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隠れ名作の最高峰「スペースファンタジア2001夜物語」

今回は、OVA「スペースファンタジア2001夜物語」を取り上げてみたい。
これ、俗にいう「隠れ名作」の中でも屈指の傑作なんだよね。
これを埋もれさせておくのは、あまりにも惜しい。

「2001夜物語」原作者・星野之宣

これの原作者は、SF漫画界の大御所・星野之宣
この人は「星雲賞」の栄冠を2度も得たほどのSF漫画における巨匠である。
という割に、さほど知名度がないかもしれない。
うん、作風が真面目すぎるのが災いしてるかも。
やや荒唐無稽さに欠けるというか、SFなら異星人とかUFOとかモビルスーツとか出せば子供たちにも人気出るのに、彼はそういうことをやらない。
がっつり科学考証をしたハードSFで、オトナ向けの硬派な作風である。
こんなのでは玩具メーカーもスポンサーにはつかず、必然として彼の作品はあまりアニメ化されていない。
私が知る限り、アニメ化されたのは「2001夜物語」だけなんじゃないか?

OVA【2001年夜物語】

スペースファンタジア(1987年制作)
・宇宙の孤児
・地球からの贈り物
・遥かなる地球の歌

TO(2009年制作)
・楕円軌道
・共生惑星

これは短編集で、これまで計5編がアニメ化されている。
特にお薦めしたいのが「スペースファンタジア」で、なかなかクオリティが高いんだ。
特に作画が素晴らしく、どうやらこれ、作画監督&キャラデザが杉野昭夫
おまけに、あの金田伊功までそこに絡んでいる。
なるほどのクオリティだ。

「スペースファンタジア-宇宙の孤児-」

しかし、何より素晴らしいのは、そのストーリーである。
上の画のふたりが「宇宙の孤児」の主人公、ロビンソン夫妻である。
この夫婦が、宇宙開発事業に協力するところから物語はスタートする。
その協力とは何かというと、精子と卵子の提供。
えぇっ?と思うよね。
この事業の目的は「恒星間航行」である。
つまり太陽系から離れて別の惑星へ到達することを目的にしてるんだけど、この時代の科学技術では超高速航行のG負荷に人間の肉体が耐えられない、ということになっている。
で、研究者が考案したのは、

①人間の肉体は耐えられずとも、冷凍した受精卵の状態なら耐えられる

②ならば人間を宇宙船に乗せず、冷凍受精卵だけを乗せよう

③超高速航行が落ち着いた頃(通常航行になった頃)に受精卵を解凍して、宇宙船内で子供たちが生まれるようにしよう

④育児、身の回りの世話、教育等は全て宇宙船のコンピュータ(人工知能)が担う

⑤目的の惑星に付いたら、子供たちだけでそこに居住してもらおう

という、結構メチャクチャな内容なのよ。
精子・卵子提供後に、この詳細を聞かされたロビンソン夫妻は動揺する。
「自分たちの子供が、遠い宇宙で孤児として生きていくのか?」と。
一応、精子&卵子は22セットほど提供したみたいで(大量に出したなぁ)兄弟が多いから、孤独というわけではないみたいだが・・。
で、結論をいうと、計画通りロビンソン夫妻の子供たちは宇宙船内で生まれます。
じゃ、この子たちはどうなっていくのか、無事目的の惑星に辿り着けるのか、というのがその後描かれていくことになる。

「宇宙の孤児」「地球からの贈り物」「遥かなる地球の歌」は各々1話完結なんだが、この3章がうまいこと連動してひとつの物語を構成している。
その構成が素晴らしい。
ミスリードを含めた、いわゆるドンデン返し系の巧みなプロットになってて、これはネタバレするとつまらないから、あらすじに触れるのはここまでにしておこう。
古いOVAなので入手困難と思うかもしれんが、心配ご無用。
YouTube等で「2001夜物語」と検索すれば普通に無料動画にヒットするので、ぜひそちらをご覧ください。

「TO-共生惑星-」

そして、こちらが2009年に制作された「2001夜物語」の新作「TO」で、これは3DCGになってます。
監督は曽利文彦
彼は「ピンポン」「あしたのジョー」「鋼の錬金術師」等を実写化した監督として知られてるけど、その本職はCGクリエイターだね。
ベクシル-2077日本鎖国-」「ドラゴンエイジーブラッドメイジの聖戦-」という3DCGアニメの監督も務めている。
ぶっちゃけ、実写畑かアニメ畑か、よく分からん人だ。
中でも私が意外と気に入ってるのが「ベクシル」で、これは「APPLESEED」のバッタもんみたいなノリ。
ストーリーは
米国の女兵士がディストピアになった日本をぶっ壊し、最後は日本民族が絶滅する
という日本のアニメとは思えないほど自虐的なもので、逆に面白かったよ。

