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「攻殻機動隊ARISE」この物語の正しい解釈について

今回は、「攻殻機動隊ARISE」について書きたい。
まず最初に言っとくと、私、この「ARISE」は「攻殻」シリーズの中で一番嫌いなのよ。
ちなみに好きな順番をつけると

【1位】攻殻機動隊SACシリーズ(神山健治監督)
【2位】攻殻機動隊GHOST IN THE SHELL(押井守監督)
【3位】攻殻機動隊SAC2045(神山健治監督)
【4位】イノセンス(押井守監督)
【5位】攻殻機動隊ARISE(黄瀬和哉総監督)

といったところだ。
多くの「攻殻」ファンはやたら「GHOST IN THE SHELL」を神格化していてこれを不動の1位にしてるものだが、ドラマの分かりやすさ、ボリューム、「努力・友情・勝利」的なエンタメ性、この3つが揃った「SAC」シリーズこそ、個人的には一番面白いと感じるよ。
そして「2045」は「SAC」の延長線上にあるものだろうし、「イノセンス」は「GHOST IN THE SHELL」の後日譚。
となると、「ARISE」だけがひとつ浮いちゃってるんだよね。
一応これは「攻殻」結成前の前日譚、俗にいう「エピソード0」っぽいものとされてるんだが、でも設定を「SAC」と照合してみると合ってなかったりするのよ。

「SAC」
草薙素子は6歳の時に飛行機事故に遭い(その詳細は別作品「エデンの東」にある)、そこから全身義体となる。

「ARISE」
草薙素子は胎児の時にテロに遭い、かろうじて脳だけ生き残り(母は死亡)そこから全身義体となる。

こうして設定に矛盾があると、「ARISE」をエピソード0と捉えていいのかどうかも怪しいところ。
じゃ、「SAC」はさすがに無理としても、「GHOST IN THE SHELL」の前日譚にはなり得る?
う~ん、どうだろう。
一般的には「別世界線」とされてるんだけど、私はくっつけても構わないと思うよ。
せっかく作った前日譚なんだし、どこかにくっつけないと「エピソード0」の意味がないでしょ。

ところで、上に「ARISEが一番嫌い」と書いたが、でもそれは本シリーズのクオリティが低いと言いたいわけじゃないんだ。
むしろ、クオリティは高いよ?
そのクオリティを裏打ちしてるのが本作の脚本を担当してる冲方丁であり、この人は押井さんや神山さんと違ってガチのSF作家ゆえ、どうしても物語が難解になっちゃうクセがあるんだよね。
少なくとも、「努力・友情・勝利」みたいなシンプルなエンタメにしてくれない。
ゆえに「ARISE」は、見ててスッキリしないし、何より草薙素子が驚くほどダメダメなんだ。
序盤から、ウイルス感染してまんまと敵に欺かれ、やがて恋人のオトコにも騙され、捜査では常に後手を踏み、とにかくホント、最初から最後まで敵に振り回されっぱなしである。
こんなにみっともない草薙、押井版や神山版では絶対あり得ないよね。
多分、これは冲方さん的に意図したキャラ設定で、「まだ完成してない未熟な草薙」ということなんだと思う。
その意味もあってか、cvも大御所・田中敦子さんじゃなく、坂本真綾さんが起用されてるんだけど。
坂本版草薙は喜怒哀楽がはっきりしており、とても人間っぽい。
だから、どうしても田中版草薙のクールさと繋がらないんだよなぁ・・。
「草薙も昔はこんな感じだった」といえるほど時系列で開きがあるならまだしも、「ARISE」は2027年~2029年、「GHOST IN THE SHELL」が2029年頃、つまり時系列ではほとんど連続してるのに。

「ARISE」草薙(左)とクルツ中佐

むしろ「GHOST IN THE SHELL」における草薙っぽさを感じさせるキャラはクルツ中佐だったわ。
この人、めっちゃ凄いのよ。
実際ほとんどのケースで草薙を出し抜いてて、草薙はいいように翻弄されていた。
多分、「攻殻」全作品の中でも最強キャラの部類に入るのは間違いないだろう。

<私が考える敵ハッカー能力ランキング>

【1位】
人形使い(GHOST IN THE SHELL)
【2位】
クルツ中佐/ファイアスターター(ARISE)
【3位】
シマムラタカシ(2045)
【4位】
クゼ(SAC)
【5位】
笑い男(SAC)

正直いうと、1位~3位の実力にほとんど差はない。
ただ、1位の人形使いと3位のシマムラは人間でなく人工知能。
ネタバレするとクルツの正体もまた「遠隔義体」であり、「本体」といえるのは、この娘でした↓↓

養護施設にいた、謎の少女クリス(ファイアスターター)

このクリスが、複数の義体を遠隔操作してたんだね。
クルツ中佐もそのひとり。
どうやらこの子は重度の身体障害者らしく、自分の体を動かせない分、遠隔操作技術に長けていたのかと。
ちなみに草薙とクルツは幼馴染みなんだが、その頃から既にクリスがクルツという義体を操ってたということなんだと思う(当時の草薙はクリスの存在を知らなかったはず)。

少女時代のクルツ中佐

で、このクリスという少女もただ好き勝手に義体を遠隔操作してるわけじゃなく、彼女の身柄は陸軍501機関(草薙が育てられたところ)が預かってるわけで、いうなれば501機関の意思としてやってたということ。
草薙が501機関から独立し、自らの部隊・攻殻機動隊を作ることでひとつの自由を得たのに対し、クリス(クルス)は最後まで501機関のシステムの一部だったわけね。
哀れな話である・・。
でも最後の最後、彼女はひとつの自由を得る。
草薙が501機関を力ずくでぶっ壊した流れを利用し、彼女は「第三世界」へと逃亡したんだ。

その「第三世界」とは?

