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天才たちの雑談|【特集】〚人類×テックの未来〛テクノロジーの新潮流 変革のチャンスをつかめ[PART3 コミュニケーションが生み出す力]

メタバース、自律型ロボット──。世界では次々と新しいテクノロジーが誕生している。日本でも既存技術を有効活用し、GAFAなどに対抗すべく、世界で主導権を握ろうとする動きもある。意外に思えるかもしれないが、かつて日本で隆盛したSF小説や漫画にヒントが隠れていたりもする。テクノロジーの新潮流が見えてきた中で、人類はこの変革のチャンスをどのように生かしていくべきか考える。

世界の科学技術は、国家や大学、何より「GAFA」や米テスラなど巨大企業に牽引され、刻一刻と進化を続けている。では、その先にはどのような景色が広がっているのだろうか。私たちの生活はどのように変化するのだろうか。その世界の中に日本の居場所はあるのだろうか。堅苦しいテーマは抜きで、日本の最先端テクノロジーの未来を担う東京大学の気鋭の研究者らが〝雑談〟した。
構成・編集部(大城慶吾、木寅雄斗) 撮影・さとうわたる

🔹🔷松尾 豊×加藤真平×瀧口友里奈×

     合田圭介×暦本純一🔷🔹

瀧口 これから「天才たちの雑談」を始めます。昨今のコロナ禍により、オンラインで会話する機会が増えた一方で、このようにリアルで集まって雑談をする機会が減りました。はじめに、雑談の効用について考えてみたいと思います。暦本先生は「アイデアは、ブレインストーミング(ブレスト)よりも、目的のない雑談から生まれる」ということをおっしゃっていますね。

瀧口友里奈  Yurina Takiguchi
経済キャスター
東京大学工学部アドバイザリーボード・メンバー
1987年神奈川県生まれ。東京大学文学部行動文化学科卒
業。経済ニュース専門チャンネル『日経CNBC』キャスタ
ー、雑誌『Forbes JAPAN』エディター兼コミュニケーシ
ョンディレクターなどを務める。(WATARU SATO)  

暦本 「アイデアを出そう」と、壁に付箋を貼ってブレストをしたところで、良いアイデアが出るとは限りません。むしろ会議後の雑談でアイデアが生まれたりすることが多い。その点では、「Zооm」などのオンライン会議はアジェンダ(課題)がある会議はできますが、雑談するのが難しい。その場の雰囲気や温度感も踏まえて、〝ふわっ〟とした話ができるところに人間のすごさがあると思います。「ブレスト無駄説」を企業の人に伝えると、がっかりされることが多いですが(笑)。

暦本純一  Jun Rekimoto
東京大学大学院 情報学環 教授
東京工業大学大学院理工学研究科情報科学科修士課程修
了。博士(理学)。日本電気などを経て1994年よりソニ
ーコンピュータサイエンス研究所に勤務し、現在フェロ
ー・副所長・京都研究室ディレクター。2007年より現
職。スマートフォン画面をマルチタッチで操作する「スマ
ートスキン」を発明。(WATARU SATO)                          

松尾 われわれ研究者は考えることが仕事だから、何かを見たときに「何でこうなっているのかな」「違う方法はないのかな」と疑問を持ちます。ただ、企業にはそうではない人も多い。「デジタルトランスフォーメーション(DX)を導入しよう」「AIを導入しよう」といった潮流をそのまま鵜呑みにするのではなく、疑問を持つ「仮説思考」を癖付けた方がいいと思います。

松尾 豊 Yutaka Matsuo
東京大学大学院工学系研究科 教授
1975年香川県生まれ。東京大学工学部電子情報工学科卒
業。東京大学大学院 工学系研究科電子情報工学博士課程
修了。博士(工学)。米スタンフォード大学言語情報研究
センター(CSLI)客員研究員などを経て、2019年より現
職。日本ディープラーニング協会理事長、ソフトバンクグ
ループ社外取締役などを兼任。(WATARU SATO)   