「ベクシル」(2007年)

で、「TO」は後編の「共生惑星」がよかったな。
あまり「異星人」とかは描かない星野先生だけど、ここでは菌類という形態の宇宙生物を出してきてる。
人間に寄生するタイプのやつね。
「寄生」というとどうしてもネガティブなイメージが湧くにせよ、考えたら私たちの体にも「腸内フローラ」という外部から侵入した生物が寄生してるわけよ。
だけどこれ、我々にとって有益な存在でもあるんでしょ?
実は「共生惑星」に出てくる菌類もそっち系で、これに寄生された人間は、なぜか皆めっちゃ性格いい人に変貌してる(笑)。
これ見て、私は
サルから進化した我々人類もまた、「寄生」によって知能を得たのでは?
とかを考えてしまった。

映画「2001年宇宙の旅」

2001年宇宙の旅」では、モノリスという謎の黒い立方体がサルに知能を与えてたが、そんな立方体が実在したとはさすがに考えにくい。
もっと普通に考えれば、ウィルスのようなものに感染したことにより変化が出た、とする方が自然でしょ。
我々の「自我」、または「魂」としてるものって、実は知性というべき寄生体なのかもしれないよ?
星野先生も私と似たような考え方なのか、「2001夜物語」の中で幾つかそういう表現が出てくるんだ。
たとえば面白いなぁと思ったのが、「遥かなる地球の歌」の中に出てくる「スターシード」という生命体。

スターシード

これ、生命体といっても植物、というか、その種子のカタマリなんだけどね。
それこそタンポポの綿毛のごとく、あるいは胞子のごとく、自らの繁殖環境を求めて宇宙空間を浮遊してるっぽい。
そんなものが実在するとか聞いたこともないにせよ、あながちあり得ない話でもないかな、と。
作中、こういう説明がされていた。

あてもない宇宙へ、自分たちの子孫を旅立たせるんだ。
惑星の環境が悪化したのかもしれん

なるほど。
確かに我々だって、もし○○年後に地球が爆発するとか知ったら、それこそ胞子のごとく宇宙に散らばるだろう。
あるいは我々って、地球の胞子なのかも?
スターシードは植物だから知性はないと思いがちだけど、いやいや、知性が霊長類のみに宿るとか、そんなの地球ローカルの狭量な常識でしかないさ。
実は共生を前提とした寄生体に知能があり、それが太古の昔、たまたま地球に飛来し、たまたまそこにいたサルに宿った、というのもあり得ない話でもないと思うなぁ・・。

やはり、こういう本格SFって面白いね。
私は読んだことないけど、原作漫画そのものが面白いんだと思う。
今のところアニメ化されてるのは「2001夜物語」の中の5編にすぎず、全体では20編ほどあるらしい。
もともと「2001年宇宙の旅」を意識した作風っぽいので、きっとサル⇒人類という進化についても星野先生なりの描写があるはずだ。
今度、読んでみようかなぁ。

人類が昔に比べて宇宙への関心をあまり持たなくなってしまった昨今だが、この作品の中では、地球のエネルギー問題は宇宙開発によって解決した、とある。
確かに、宇宙にはまだまだ我々の知らない資源がたくさんあるかも。
やはり、もっと宇宙に目を向けるべきだよね。

で、最後に見ていただきたいのが、こちらの「ガンダム」。
これ、「逆襲のシャア」の小説版で、その装画を星野先生が描いてたらしいんだわ。
真面目な本格SFしか描かない人かと思いきや、こういう仕事も引き受けてるんだね。
で、上の画が星野之宣デザインのガンダム。
なんていうか、星野先生の実直さ、真面目さがデザインに出てると思う。
華美な要素がなく、シンプルで機能美に満ちている。
おそらく、先生なりに色々考証してこのデザインにしたんだろうなぁ。
モビルスーツというより、戦闘機や宇宙船に近い?

この星野デザインを実体化したもの

もし、富野由悠季と組む相棒が安彦良和じゃなく星野之宣になっていたら、ガンダムはきっとこんな感じになってたはず。
う~ん、個人的には嫌いじゃないけど、もう少し色をつけようよ・・。


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