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歴史の小箱

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自作記事のうち、歴史に関わるもので特に読み応えのありそうなものをまとめました。
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2023年11月の記事一覧

歴史を輪切りにすると……

歴史を輪切りにすると……

我々が学ぶ歴史は多くの場合、その国の歴史、例えば日本であれば日本史である。これは一国史、ナショナル・ヒストリーであり、国の成り立ちから現在にいたる歴史の流れを学ぶことができるが、国際交流は等閑視されがちである。一方、世界史も学ぶ機会があるが、こちらは日本対世界という対立概念でもあるのか、日本が切り捨てられている。最近は歴史総合という新しい歴史科目が作られているが、扱うのは近世〜近代であり、歴史の流

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世紀の転換点について

世紀の転換点について

世紀の転換点というのはなにかと世情不安が起こりやすいようだ。ヨーロッパを例に取ると、18世紀から19世紀への変わり目にはフランス革命が起き、その混乱がヨーロッパ全土に波及する中でナポレオンが台頭する。その後は、ナポレオンが失脚するまでヨーロッパは戦争の時代になる。

次に19世紀から20世紀への変わり目には、ヨーロッパ大陸では普仏戦争が起き、イギリスでは切り裂きジャック事件が世間を震撼させた。この

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「今起きていること」を研究する難しさ

「今起きていること」を研究する難しさ

『太平記』という軍記物語がある。後醍醐天皇の即位から室町幕府三代将軍足利義満のもとで細川頼之が管領になるまでの約50年間を描く。作者は不明だが、僧恵鎮、足利直義、僧玄恵が成立に関わったと取れる記録がある(『難太平記』)。
『太平記』の内容はおおよそ三部に分けられ、第一部は後醍醐天皇による鎌倉幕府打倒、第二部は建武の中興の失敗から後醍醐天皇の崩御まで、第三部は観応の擾乱から二代将軍足利義詮の死、義満

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日本のお金小史

日本のお金小史

日本において貨幣が登場したのは飛鳥時代後期、天武天皇の治世。奈良県飛鳥池遺跡の発掘調査で一躍有名になった「富本銭」である。『日本書紀』天武12年の記述にある「今より以後必ず銅銭を用いよ」の銅銭は、この富本銭を指すと考えられる。ただ、この富本銭はどの程度貨幣として流通したかは定かではない。

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みやこ(京・都)の変遷

みやこ(京・都)の変遷

今回は都城の変遷について書いてみたい。
飛鳥京、大津京と呼んでいるが、これはどちらも誤りである。なぜかというと、どちらも条坊制を伴う市街地を持たないからである。
初めて造営された京=都(みやこ)は藤原京で、現在の橿原市に所在する。この都は短命で、わずか16年で廃止される。その理由は諸説あるが、大規模河川から離れていて利便性が悪かったことと、北が低く南が高い地形のため、汚水が北=宮城のある方へ押し寄

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偽書・偽文書考

偽書・偽文書考

近年、椿井文書という古文書群が物議を醸している。馬部隆弘先生によると、江戸時代、現在の京都府木津川市の住人であった椿井政隆が一人で作成した大量の偽文書だそうだ。これは長らく偽文書と考えられておらず、馬部先生の研究で一気に日の目を見た。信頼に足る文書として市史編纂事業などで活用され、まちおこしの典拠となるなど被害は大きい。これがなぜ今まで知られてこなかったかというと、椿井政隆の周到さにある。彼は多く

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前方後円墳の正面はどこ?

前方後円墳の正面はどこ?

前方後円墳という名称は、江戸時代に古墳(陵墓)の研究をした蒲生君平が、円と方が組み合わさった墳形を宮車(牛車)に見立てたことに由来する。しかし、古墳時代にはまだ牛車はなかったので、この由来説は誤りである。そのため、前方後円墳が何をモチーフにしたものか、諸説頻出するとともに、正面がどこなのかが議論の的になってきた。

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円筒埴輪の役割

円筒埴輪の役割

古墳は今でこそ森になっていたり、果樹園等に転用されていたりするが、造られた当初は、段築、葺石、埴輪を伴う人工の山であった。兵庫県五色塚古墳、京都府私市円山古墳など復元整備された古墳を見ることで、往時の姿を想像することができる。

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山中他界観の成立時期

山中他界観の成立時期

山中他界観というものがある。山中に他界=死者の住まう空間があると想定するものだ。学術的な源流は、おそらく柳田國男の『山宮考』だろう。その後、民俗学者の間では日本古来の他界観の一つとして定着しているようである。実際の山中他界観の例としては、東北地方の端山信仰や、伊勢朝熊山麓の「ダケ参り」、立山の地獄伝承などが挙げられる。

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世情不安と妖怪

世情不安と妖怪

妖怪と聞くと何を思い浮かべるだろうか。少し前の『妖怪ウォッチ』ブームから、妖怪のキャラクター化に拍車がかかっているようだ。元々、マンガやライトノベルを中心に、2000年代から妖怪が「敵対するもの」から「共存するもの」に変化しつつあり、その中で主に「萌えキャラ化」というかたちで妖怪のキャラクター化が進んでいたが、『妖怪ウォッチ』の登場が決定打となったようだ。こうした妖怪のキャラクター化は江戸時代から

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