合田 ブレストは、ブレストできる人がしないと意味がありません。米国では、物事を深く考え、方向性を見出してトライアンドエラーしながらもチームを率いることのできる「コマンダー(指揮官)」を生み出す教育を行っています。コマンダーはリーダーシップ教育を受けたエリート層で、コマンダーに従う「ソルジャー(兵士)」は、移民で補っている。その構図がうまく機能すると、チームが、また社会が前に進んでいく。

合田圭介 Keisuke Goda
東京大学大学院理学系研究科 教授
米カリフォルニア大学バークレー校物理学科を首席で卒
業。マサチューセッツ工科大学大学院物理学科博士課程修
了(理学博士)。カリフォルニア大ロサンゼルス校          
(UCLA)工学部などで研究を行う。2012年より現職。
UCLA工学部生体工学科非常勤教授、中国・武漢大学工業
科学研究院非常勤教授を兼任。(WATARU SATO)        

 一方、日本の教育は、東京大学含め全てソルジャー教育になっているのではないでしょうか。サッカーでは、天才プレイヤーばかり集めてもチームとしては機能しません。天才は少数で、彼らをサポートする多くの人間がいて、初めて組織として機能するのです。

瀧口 日本でもコマンダー教育が必要ということでしょうか。

合田 そうなのですが、難しい面もあります。日本の場合、誰がコマンダーで誰がソルジャーで、というのを国が決めるのは難しく、どうしてもソルジャー教育になってしまう。ただ、DXによりソルジャーの需要が減ってきていることに呼応して、日本の教育もコマンダー型に変化しつつあります。今は過渡期の状態です。

加藤 まとめるとやはり「勉強した方がいい」ということですね(笑)。

加藤真平  Shinpei Kato
東京大学大学院 情報理工学系研究科 准教授
1982年神奈川県生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究
科後期博士課程修了。博士(工学)。米カーネギーメロン
大学などで研究員を務め、2016年より現職。Tier IV(テ
ィアフォー)創業者兼最高技術責任者(CTO)、「The
Autoware Foundation」代表理事。(WATARU SATO) 

脳にデバイスを埋め込む時代の
インターネットの姿とは

瀧口 暦本先生は、「人間拡張」の研究をされていますが、これはどのようなものなのでしょうか。

暦本 テクノロジーやAIを利用して、人間の能力をいかに拡張するかということです。拡張方法は、外付けの機械という形になるかもしれないし、最終的には脳に埋め込まれるのかもしれない。そうやって「能力をダウンロードできる」時代、人間とAIが融合する時代が来るのではないかと思っています。

 ノイズキャンセリングイヤホンはその第一歩と言えます。周囲の雑音を打ち消すことができますが、「特定の声は聞こえない」「怒られているときは優しい声に変換される」といったことが実現できれば、聴覚の拡張になりますね。

 映画『マトリックス』では、登場人物の一人が「ヘリコプターは操縦できるか」と聞かれ「まだ(not yet)」と答える象徴的なシーンがあります。その登場人物は、携帯電話を通じ操縦方法をインストールし、ヘリを飛ばしました。究極的にはこのように、アプリのように能力をインストールできるようになり、能力に対する考え方は大きく変わるかもしれません。

映画『マトリックス』では、「能力のダウンロード」が
描かれた(ALBUM/AFLO)               

松尾 とはいえ、人間の脳が学習する構造を考えると、いきなりインストールするのではなく、学習を積み重ねていくやり方しかできない気もします。

暦本 その通りです。すぐにヘリを操縦できるようになるというよりも、従来よりもはるかに効率的に学習することができる環境をインストールできる、というのがまず現実的でしょうね。

合田 ヘリそのものを知らないとヘリは操縦できません。能力にもダウンロードできるものと、できないものがあるのではないかと思います。

暦本 人間の脳がインターネットを通じてつながったとき、全体のネットワークや知性がどのように変化するのか、まだはっきりと想像することは難しいと言えます。

加藤 ただ、人間の脳がインターネットにつながって、他人の能力を借りられるようになると、さまざまな可能性が広がると思いますね。

合田 映画『スター・トレック』に、ボーグという機械生命体が登場します。劇中では何億体というボーグがネットワークでつながっていて、最適な解を導き出すのです。その小さな規模のものが実現するのかもしれません。

