記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

サイバーパンク流セカイ系「攻殻機動隊SAC2045」

今回は、「攻殻機動隊SAC2045」について書いてみたい。
「攻殻」の中では一番新しいやつだね。
このシリーズは色々あってややこしいんだが、アニメでは

①押井守版⇒「GHOST IN THE SHELL」「イノセンス」
②神山健治版⇒「SAC」シリーズ
③黄瀬和哉版⇒「ARISE」シリーズ

という3種類がある。
各々に話は繋がってはいないようで、パラレルワールドが3つあると解釈をするしかないだろう。
で、今回取り上げる「2045」は②の最新作ということになる。
ただ、フル3DCGなんだよねぇ・・。

「攻殻機動隊SAC2045」(2021年)

見ての通り、セルルック調3DCGではなく、やや人形っぽいテイスト。
新機軸として、敢えてこういう試みをしたのかと思いきや、
ホントは2Dでやる予定だったが、旧スタッフが召集できなかったのでフルCGという形にした
という、どっちかというと消極的なCGでした・・(笑)。
で、「アップルシード」の荒巻伸志を共同監督に迎え、キャラデザも一新。
一番驚いたのは、トグサのキャラデザですよ。

新トグサ
旧トグサ

どう考えても、イケメンになりすぎやろ・・。
トグサ特有のもっさり感が失われとるやないか!
意味不明だった長い後ろ髪もカットされてるし、旧作から数年後という設定のはずなのに、かえって若々しくなっとるやないか!
ちゃんとトグサらしく、もっさりしとけよ!
とはいえ、見てるうちにだんだんと目も慣れてくるし、少佐とか、よく見たらなかなか綺麗なキャラデザだよ。

で、黄瀬版ではcv坂本真綾だった少佐も、やはり神山版ではcv田中敦子に戻してきたね。
確かに、坂本さんより田中さんの方が恐くていい。
総合的に見て、「ARISE」より今回の「2045」の方が私は好きである。
アクションシーンもモーションキャプチャー使ってるらしくて、なかなかの迫力。
そしてストーリーも、よく練られている。

じゃ、ここからはがっつりネタバレするので、ご了解ください。

今回少佐たちが戦う相手は、人間ではない。
「ポストヒューマン」と称する、AIと融合した形の新人類だね。
人類はそのほとんどが電脳化施術してるので、そうやってAIに寄生されることも起こりうるんだろう。
前提として、西暦2040年は世界大恐慌の時代。
各国が経済活動としての戦争をだらだらと継続しており、未来には何の希望も持てないような絶望感に満ちた世界・・。
そんな中、米軍が開発してた超高次元AIが自律意思をもって軍を脱走し、人間をハッキングしてポストヒューマン化する、という事態に発展する。

まぁ、ここまでは「攻殻」にありがちなストーリー展開だね。
ただ、ここから先が結構重い話となる。
人間より遥かに知能の高い、ポストヒューマン。
彼らは、脱走した先の俗世で一体何をしようというのか?
これが少年漫画なら「愚かな人類に代わって、我々が世界を支配する!」的な話になるんだろうが、そこは「攻殻」だし、そういう子供っぽい展開にはならない。
彼らがやろうとしたことは、分かりやすくいうと

・全人類の電脳のハッキング
・それによる、争いのない世界の実現

である。
この作品ではお馴染みのパターンとして、人間は電脳をハッキングされると見えるはずのものが見えなくなる。
また、見えないはずのものが見えたりもする。
つまり、今の自分が見てるのは現実か虚構か、その境界が分からなくなってしまうんだね。

じゃ、今の辛い現実なんて見なくていいから、皆さん自分にとっての幸福な虚構を見て生きていったらいいんじゃない?


というのがポストヒューマンの考え方。
ようするに彼らがやろうとしてることって、全人類をハッキングし、個々に幸福な虚構を見せ、人類には今後その中で生きていってもらうことだったんだ。
そこには悪意はない。
むしろ、人類の穏やかな存続を願う善意である。

ポストヒューマン・シマムラ
シマムラと対峙する少佐

最後、少佐はポストヒューマン・シマムラからラストチャンスを与えられている。

①コードを引き抜けば、幸福な虚構は消え、人類は辛い現実に戻る

②コードを引き抜かなければ、人類は今後、幸福な虚構を見続ける

さあ、少佐は①or②、どちらを選択したのか?
・・実は作中にその描写はなく、彼女が結局どう決断したのかは分からないんですよ。
でも多分、②だろうね。
というのも、このシーンの後が後日談的な公安9課の描写で、そこでは皆が和やかに楽しそうだから。
これ、明らかに虚構っぽい感じ・・。
ちなみに、少佐だけはその強靭なメンタルのせいか、虚構を見ることなく、ちゃんと現実が見えているらしい。
あと、バトーも世界に虚構が混じってることに気付いたらしく、少佐と2人きりになった時、
(現実の)世界は今、どういう状況なんだ?
と深刻な表情で聞いている。

