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角川アニメ見ずして、アニメを語るべからず

「メディアミックス」という言葉、皆さんもよく耳にすると思う。
ひとつ新作アニメがスタートしたら、同時に漫画や小説やゲームもセットで売り出されるというパターン。
いまどきこういうのは当たり前の商法となってるけど、日本でこれを最初に成功させたのは角川春樹だという。
いわゆる、「角川映画」ってやつだね。
彼が仕掛けた大型プロモーションの最初は「犬神家の一族」で、元々これは自社の小説を売るにはどうしたらいい?と考え、「そうだ、販促になる映画を作ろう」ということになったらしい。
そこまでは誰でも思いつくことだとしても、ただ春樹氏の非凡なところは、その為に巨額のおカネを注ぎ込んでインパクトあるCMを作ったことさ。

この映像のインパクトは強烈!
必然として映画は大ヒットし、それまで「知る人ぞ知る」だった横溝正史の小説も飛ぶように売れた。
角川映画はその後も「人間の証明」「野生の証明」「戦国自衛隊」など次々とヒットを連発し、また薬師丸ひろ子や原田知世など角川専属のアイドルを発掘・育成したわけで、この時代の春樹氏のプロデューサーとしての手腕は凄かったと思う。
で、それほど商才に長けた春樹氏のこと、アニメというコンテンツの可能性に目をつけるのもまた早かったんだ。
彼は角川映画の一環として、新たにアニメ企画を立ち上げたわけよ。
それの第1弾が、「幻魔大戦」。

「幻魔大戦」

これもまた広告宣伝に巨額を投じて、日本に「ハルマゲドン」という言葉が浸透したのもこの映画のCMからである。
監督はりんたろう、キャラデザには新進気鋭の漫画家・大友克洋を起用するなど、このへんはプロデューサーとして抜かりない。
大友さんのキャラデザは物語に妙なリアリズムを与える効果を果たしてるし、あと天才アニメーター金田伊功のアクション作画はやはり凄い
ストーリーはひとまず置いとくとして、映像としては今見ても十分に一級品である。
結果としてかなりの興行収入を記録し、角川アニメとして上々の滑り出し。
ただし、問題はここからだ。
続く第2弾、春樹氏がチョイスした企画は「少年ケニヤ」だった。

これ、見たことある人いる?
とにかくツッコミどころ満載のアニメで、逆に「幻魔大戦」よりこっちの方を優先的に見てもらいたいほどさ。
まず、キャッチコピーが「口移しにメルヘン下さい」
意味不明すぎる(笑)。
で、この映画の監督がなぜか大林宣彦。
でもって、主演が高柳良一と原田知世。
ようするに、これ前年にヒットした「時をかける少女」の3人をそのまんまスライドさせたわけよ。
全員アニメのシロウトだから、かなり酷い(笑)。
いや、原田知世とか酷いのが1周回って、逆にめっちゃカワイイんだけど。

当時の原田知世

そもそも、尾道を舞台にしたドラマを得意とする大林宣彦に、アフリカ舞台にしたアクション系のアニメを任せること自体にムリがあるでしょ。
だけど強引にやらせちゃうあたり、いかに当時の春樹氏の権力が絶大だったかを物語ってると思う。
で、大林さんが「僕アニメよく分からないけど、好きにしていいよね?」と開き直ったのか、とにかくメチャクチャやってやがる。
ひとつのエピソードをWikipediaから引用しよう。

ケート(原田知世の役)は12歳の少女と設定されているが、1コマだけ陰裂を露出するシーンがあり、当時の角川特番で「監督のささやかなイタズラ」と称して紹介された。

右の子がケート

大林宣彦、こいつド変態じゃん(笑)。
どこで映るのか私は何度も見返してみたが、残念ながら発見に至らず・・。
あ、言っとくけど見返したのはアニメ研究の一環であり、私は変態じゃないからね?
皆さんの中にも興味ある方がいれば、「kenyaboy anime」とパソコンで検索してみて。
多分、無料フル動画を見れるはず。
結構、凄い内容だよ。
最後は原爆が爆発しちゃうし、すると地割れして地下から大量に恐竜たちが涌いてくるし、主人公はその恐竜たちと闘うし、もはやカオス。
この終盤、マジで凄いインパクトである。
結果的に、この映画は大コケしたらしいけど。
なんせ、公開時期が「風の谷のナウシカ」とカブったから・・。

