても許されるわたしたち如雨露で恵みの雨を束の間の魔法使いごっこホースの先をぎゅっと握って遠くに水撒き用務員のおじさんはいつでもいるのにいつもいなくてきょうも落ち葉がまとめられている花壇の隅にアルコールランプの炎はいつも妖しい蓋を被せて消すとき息をとめた
2021年10月21日 19:28
「普通」を素晴らしく尊く感謝すべきだと云う全てが尊い病の人間が苦手だ普通を特別だと思った瞬間にそれは「特別」になっていた普通は意識しない存在であればいい平等に訪れるそれらを特別視する必要を感じない呼吸食事朝の目覚め夜の眠りあなたの存在世界の存在感情を尊いものだと神格化する神様は存在しないから普通じゃない普通は他人に認めさせることではなくて今日も明日も明後日
2021年9月15日 21:05
放課後の音楽室試験期間で部活動は停止中文化部なのに体育会系面する吹奏楽部のマウントが苦手です合唱祭の伴奏はみんながちやほやしてきてピアノが嫌いになりかけたよピアノの鍵盤にそっと ひとさしゆびをわたしだけがまあるい音に包まれて世界にひとりぼっち空気が震えてわたしも呼吸してこのままこの音と一緒に窓から流れて消えてしまいたかった言葉よりも音は自由で不完全で美しいから島村楽器に寄り道して
2021年8月27日 22:12
美術館の企画展示室いちばん広い展示室の中央に置かれているベンチに腰掛けて目の前の作品だけを静かに見つめる時間あの時間をつくれるひとが羨ましかったそのうち作品を見ているのは瞳だけできっと今晩の夕食の献立なんかを考えていたり玄関に飾る植物を選んでいたりするゆるやかに現実が混じっているいつも埋まっているベンチはおとなだけの特権であとすこし詰めてくれたらひとり座れる微妙な空白はおとなた
2021年8月21日 15:12
校舎裏のプール夏限定で僕たちの学校生活の一部となる去年の一年生が育てた朝顔が今年はプールのフェンスに絡まって植物係だけが青い花を見ていた朝直射日光に焦げるプールサイドをともだちの肩つかみながら走らないように心だけ走って塩素のにおいと泳げない僕の夏の記憶のにおい
2021年6月22日 12:51
下駄箱からスニーカーがなくなった放課後廊下の蛍光灯がつく前の夕方未満の校内踊り場にたまる影はどこまでも深い闇で職員室からおとなとこどもの境界線をつくる珈琲の香り音楽室の窓から吹奏楽部の未完成な曲が校庭にゆるやかに響く校舎と体育館を繋ぐ廊下を脱線して、上履きのまま裏庭にでる生活の時間に植えた朝顔が眠っていた
2021年6月12日 22:44
君がいない世界卵焼きに殻が混じっても気にしなくなってミリ単位で前髪を整えることをやめて階段から遠い6号車に乗らなくなってバスから外の景色を眺めなくなって旧校舎の自販機のカフェオレは売り切れることなくお弁当の卵焼きはぜんぶわたしが食べる放課後の図書室は素通りしてコンビニの新作スイーツは試さなくなってノートに落書きされることなくテスト勉強して明日の天気予報を今日のうちにチェックする
2021年5月20日 22:23
銀色のボウルで卵をとく朝日がボウルに反射して、黄金色のいきもの未満を丁寧に菜箸でほぐして夢の淵にひっかかったままの心もこちらがわに連れ戻す白いお砂糖の依存性は麻薬と似ているんだってスイパラでこっそり君は教えてくれたねそれでもわたしたちは逮捕されない女の子はお砂糖とスパイスの配分がたいせつです甘く薄く焼いた卵焼きをくるくるとからだとこころのシンクロを確かめるように菜箸はいつまでたっ
2021年2月22日 19:22
忘れている誰かを永遠に待つ駅前の噴水広場高くあがる水たちは空になれなくてキラキラと一瞬で死んでいくその瞬間に目が合ったわたしたちは永遠を感じて恋に落ちる無言の住宅街を歩けば世界にひとりぼっちになれるような気がして真夜中の交差点で白い息吐きながら見上げた月はすこしぼやけて月が綺麗ですね、と言える相手はもういなくて死んでもいいのはわたし天国ってなんとなく青空の雲の上にあるイメー
2021年1月17日 18:18
思い出には勝てない過去は日々都合よく美化されてしまうから思い出のなかに生きられたらきっと現在から居なくなりたい感情と衝動と永遠にお別れできるのだろうけれどそれができないからせめて昨日の自分より元気だよ、って言い聞かせながら生きて今日を生きてるうちは明日に期待なんてしなくていいから明日も明後日になれば過去で思い出は勝手に更新されていくタップミスで上書きしてしまった日記アプリ