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すーこ短編小説まとめ

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私の書いた短編小説(ショートショート含む)のまとめページです。 読者のみなさま、いつもスキをありがとうございます。
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#ショートショート

グリム童話ATM

グリム童話ATM

 帰国子女の友人を映画に誘う。グリム童話を題材に、現代的なアプローチで脚本を再構築し、実写化した作品。予告編を観たときから楽しみだった。転校生の友人とは、映画好きという共通の趣味ですぐに仲良くなった。お互いに勧めあうことはあったが、誘うのは初めて。どんな反応をされるだろう……。ドキドキしながらメールの送信ボタンを押した。

ピロン♪

 すぐに返信が来た。

 なんて? 帰国子女の彼女は日本語もペ

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メガネ初恋

メガネ初恋

 私の初恋は、メガネの彼。
 彼と過ごせたのは、たったの3ヶ月。彼とは公園で知り合った。私がこけて泣いていたとき、優しく手を差しのべてくれた。ゴツゴツと硬い手だった。
「お仕事はなんしよんの?」
「もうしよらんけんなぁ。昔は木を剪定しよったよ」
「そうなん!? うちの木も切ってほしかったわぁ」
「この公園の木や道路の木も切りよったんで。今はもう、掃除が大変やっちゅうことで、伐られてしまったけどなぁ

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星屑ドライブ

星屑ドライブ

「人が少なくて日帰りで行けるおすすめの場所ない?」
「星屑ドライブはいかがでしょう」
「へえ。行ってみようかな」
 指導係だった先輩が異動して大変そうなのを、他部署の私たちは見守ることしかできなかった。自分が救われたあのドライブが、少しでも先輩の救いになれば…… 祈る思いで話した。

 早速日向さんが予約してくれたタクシーに乗り込む。
「星屑ドライブへようこそ」
「はあ。あの」
 星屑ドライブって

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【ピリカ文庫】花と雪舞う中で

【ピリカ文庫】花と雪舞う中で

 ほのかに梅の甘い香り漂う並木道を歩く。風が花びらを舞い上げる。雲一つない青空に花びらが映えて綺麗だ。花吹雪の下、僕は三年前の吹雪の夜を思い出していた。

***

 取引先から帰っているところだった。やけに冷えると思っていたら、はらはらと雪が落ちてきた。まずいな、このあたりはタクシーも通らないし、コンビニもない。腕時計を見ると、最寄りの最終バスの時刻はとうに過ぎている。大通りまでは早歩きでも一時

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守りたい灯り side:driver

守りたい灯り side:driver

 彼と最初に出会ったのは、一年前。営業所に定期点検で新しくやってきた「明石」と名乗る彼は、初々しさの残る人懐っこい青年だった。
 彼はこう語った。
「台風の日に留守番をしていたとき停電して、泣きそうになったとき、ぽっと灯りが点ったんです。早く復旧させてくれたあの灯りに、僕は温かさを感じました。そんなこの街の灯りを絶やさないよう、僕も一員としてがんばりたいんです。」
 彼のきらきらした目が眩しかった

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守りたい灯り

守りたい灯り

 飛び起きると、辺りはまだ暗闇に包まれていた。時計を見れば、深夜二時を回ったところだ。寝直そう。いつもならそう思うのに、胸がざわざわと落ち着かない。顔を洗い、コートを羽織り、鍵と財布を握りしめ、玄関のドアノブに手をかけた。
 外はしんとして、冷気が満ちていた。月も星も雲に覆い隠され、周りの家もみな灯りが消えている。ぽつぽつと点る街灯の先にある、ぼんやりと光を放つ電話ボックスへ、吸い込まれるように向

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よみがえるATM

家路を俯きながら歩いていると、知らない道に出た。目線の先に案内板。

「300m先 よみがえるATM」

「よみがえるATM?破れたお金が元通りになるATMかな。」
気になって、足が向く。着いた先には扉にMと刻まれた小屋。
扉を開けるとエコーのかかった声が響き渡る。
「今ここによみがえる!Reviving at the moment at M!」
目映い光に目が眩む。

目を開けると、亡き母の姿が

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金持ちジュリエット

紅花警察署には、毎日拾得物が届き遺失物届けが出され、如月樹里はその管理や受理に追われていた。
拾得物の大半を占めるのは財布。管理責任者である会計課長の彼女は、その業務と名前から、金持ちジュリエットと呼ばれている。

受付終了間際、一人の女性が現れた。
「落とし物を拾ったんだけど。」
「お届けありがとうございます。こちらへご記入をお願いいたします。」
名は門田澪。綺麗な筆跡でペンを走らせる。
「ご記

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違法の冷蔵庫

「粉飾決算発覚の光電機に、新たな不正の疑いです。」
アナウンサーが画面越しに淡々と報じる。

私は、祖父の代から続く家電量販店を守る店主。
幼い頃興味のなかった家電にも愛着が湧き、お客様に買っていただけると我が子を送り出すような感慨がある。

世間が言う“違法メーカー”は冷蔵庫で国内シェア20%を誇り、そこの冷蔵庫は一級品。
だが連日世間を賑わせるこの騒動で、その冷蔵庫は「違法の冷蔵庫」と詰られ、

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数学ギョウザ

「数学ギョウザ作って待ってるな。気をつけて、早く帰っておいでよ。」
数学ギョウザの季節だ。お隣の縁側から、毎年、この時期になると聞こえてくる。口癖のように、彼はそうつぶやく。
数学ギョウザってどんなのだろう。私はいつも考える。

***

またこの季節が巡ってきた。
野菜たっぷりのギョウザを包む。熱したフライパンに敷き詰め、水を回し入れ蒸し焼きに。皿に返すと焼き色と匂いが食欲をそそる。いっぱい作っ

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しゃべるピアノ

転入してきた高校の音楽室には、「しゃべるピアノ」があるという。
それは普段は見えない、聴こえない。
学校七不思議の一つに数えられている。

こんな噂を聞いて、黙っていられる私ではない。
転入から二ヶ月経った日の放課後、音楽室へ足を運んだ。試験期間中だから、ここで活動する合唱部は今いない。
引き戸に手をかけると、幸い鍵は開いていた。スリルと背徳感に、心臓が早鐘を打つ。

「もしもーし。しゃべるピアノ

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