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日本の異世界フィーバーは「ロードス島戦記」から始まったのか?

4月から、また「転生したらスライムだった件」が始まるという。
これ、ホントにドル箱になってしまったね。
原作のシリーズ累計発行部数は4500万部を突破してるらしくて、これはラノベ史上最高記録である。
「とある」シリーズや「ソードアートオンライン」シリーズをも大きく引き離し、単独ぶっちぎりの独走状態。
というのも、
・異世界転生
・俺Tueee
・美少女ハーレム
・コメディ
・でもシリアス要素もあるよ
・意外と緻密な設定

という感じで、至れり尽くせりのマーケティング型ファンタジーだから。
ご存じのように、これは「小説家になろう」から出てきた作品である。
原作者の伏瀬さんという人、もとはただのサラリーマンだったらしいけど、今はめっちゃ儲かってると思う。

この作品、「ちょうどいい」感が絶妙なんだよね。
単純すぎず、複雑すぎず、コメディでありつつもバランスよく時にシリアスを交え、ハーレムでありつつもベタベタせず、主人公はヒーローでありつつも実は魔王という悪の立ち位置(実はめっちゃ人を殺してる)。
このへんの絶妙なバランス感覚があったからこそ、これは売れたんだと思うよ。
多くの「なろう系」は、正直このバランスで失敗してるんだよね。
失敗してるやつは、見てるとだんだんイライラしてくるわけで・・。

さて、今回は異世界ファンタジー、およびそのアニメについて書くんだが、この歴史はどこから始まったと思う?
そりゃ海外では「指輪物語」や「ナルニア国物語」、いや、むしろそれ以前に神話から既にファンタジーは始まってたんだが、日本の場合はゲームなら「ドラゴンクエスト」で、ラノベなら「ロードス島戦記」を起源にするのが定説である。

「ロードス島戦記」、これは1988年にスタートした水野良先生の小説で、1990年にはアニメ化もされている。
ぶっちゃけ、この時のアニメが「KADOKAWAアニメの元祖である。
えっ?
KADOKAWAアニメの元祖は昭和の「幻魔大戦」じゃないの?と思うだろうが、それは映画ベースである角川春樹体制のものであって、それを払拭したKADOKAWA体制の原点はやはり「ロードス島戦記」なんだよ。
ここから「ラノベのアニメ化」という新機軸が始まったんだ。
興味深いのは、これがテレビアニメでなく、なぜかOVAで発売されたことである。
なぜ?
私が思うに、これは当時の小説分野で「ロードス島戦記」と人気を二分していた、「銀河英雄伝説」のOVAを意識したんじゃないかと。
角川の看板である「ロードス島戦記」に対し、徳間書店の看板が「銀河英雄伝説」だったわけよ。
で、「銀河英雄伝説」の方が先行してOVAでアニメ化し、これ大ヒットしていたんだね。

OVAが大ヒットした「銀河英雄伝説」

角川書店vs徳間書店
これ、意外と因縁の関係である。
というのも、角川春樹時代にアニメ映画では徳間書店こそ最大のライバルだったから。
春樹氏が「幻魔大戦」以降、「少年ケニヤ」「カムイの剣」「時空の旅人」など立て続けに大型作品を発表するも、それに対して徳間書店は「風の谷のナウシカ」や「天空の城ラピュタ」や「となりのトトロ」で対抗(ジブリは当時、徳間書店の子会社だった)。
興行収入で角川は負けてたっぽい。
ましてやOVAでも先手を取られてるし、「ロードス島戦記」は角川歴彦自ら総指揮に立ち、角川の総力をもって臨んだOVAだったと思う。
で、その内容はどんなものか。
うん、まさに王道、正統派のハイファンタジーさ。
エルフ、ドワーフ、ドラゴン、ゴブリン、魔女etc
我々のよく知る異世界ファンタジーの要素は、全部ここに詰まっている。
ただ、ちょっとあれなんだよな・・。
多分だけど、いまどきの異世界転生モノを見慣れた人が「ロードス島戦記」を見ると、「何かつまらん」と感じるんじゃないないだろうか。
KADOKAWAが頑張って小説の世界観を忠実に再現しようとしてるがゆえか、妙に地味な印象を受けると思う。
たとえば、魔法詠唱。
ここでの詠唱はボソボソと聞き取れない小声で呟いており、我々がよく知る「エクスプロ~ジョン!!」みたいな派手なものではない。

「このすば」も始まりますね!