暦本 アリやハチはある意味、そうした種全体が生命体となっていると言えますね。


Zoomのライブ授業が
最も中途半端

暦本 コロナ禍を経て、オンライン化が一気に進みました。Zoomなどのオンライン会議ならば、間に入っているのはコンピューターなので、翻訳や字幕機能のソフトをダウンロードすれば、生身の人間そのものに能力を与えるよりも、ずっと簡単に能力拡張ができます。オンライン前提ならば、能力インストールという話は極めて現実的な話です。

瀧口 最近、メタ(旧フェイスブック)による仮想世界「メタバース」が話題ですね。

加藤 メタバースは結局、仮想の現実を作っているというよりは、〝現実の世界はここまで仮想化できる〟ということを示しているように思います。

合田 ヘッドマウントディスプレイ(HMD)のようなデバイスで能力を追加すれば、たとえば障害を持った方々が、メタバースのようなテクノロジーによって世の中で健常者と同じように活躍できるようになるかもしれません。

加藤 実際、オリンピック選手の記録をパラリンピック選手が超えた例も既に存在します。十数年後には、多くの人々が一定の能力は必ず得られるようになって、障害を持った方々の中からも、より一層、活躍する人が現れるかもしれません。

暦本 自分の能力の「ここを使う」「ここは使わない」というのを選べたり、自分の外見を切り替えたりできるようになるでしょう。ユーチューブで、生身ではなくアバターとして講義ビデオをアップしている人がいて、しかも教え方がとてもうまい。コンテンツが面白ければ生身である必要はないと言えます。

加藤 コロナ禍でオンライン授業に慣れた学生が、もはや1倍速で授業を聞かないという話もありますね。

暦本 「現実も1.5倍速ぐらいにしたいのですが」と言われてしまいました(笑)。「いったん止めたい」や「ちょっともう1回」などがユーチューブではできるのに、現実の授業ではできないことに、みんなが気づき始めたのです。また、座ったままのZoom授業だと心拍数が上がらず、テンションの低さが学生に伝わってしまいます。体を動かしながら授業をするというのは、案外バカになりません。

合田 対面授業の本質は、教師と学生の間の相互作用によって、むしろ教える側が喜びを感じる機会なのではないかと思っています。質問がなくとも、学生の顔が見えれば、表情から理解度や面白いと感じているかどうかが伝わってきます。それを踏まえて、話のスピードや、どこを強調するのかを調整できます。

加藤 リアルにはリアルの意味があります。その意味では、Zoomでやるライブ授業が、一番中途半端ではないかと思いますね。


イーロン・マスクは
直球ど真ん中を投げる

瀧口 皆さんは、米テスラの最高経営責任者(CEO)、イーロン・マスク氏については、どのように見ていますか?

合田 彼はビジネスがうまいですよね。物理学を学んでおり、技術に対する理解も深いと思います。

加藤 会社が赤字でも前に進んでいくのですよね。すぐにモノにはならなくても、あの手この手で技術開発は進めていく。

合田 赤字であることに投資家が文句を言わないのです。日本だとすぐに黒字が要求されますが、シリコンバレーは赤字を許容するエコシステムになっています。

松尾 マスク氏は20年ぐらい先を見抜いていて、それを信じてやっている。「いずれ世界が後からついてくる」とばかりに突き進んでいます。ビジョンがすごい。

暦本 やっていることが全部、〝直球でストライク〟なのです。直球を通すために必要なものを逆算できるビジョンと、それを揃えられる財力がある。科学者は「みんなが直球で苦労しているからカーブで投げました」と変化球を投げたがる傾向がありますが、彼はあくまでも直球ど真ん中のストライクを通しています。

 スペースXもそうです。「ロケットは(打ち上げた場所に)戻ってくるべきだ」というように、言っていることはすごくシンプル。ただし、それを実現することは並大抵のことではありません。しかし彼の場合はどれだけコストがかかろうとも真ん中を射抜く。そこがすごい。

