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「クビキリサイクル(戯言シリーズ)」は西尾維新の真骨頂

今期アニメの中で、「小市民」はなかなか印象深い作品だったと思う。
京アニの名作氷菓と同じ原作者のアニメとあり、当然「氷菓」っぽいのを想定してたというのに、これが全然テイストが違う。
どちらの作品も原作を読んだことがないので、このふたつのアニメの違いが原作準拠なのか、あるいは演出する側(京アニ⇔神戸守)に因るものだったのか、そこまではよく分からない。
多分、これはほとんどの人に賛同いただけないんだろうけど、あくまで私の個人的嗜好で言わせてもらうと、アニメの好みとしては断然

「氷菓」<「小市民」


である。

「氷菓」ヒロイン・千反田える
「小市民」ヒロイン・小佐内ゆき

正直、どっちのヒロインもあまりお近づきにはなりたくないタイプ(笑)。
だけどミステリーのヒロインとしては、断然、小佐内さんという存在の方が面白い。
「氷菓」の場合は探偵役の折木奉太郎という天才一強体制にも近く、「折木スゲー!」で終わっちゃうんだが、「小市民」の場合は探偵役の小鳩という天才に対し、その対抗馬として小佐内さんというもうひとりの天才(彼女の頭脳は僅かに小鳩をも上回ってる感じ)がいて、その応酬の緊張感みたいなものが私にはタマらんのよ。
「・・は、速すぎて攻撃が見えない!」という天才2人のバトルを見る観客の気持ちになっちゃうよね。

今回の「小市民」の監督は神戸守さんなんだが、思えば彼がかつて手掛けたミステリーアニメ「すべてがFになる」もそういう系統だったと思う。
これも探偵役の犀川創平という天才が密室殺人の謎を解いていく系のやつで、正統派ミステリーかな?と思いきや、いや、最後の最後はもうひとりの超天才・真賀田四季が完全に犀川を出し抜いちゃう、というオチ。
これも、めっちゃ面白かったなぁ~。

「すべてがFになる」(2015年)監督・神戸守

天才vs超天才

やはりミステリーの醍醐味は、この構図にこそある。
・・というわけで、今回はそんな「天才」系アニメの最高峰というべき作品をひとつ、ご紹介したいと思います↓↓

「クビキリサイクル」総監督・新房昭之

制作・シャフト(2016年~)

これはタイトルの「クビキリサイクル」より、西尾維新デビュー作戯言シリーズのアニメ化と表現した方が分かりやすいだろう。
お馴染み「西尾維新アニメプロジェクト」の一環であり、制作・シャフト、総監督・新房昭之ゆえ安定のクオリティ。
で、これの内容が絶海の孤島というクローズドサークル、かつ密室連続殺人という本格ミステリーなんだ。
西尾先生は「物語」シリーズのイメージがあるから伝奇作家と思われがちだが、この処女作のテイストからして本質はミステリー作家なのかもしれないね。
ちょうど今、私は「物語」オフ&モンスターシーズン第9話「忍物語」視聴が済んだばかりなんだけど、この新章「忍物語」は伝奇+ミステリーという西尾先生の真骨頂で、実に面白い!

だけどそれに勝るとも劣らないほど、    「クビキリサイクル」もまた実に面白い!


ストーリーの概要については、この動画↑↑(約1分半)を見てもらった方が早いだろう。
音楽を梶浦由記が手掛けるなどめちゃくちゃ豪華な作りなのに、残念ながら地上波放送されることなく、OVA全8巻でのリリースとなっている。
やはり首を斬り落とす系の猟奇殺人事件を扱った内容ゆえ、地上波放送ではきつかったんだろうか?
・・いや、例のシャフトの抽象描写だし、全然グロくはないんだけど。

でね、西尾先生の作品には共通していえることだと思うんだが、作中にほぼ凡人は出てこないのよ。
それは「物語」シリーズにしてもそうで、出てくる登場人物は必ずといっていいほど何らかの図抜けた能力、もしくは異常性を有してるよね。
それは「クビキリサイクル」も同じで、出てくる登場人物が「天才」ばかりなのよ。