それは、「GHOST IN THE SHELL」で人形使いが草薙を誘った場所、あるいは「SAC」でクゼが草薙を誘った場所、そして「2045」でシマムラが草薙を誘った場所。
ようは、ネットの世界である。
こうやって最後はネット世界に逃避するというオチ、「攻殻」ではひとつのお約束なんだろう。

ツムギ

草薙の義体をメンテンナンスしてる技師・ツムギもまた、草薙の幼馴染みであるっぽい。
その頃の画像は、これ↓↓

養護施設時代の草薙と、一卵性双生児姉妹

この一卵性双生児姉妹の脳ふたり分をひとつの義体にパッケージしたのが、今のツムギの姿である。
・・どんだけ非人道的な施術やねん?
そう、この501機関って少し狂ってるのよ。
そんな非人道的なところで育てられて、偽の記憶(育ての両親の記憶)まで植え付けられた草薙・・。
たまに「ARISE」を見て間違った解釈をしてる人の存在が見受けられるんだが、そういう人は「クルツ中佐って超悪い奴だ!」と捉えちゃってるのね。
違うんだってば。
悪いのはクルツじゃなく、そういうことをさせてる501機関側なのよ。
草薙もそのへんは分かってて、だからクルツを憎むどころか絆のようなものをいまだ感じてるし、それはツムギに対しても同様。
だって、幼少期をともに過ごしたトモダチだよ?
家族のいない天涯孤独の草薙にとって、なかば家族ともいえる存在だったんじゃないだろうか。
そのへん、クルツやツムギにもまた同じ思いがあったのか、実はギリギリのところで草薙のことを助けようとしてくれてるんだよね。
そういうポイントの描写を見逃さないでほしい。
ツムギもまた、最後は「第三世界」へと逃避したようなんだけど、この姉妹が現世を去る時、こういう意味深な言葉を残したのを覚えてる?

「どのみち私たちの脳は限界だ。
その前に第三世界にシフトする。
データの海の一部になることを祈ってね。

いつか、君にアクセスする存在が生まれるかもしれないぞ?」


「攻殻」ファンならお分かりだと思うが、この「君にアクセスする存在」とは、当然「GHOST IN THE SHELL」の人形使いのことを暗示してるわけよ。

「GHOST IN THE SHELL」草薙と人形使い

思えば、人形使いというのは摩訶不思議な存在だった。
彼はもともと人間ではなく、ネット世界から生まれた人格だという。
なぜ、そんなものが発生したのか?
そこについて「GHOST IN THE SHELL」は特に言及してないんだが、冲方丁はそこに新解釈を入れてきたのよ。

人形使い=かつてネット世界に逃避したクルツやツムギの残滓が人格となったもの


・・なるほどね。
そう解釈すると、「GHOST IN THE SHELL」で草薙があっさり人形使いとの融合を受け入れた真意、それがようやく見えてくるような気がするんだよ。
いや、もちろん、これは冲方さんの後付け設定さ。
だけど、草薙にとっては

人形使いとの融合=家族(クルツやツムギ)との融合

を意味するという、ロマンティックな設定ね。
私はなかなか悪くないと思ったな・・。
この「ARISE」という物語、ざくっとまとめると、

「草薙が501機関をぶっ潰し、旧友のクルツやツムギが解放された物語」

そして、その続編となる「GHOST IN THE SHELL」をまとめると

「クルツorツムギが草薙にアクセスし、彼女を第三世界へと導いた物語」


ということになるんだね。

冲方丁、やるな~

そもそも、人間が「第三世界」に行く、という構造自体意味分かりません、という人は多いと思う。
それはね、こう考えてみてくれ。
人間の肉体というのはあくまでハードであり、本質はハードでなくソフトの方なのよ。
「脳」のことじゃないよ?
脳すらそれはハードであって、ソフトというのは脳から発生する電気信号(インパルス)としてのメモリーなんだ。

で、それが信号である以上はおそらくプログラム言語化もできるだろうし、その信号をネット世界で再構築してメモリー化した、ということね。
イコール、それが「人形使い」という人格なんだよ。
このへん突き詰めていくと、そのうち「不老不死」、永久に生き続ける人格というのもあり得るかもね・・。
もはや、神?
うん、私は「攻殻」シリーズって

草薙素子が最後は神になる物語


だと解釈をしてるよ。


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