で、角川アニメ第3弾は「カムイの剣」。
監督はりんたろう、主演は真田広之。
これは、アイヌの少年が海賊王の財宝を探す物語で、同じくお宝を狙う忍者軍団と死闘を繰り広げながら旅をするという、いわば「ゴールデンカムイ」の元ネタっぽいストーリーである。
かなり壮大なストーリーで、途中からアメリカに渡って西部劇っぽい展開になるし、終盤は戊辰戦争でカオスになるし、西郷隆盛とかまで出てくるし、ちょっと色々展開が盛り沢山すぎる。
これをテレビアニメ26話ぐらいのスケールでやるならまだしも、せいぜい2時間程度の映画じゃ十分に消化しきれなかった感じ。
もったいないなぁ、と思った。
せめて、前編・後編2部作とかにすりゃよかったのに・・。

角川映画の特徴というべきか、予告編だけは完璧なんだけどね(笑)。
とにかく、「ジブリに負けるか!」という意気込みが痛いほどに伝わってくる。
「幻魔大戦」にせよ「少年ケニヤ」にせよ「カムイの剣」にせよ、全て壮大な物語ばかりで、このへんはバブルの申し子・春樹氏の嗜好がよく出てると思う。
めっちゃ制作に口を挟んでくるプロデューサーゆえ、りんたろう監督も大変だっただろう。
そもそも、春樹氏ってかなりイタい人なのよ。
彼の人格を表すエピソードを、いくつかWikipediaから引用しよう。

・3歳の頃から何回も、夥しい数の赤い点滅や葉巻型のUFOの大編隊と宇宙人を見たと主張していて、自身が宇宙を飛び回る意識もあるという。

・自称、超能力者で未来予知能力を持つらしく、35歳で海を漂流してる時に神通力に気付いたといい、モンゴルに行ったときには数十年ぶりに雨(雪)を降らせている。

・尿道結石で入院中の手塚治虫の手を握って治し、それへの感謝として「火の鳥(太陽編)」を角川書店が発行の「野性時代」で連載させ角川で作品を文庫化させている。

・たまに太陽が2つ出ているのを見ることがあり、関東大震災を止めたのも自分だと言う。

角川春樹

春樹氏って、リアル幻魔大戦だったんだね・・。
結局、彼はコカイン密輸容疑で逮捕された(笑)。
10年ぐらい出てこれなかったという。
で、弟の歴彦氏が次の社長となり、ここから角川アニメは大きな変貌を遂げたんだ。
端的にいうと、歴彦氏はメディアミックス路線を継承するも、自らは現場に口を挟まず、専門のスタッフに任せるというスタンス。
その一方、出版業として「電撃文庫」「ファンタジア文庫」等を立ち上げてラノベに力を入れていき、そこからアニメ展開をしていく商法をとった。
初回は「ロードス島戦記」や「スレイヤーズ」といったところ。
特に「スレイヤーズ」は林原めぐみ人気も相まって、日本アニメ界に異世界ファンタジーブームを起こした、つまり今に至る流れを作ったパイオニア的アニメである。

「スレイヤーズ」

基本、春樹氏が退いてから角川アニメは面白くなったと思うよ。
特にラノベのアニメ化は大当たりして、今に至るアニメブームを牽引したといってもいい。
さらに出版社としてはコミック分野進出も本格化させ、メディアミックスをさらに広げていく流れに。
最近ではアニメーターや声優を育成する学校を作るなど、色々手広くやっているようだ。

出版業界そのものが厳しい中、KADOKAWAがこうして利益を出してるというのはアニメ・ゲームがよほど好調と見るべきだろう。
春樹時代ほどの派手なプロモーションはないものの、着実にオタク関連分野での盟主となりつつある。
たとえば、2023年は年間トータル37本のアニメがKADOKAWA関連である(劇場版含む)。
2022年は40本、2021年は30本。
もはや、アニメ業界はKADOKAWAを中心に回ってるといってもいい。

とはいいつつ、歴彦氏も贈収賄で逮捕されちゃったんだけどね・・(笑)。
ホント、凄い兄弟だよな。
春樹氏と歴彦氏。
メディア界の海幸彦・山幸彦である。
色々問題のあった兄弟だとは思うけど、今に至るアニメの興隆はこの兄弟の存在なしにはあり得なかったような気もする。
全ては、春樹氏の「幻魔大戦」から始まったんだ。
もしお時間があるようなら、①「幻魔大戦」②「少年ケニヤ」③「カムイの剣」、3本まとめて視聴することをお薦めしたい。
すると、共通点が見えてくるはずだから。
というのもこの3作品、クライマックスの映像が共通してドラッグ使用時の幻覚っぽい酩酊を見せるんだよ。
ああ、なるほどな、と妙に私は納得した(笑)。


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