ラストシーン、ふたりは同じ場所にいるが、どうやら見えている世界は違うっぽい

少佐とバトーは「GHOST IN THE SHELL」に続き、「2045」でもまた最後は同じ世界を共有できなかったようだ。
ややバッドエンド気味のオチだね・・。

【GHOST IN THE SHELL】
・少佐⇒現実世界から消え、ネットの世界へと行く
・少佐以外の人たち⇒現実世界で生き続ける

【SAC2045】
・少佐⇒現実世界が見えている
・少佐以外の人たち⇒正確な現実世界を把握できず、各々にとっての幸福な世界が混じって見えているらしい

どっちのパターンにせよ、少佐が孤独な境遇であることには変わりない。
そして、こういう状況になってしまった以上、今後公安9課もまともに機能はしないだろう。
だって、みんな同一の世界を共有できてないんだから。
とはいえ、元々が絶望的な世界だっただけに、こういう現実逃避はかえって人類の救いになったかもしれん。

人々が幸福になる方法=現実を見ず、夢の世界(仮想世界)で生きること


これが、超高次元AIの出した結論。
そして、どうやら少佐もそれを受け入れた様子。
そりゃそうだよね。
だって彼女は「GHOST IN THE SHELL」で現実世界を捨てる決断をしたほどの人なんだし、それが今回に限って「現実から逃げちゃダメ!」とマトモなこと言うのは、さすがにキャラが矛盾するよ。
それにラストシーン、少佐とバトーの会話はとても意味深なものだった。

バトー「・・よかったのか、これで?」

少佐「それは、新しい人類がこれから紡いでいくことよ。
私はこの広大なネットから、新たな人類を見守っていくわ」

バトー「あんまりひとりで無理すんじゃねぇぞ」

少佐「バトー、次会う時は、お互い認識できないかもしれないわね」

バトー「じゃ、万が一の為に合言葉を決めとくか」

少佐「コード1A84。忘れないで。
私たちが、この星に存在してることを」

会話後、ネット世界に少佐が飛び込んでいくシーンでEND

お分かりの通り、少佐の様子がちょっと変である。
「新たな人類」とか「この星」とか言ってるし、もう視点が人間レベルじゃない。
最後には「私たちが」と言っちゃってるし、これは明らかに彼女がシマムラと融合した(彼女は既にポストヒューマン化してる)という意味だろう。
基本、「人形使い」の時と一緒。
だから今後の少佐は、おそらく宣言通りに「広大なネットから新たな人類を見守っていく」ことになるわけで、バトーも彼女が今後9課からいなくなることを分かって会話してるんだね。
切ないわ~。

もともと、「SAC」シリーズは「少佐が人形使いと融合しなかった場合(現実世界に残る選択をした場合)」というifの世界の物語だったはずなんだけど、遂に「2045」で原作コンセプトの方に回帰しちゃったわけだ。
「SAC」シリーズ、これをもってひと区切りということだろう。
つまり、ようやく「GHOST IN THE SHELL」のエンディングに追いついたともいえるわけで、何ならこれの続きは「イノセンス」という考え方でもいいのかもしれない。

「イノセンス」

・・やっぱ、あかんわ。
「イノセンス」のトグサはもっさりしてて、「2045」とはどうしても繋がらない。

「ARISE」トグサ
「SAC]トグサ
「2045」トグサ
「イノセンス」トグサ

なぜ、「2045」だけトグサが異様にカッコいいのか?
多分、これは「2045」を読み解く上での極めて重要なヒントだと思う。

ぶっちゃけると、「2045」そのものがトグサの見てる虚構なんだよ。


虚構だからこそ、あんなにカッコいい。
そもそも「2045」の設定は、公安9課解体後、メンバーはほぼ全員少佐直属の傭兵として召集されるんだが、なぜか少佐はトグサだけ召集をしなかったらしい。
あと、彼は離婚もしたとやら?
それで落ち込んでいた鬱状態の彼は、虚構世界に逃避し、そこで9課に合流してポストヒューマンたちと戦っていたんだ。
という解釈もできるよね。
いや、もちろん冗談だけどさ。
皆さんは、どう考えるだろうか?

①ツライ不幸に直面してでも、「現実世界」にこだわって生きていくか
②「仮想世界」に逃避してでも、あくまで幸福にこだわって生きていくか


究極の選択だよね。


この記事が参加している募集

#コンテンツ会議

30,736件

#アニメ感想文

12,441件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?