①天才学者
②天才画家
③天才技師
④天才占術師
⑤天才料理人

左から、①②③④⑤

財閥令嬢のご招待(この令嬢の道楽)により、絶海の孤島に集められた5人の天才。
物語の語り部となるのは③の同伴者「ぼく」で、一応、彼は凡人を自称している。
ま、これもミスリードなんだけどさ。
で、展開としては絶海の孤島のお約束というべきか、当然殺人事件が起こるわけよ。
まず最初に②が首無し死体、しかも密室で発見され、やがて①も首無し死体で、またしても密室で発見される。
さぁ犯人は誰?というのを、「ぼく」が探偵役になって紐解いていくというストーリー展開。
真犯人候補は上記天才たちだけじゃなく、招待主の令嬢、およびそのメイドたち、および①の介護人などがいて、みんな各々怪しいというか、おそらく誰一人として凡人がいないんだよね。
それは「ぼく」も含めて。
で、普通なら殺人があれば警察を呼ぶだろうに、令嬢は「警察を呼ばない」と言う。
1週間後に哀川潤さんが来るので、それを待とう」と言い、みんな哀川潤って誰やねん?と思うが、どうもその人が「天才探偵」っぽいことを匂わせてくる。
しかし1週間も待ち、さらなる犠牲者が出ることを危惧した「ぼく」は独自に捜査を開始していく。

「ぼく」(cv梶裕貴)と天才技師・玖渚友(メインヒロインcv悠木碧)

まぁ、オチをいえば1週間以内に真犯人検挙にまで至るわけだけど、問題はそこから先の展開。
事件を解決し、また日常生活に戻った「ぼく」のところに1人の女性が訪れる。

この人、誰?
はい、彼女こそが令嬢の言ってた、哀川潤ですわ。
彼女のふたつ名は、「人類最強の請負人」。
どのぐらい最強なのかというと、cvが甲斐田裕子といえば、アニメファンにはそれ以上の説明は要らんだろ(笑)。
西尾先生いわく、哀川は西尾先生の作品群の中で最強キャラという位置付けらしい。
先生いわく、「物語」シリーズのキスショットより上とのことで(完全体のキスショットなんだろうか?)、実は「物語」シリーズと「戯言」シリーズは世界線が同一らしく、稀に両作品の登場人物が絡むケースもある。
そういう意味じゃ、哀川潤は絶対押さえておくべくべきキャラだと思う。
私、哀川潤vs羽川翼、もしくは哀川潤vs臥煙伊豆湖とか絶対見てみたいよ。
甲斐田裕子vsゆきのさつきとか、もう鳥肌もんだよね(笑)。

哀川潤と「ぼく」

で、この哀川潤は全8巻の中の第8巻になってからのこのこ出てきたわけで、そこから彼女は「ぼく」の解明した事件のさらに一歩奥にまで踏み込んだ、「本当の真相」を紐解くわけよ。
このプロット、ビックリしたわ~。
まさか探偵が最後のラスト30分に出てきて、全部ひっくり返してしまうとはね。
と同時に、この事件の真犯人の天才性にぞっとするわけだけど・・。

こういう事件の二重構造、実はよく似てるのが「小市民」である。
あれも小鳩が見事に事件を解明して見せた一方、実は全てが小佐内の掌の上だったでしょ。
「ぼく」=小鳩

「小市民」と「クビキリサイクル」は、どこかよく似ている。


時々「小市民」でワケ分からん心象風景が挿入される演出に「?」となった視聴者も多いと思うけど、あれはひょっとして、神戸さんがシャフト的演出を意識したのかもなぁ・・。

「小市民」の前衛的演出

じゃ、最後に「シャフト演出」について。
「クビキリサイクル」見て思うことは、やっぱり西尾作品ってシャフトとの相性(新房さんとの相性?)が抜群だということさ。
実際、幾つか他の制作会社が作った作品も見てみたものの、シャフトほどにしっくりこなかったし。
ただし、これはシャフトが他の制作会社より優れてる、といいたいわけじゃない。
相性なんだよ。
逆に、シャフトでも全然しっくりいかなかった例もあるわけで、皆さんは「Fate」シリーズのシャフト版、「Fate/EXTRA LastEncore」って作品見たことある?

「Fate/EXTRA LastEncore」(2018年)

このシャフト版「Fate」、私の評価では「Fate」シリーズの中でも図抜けてダメなんですよ。
いや、もう少し厳密にいうと「シャフト作品としてのクオリティは高いが、TYPE-MOON作品としては全然ダメ」といったところか。
あのシャフト独特の演出って、やはり作品を選ぶんだと思う。
逆に、TYPE-MOON作品にばっちりハマったufotableが、「物語」シリーズの制作をやってたら一体どうなってたんだろうね?
それはそれで、見てみたい衝動にかられる(笑)。


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