いまどきのやつは、アニメ的なエフェクトがきっちり効いてるんだよ。
普通、正統派ファンタジーはここまでやらないから。
でも、ストーリーそのものとしては、よく原作ファンが
いまだ『ロードス島戦記』を超えるファンタジーはない!
と断言してるのを耳にする。
うん、それはそうなのかもしれないけど、でもさ、いまどきの「なろう系」に慣れた視聴者たちが「ロードス」に耐えられるかな?
序盤、主人公はめっちゃ弱いし、俺Tueeeeの真逆だよ?
本来、少しずつ強くなっていくのが王道であり、むしろいまどきのやつの方がおかしいというのはあるんだけど。
しかし、その点でいうならば、「ロードス」の5年後にアニメ化をされた「スレイヤーズ」は、もう「いまどき」のスタイルに近かったな。

「スレイヤーズ」のヒロイン・リナインバース

「スレイヤーズ」の魔法詠唱はいまどきと変わらぬ絶叫系だし、エフェクトも超ド派手。
そして何より、主人公のリナインバースが物語開始時点で既に作中最強のキャラなんだ。
色々な意味で、「ロードス」の真逆である。
あ、もちろんこっちは「ロードス」みたく本物志向の正統派ではないよ。
基本、コメディだし。
だけど、KADOKAWAのビジネスとしては、大穴だった「スレイヤーズ」の方がデカくなっていったんだ。
だってさ、ラインナップを見てよ。

・スレイヤーズ(TVアニメ1期)26話
・スレイヤーズNEXT(TVアニメ2期)26話
・スレイヤーズTRY(TVアニメ3期)26話
・スレイヤーズREVOLUTION(TVアニメ4期)13話
・スレイヤーズEVOLUTION-R(TVアニメ5期)13話
・スレイヤーズ(劇場版第1弾)
・スレイヤーズRETURN(劇場版第2弾)
・スレイヤーズぐれえと(劇場版第3弾)
・スレイヤーズごぅじゃす(劇場版第4弾)
・スレイヤーズぷれみあむ(劇場版第5弾)
・スレイヤーズすぺしゃる(OVA)3話

KADOKAWA、完全に「ロードス」よりこっちを主力にしてるじゃん?
そう、彼らは学んだんだ。
変に正統派でいくよりも、ライトな感じでいく方が視聴者のウケがいい、と。
あと、やっぱ林原めぐみ効果は凄いし、声優って大事な要素だよな、と。「スレイヤーズ」の主題歌のほとんどは林原さん自ら唄っており、こういう流れを決定付けたのも、おそらくこの作品からだろう。
冒頭で、KADOKAWAアニメの元祖は「ロードス島戦記」とか書いたけど、正しくは、KADOKAWAアニメの原点は「スレイヤーズ」ということにしておこうか。

さて、前述した徳間書店の方はどうなったかということだが、これが2005年にせっかく持ってたジブリの版権をジブリ側に売却、アニメ事業からの撤退をしちゃったのよ。
つまり、角川書店VS徳間書店のアニメ対決は、角川の完全勝利ってことで。
しかし、もったいない。
徳間書店は「アニメージュ」を発刊してるところだし、昔からアニメに理解のあった会社である。
それがよりによって2005年に撤退って、これから本格的アニメブームがくるタイミングだというのに、よっぽどの経営難だったんだろうね。
勝敗を分けたのは、やはり「ラノベ」だろう。
角川書店ではそれが育ち、一方徳間書店ではそれが育たなかった。
それにジブリがいくらドル箱とはいえ、あそこはあまりに寡作すぎる。
上に「スレイヤーズ」の作品ラインナップを挙げたが、これが95~98年の3年間でテレビシリーズ78話、映画4本、OVA3巻を作っている間に、ジブリは「もののけ姫」と「耳をすませば」という2本の映画を作っただけである。
まぁ、「もののけ姫」は200億以上という予想を超える興行収入をあげたから良かったんだけど、万が一コケてたらと思うと、ちょっと怖くなるよ。
実際、ジブリが「もののけ姫」の次に制作した「ホーホケキョとなりの山田くん」(高畑勲監督)は、制作費20億(←「もののけ姫」とほぼ同額)、興行収入15億という赤字だったからね。

「ホーホケキョとなりの山田くん」
ここでも「かぐや姫」をやっていた高畑勲・・

まぁとにかく、角川として「ロードス島戦記」よりも「スレイヤーズ」、OVAよりもTVアニメ、正統派よりもライト路線、という新基軸を90年代に決めたのは事実であり、この流れが今もなお人気の異世界転生アニメにまで繋がってると思う。
「転スラ」はKADOKAWAアニメじゃないけど、性格的にはほぼKADOKAWAだよね。
皆さんには、今敢えて「スレイヤーズ」の視聴をお薦めしたい。
30年ほど前の古いアニメとはいえ、さすがいまどきのアニメの原点だけあって、割と違和感なく見られると思うよ。
そして何より、レジェンド・林原めぐみ全盛期のハジケっぷりを心ゆくまで味わってほしい。


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