精神世界作品の最高峰「ID:INVADED」に学ぶ潜在意識
今回は、アニメ「ID:INVADED」について書きたい。
まぁ、これは確実に神アニメのひとつだよね。
ただ、内容が結構難しいんだ。
よって、好き嫌いが結構分かれるかもしれない。
何が難しいのかというと、これがSF+ミステリーというハイブリッド構造になってるということと、特にSF要素の方がやたら難解なんだよ。
ある程度理系の予備知識がないと、ちょっと入っていきにくいかもしれん。
とはいえ、監督はあおきえい。
「Fate/Zero」「アルドノアゼロ」「喰霊-零-」(この人の作品ってどうしてゼロがつくのばかりなんだろう・・?)といった傑作を輩出してきた名監督だけに、これもまた恐ろしくクオリティが高い。
そして何より、これは間違いなく津田健次郎の最高傑作だろう。
悪役の重鎮である津田さんが主役をやるというのも結構珍しい例なんだが、やっぱこの人うまいわ~。
元刑事、現在連続殺人犯として収監中、それでいて名探偵という複雑な設定を見事に演じていたし、特に神回というべき第10話、彼の名演に思わず私は貰い泣きしましたよ・・。
さて、先ほど「内容が難しい」と書いたけど、一体どのへんが難しいのかの説明から入った方がいいだろう。
ひとつ、この作品の不親切な構造を指摘すると、「視聴者にも分かりやすく説明する為に準備された<馬鹿で無知なキャラ>が一切出てこない」という弱点があるのさ。
つまり、出てくる登場人物がみんなキレ者揃いなので、「〇〇って何?」という初歩的質問をするやつがいないんだよ。
よって、なんかよく分からん高度な会話の中から情報をくみ取っていくしかない。
こういうの不親切だな~と思う一方、その分テンポよく話が進んでいくので、私は悪くないと思うけど。
まず大前提として、次のような科学的仮説の上にこの物語は成立している。
人間の思念は、素粒子で構成されている。
えっ?そんな話、聞いたことない、と思うのも当然のことで、実際そういう科学的事実は証明されていない。
とはいえ、必ずしもこれが嘘っぱちかというとそれも断言できなくて、量子力学の実験で「観測」が量子に作用してるところまでは証明されてるから、近いうち【思念=量子】だと証明される日がくるかもしれない。
仮にそれが証明されたという前提で、
ならば、殺人現場には殺意の素粒子が残留しているんじゃないか?
という設定を思いつき、この「ID」という物語が作られたんだろうね。
このへんは「PSYCHO-PASS」っぽい設定だし、誰でも理解できると思う。
問題は、そこから先です。
その「殺意の素粒子」というのは、上の図でいう「潜在意識」のところまでだけが検出されるみたいなのね。
我々が普段自覚してるのは「顕在意識」だが、対して「潜在意識」は自覚のない根っこの意識、睡眠時の夢に近い領域。
でさ、上の図を見てると、最下層の「集合無意識」をバイパスにした場合、AさんがBさんの潜在意識に潜り込めそうな気がしない?
顕在意識にまで行くのはさすがに無理だけど(それが出来たら肉体まるごと乗っ取りだよね)、潜在意識ぐらいまでならハッキングできるんじゃないか、と。
で、そういうのがテクノロジーとして可能になりました、というのが「ID」なんですよ。
Aさんの潜在意識を、Bさんの潜在意識に潜り込ませる。
Aさん=探偵 Bさん=犯人
ここでポイントなのは、潜る探偵もまた「潜在意識」(顕在意識ではない)だから、自分のことが誰かも自覚できないような状態なのよ。
そういうふわふわとした不安定な状態で犯人の潜在意識(殺意の素粒子)に潜り、この犯人がどこの誰なのかを特定しようという奇妙な捜査なんだ。
何となくイメージするなら、「他人の夢に侵入する」という感じだろうか?
いわゆる「夢魔」といって、昔から他人の夢の中に侵入できる能力を描いた物語は結構数多くある。
でもこれ、潜られた側にとってみれば、かなり危ないことらしいのよ。
なぜなら、「夢」というのは潜在意識に近い領域であって、もしもそこを「書き換え」でもされてしまったら、それって一種の「洗脳」じゃん。
そのへんのヤバさを描いたのが、確か「pet」だったよね。
「pet」では人間の潜在的な記憶領域を「ヤマ」「タニ」と表現し、もしもそこを破壊されてしまえば人間は廃人となる、という怖い物語だった。
実際、「ID」でも主人公は他人の潜在意識に働きかけて、自殺に追い込むという行為を繰り返している。
主人公・鳴瓢秋人(名探偵・酒井戸)は、かなりの危険人物である。
敢えてこの役に津田健次郎が選抜されたのも、なんか納得だよね。
この物語の設定では、
サイコパスでなければ、他人の潜在意識の中で自我を保てず、主体性ある行動をとれない
ということになってるんだ。
サイコパスというのは共感性の欠落した人のことであり、なるほど、情動の渦である潜在意識界に入っても影響受けず飲み込まれない、というロジックは実に整合性のとれた話である。
こういう細かい設定、考案した人はユング心理学や脳科学に相当精通してるわけで、マジ天才的だと思うよ。
で、この子がヒロインの本堂町小春(名探偵・聖井戸御代)。
cvがM・A・Oなので清純派っぽく思えるが、よく見るとオデコに穴が開いている。
この子、物語の冒頭で猟奇的殺人犯に拉致され、ドリルでオデコに穴を開けられたんだよね。
だけど、それで逆にサイコパスの資質、「名探偵」となり得る資質を得て、覚醒する。
この「オデコに穴」という設定を見て、昔の人気漫画を思い出した人は多いんじゃないだろうか。
そう、山本英夫先生の「ホムンクルス」さ。
脳というのは、いまだ科学で解明できない領域の多い謎の器官で、頭蓋骨に穴を開けて脳を外気に晒した状態にすれば何かに「覚醒」するのでは・・?というのは、昔から指摘されてきたことらしい。
実際は知らんけどね。
「ホムンクルス」の中では、他人のトラウマ(潜在意識)が見える、という設定だった。
なるほど、本堂町小春と似た感じか。
まぁ、とにかく「ID」は、こういった世界観が好きな人にはタマらん内容になっている。
興味ない人はとことん興味ないだろうけど、私には興味がある領域で、特に私が「ID」の描写で凄い!と驚愕したのは
・潜在意識=黄泉の世界(地獄?)
・潜在意識=会いたかった死者に遭えるパラレルワールド(天国?)
といった感じで、潜在意識というものの可能性を様々に示してくれてる点だよ。
精神世界を描いたアニメの中でも、「ID」の領域は頭ひとつ抜けてると思うわ。
正直、ラスボスを倒す云々のバトル要素はどうでもいいんだ。
それより私のハートにグッときたのは
①鳴瓢秋人⇔死んだ妻、娘
②本堂町小春⇔富久田保津
③井波七星⇔数田遥
④百貴船太郎⇔飛鳥井木記
といった、サイコパスたちの人間関係、その強い絆である。
③なんて、東野圭吾「白夜行」そのまんまの世界観なんだよね。
極めて歪んだ愛の形だけど、なかなか文学的である。
そして何より①、ここは泣けるわ~。
この作品では潜在意識界=パラレルワールド、という極めて画期的な解釈をしており、ある意味、潜在意識界=天国である。
うん、意外と真実はそうかもしれないな・・。
このての話は「臨死体験」経験者を徹底取材したジャーナリスト立花隆さんの著書が有名だが、この本の話だと、その体験談はバラつき、個人差があるんだよね。
と考えると、「あの世」というのは普遍的なものでなく、パーソナルなものである可能性もあるわけさ。
つまり集合無意識ひとつ手前の潜在意識、夢のようなものだ、と。
いうなれば、その人がその世界の「観測者」であるがゆえ初めて構築された現実と全く変わらぬ世界であり、これもまた多層世界の中のひとつである、と。
皆さんは、どう思う?
さて、こういったことを考察するにおいて「ID」ほど良質なテキストというのもなかなかないんだけど、おそらくこれの元ネタになってる話というのは「秘密-トップシークレット-」だと思う。
これは清水玲子先生の名作漫画(文化庁メディア芸術祭優秀賞)が原作で、「ID」に比べるとかなり脳科学の方に軸足を置いたサスペンスだ。
でも、設定は非常によく似ている。
これもかなりお薦めなので、「ID」が好きな人は是非見てほしい。
大体このてのネタは、スピリチュアル、オカルト、宗教みたいなもので解釈されることが多いんだけど、私はこういうのって完全に科学の領域だと考えていて、その点でいうと量子力学、ユング心理学、脳科学などを総動員した「ID」は大傑作なんですよ。
まだ未見だという人は、是非一度見てほしい。
細かいニュアンスまでは分からずとも、必ず何かを掴めるはずだから・・。
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