加藤 たとえばグーグルは、最初に検索エンジンを世の中に出した際に、今日のこの世界を思い描いていたのでしょうか。

暦本 広告と結びつくまではグーグルは全く儲かっていなかったので、最初から全てを見通していたとは思えません。むしろ、グーグルを作った2人の学生(ラリー・ペイジ氏とセルゲイ・ブリン氏)が、ビジネス以前にまず「全世界の情報はインデックスされるべきだ」というビジョンを抱いたというのは、すごいことでしょう。

加藤 マスク氏が1998年にペイパル(現在は米決済大手)を設立した際、電気自動車(EV)や宇宙開発のことまで考えていたのか、気になるところです。


SFは新たなイメージを提示し
その国の潜在的な力をも示す

瀧口 テスラは2021年8月に人型ロボットの開発も発表しましたね。

テスラが2021年に公表した開発中のロボット「Tesla 
bot」は、二足歩行の人型だった。日本のSFの影響もあ
るかもしれない(TESLA)             

加藤 ああいったヒューマノイドは、元々は日本の得意分野でした。しかし世界から「ロボットは車輪や自動車でいいではないか」と言われ、ヒューマノイドへの熱が下がってきた頃に、今度はテスラからヒューマノイドが出てきた。日本はヒューマノイドに関する蓄積があるので、今後は面白いことになるかもしれません。

合田 マスク氏はツイッターでも公言していますが、『新世紀エヴァンゲリオン』や『千と千尋の神隠し』、『君の名は。』など、日本のアニメが大好きですよね。『鉄腕アトム』といったSFの影響を受けているのではないかとも思います。

瀧口 暦本先生はSFが昔からお好きと伺いましたが、研究者としてのルーツもSFにあるのでしょうか。

暦本 私の世代は『鉄腕アトム』と『サイボーグ009』です。作者の手塚治虫や石ノ森章太郎が作ったこれらの世界は、まさにストレートど真ん中の世界です。そういったものに魅了されるというのは、理系の人なら一度は辿るプロセスではないかと思います。

合田 私も『スター・トレック』や『スター・ウォーズ』といったSF映画からアイデアを借りることがあります。科学者は現在地からの延長で物事を考える癖があるので、そこを飛び越えたSFは「こういった技術があると、こんな世界になるんだ」というイメージを浮かび上がらせてくれます。

 私は米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の非常勤教授も兼任しているのですが、UCLAの教授がハリウッド映画、特にSF映画のアドバイザーを引き受けて、科学に基づいているかどうかをチェックしたりしています。クリストファー・ノーラン監督の映画『インターステラー』は、ノーベル物理学賞を受賞したカリフォルニア工科大学名誉教授のキップ・ソーン氏が監修しました。映画を通じて一般の研究者にトップの研究者の世界が伝わる、良いエコシステムができあがっていると思います。

『インターステラー』には最高レベルの宇宙物理学が反映
された(EVERETT COLLECTION/AFLO)      

松尾 最近、中国から劉慈欣氏の『三体』というSF小説が出て日本でも翻訳版が出版されました。科学者を志す若い人に影響を与えるSFの力は、潜在的な国力だと私は思っています。

暦本 日本では高度経済成長期と、『日本沈没』などで知られる作家・小松左京氏が活躍していた時代とが重なります。国が盛んになるときにはSFも盛んになる。今、中国で優れたSF作家が続出している状況にもつながります。科学技術だけでなく作家も生まれるというのは、底知れない力だと思います。

 SFの中では人間の欲望が何度も試されています。欲望の充足は課題解決でもあります。たとえば不老長寿のような欲望の極限と、現実的な科学技術の接点がSFなのかもしれません。

合田 私たち科学者はSF映画と現実の科学の違いが分かるのですが、政治家の中には分かっていない人がいたりします。そこが危ういですよね。たとえば映画『アイ,ロボット』の影響で、人工知能をあまりにも敵視していたりします。

加藤 「AIが反乱を起こすのではないか」ということですよね。

松尾 人工知能脅威論が出たときに、私が「みんな映画の観すぎでは」と言ったら、炎上とはいかないまでもすごい話題になってしまいました(笑)。


根拠乏しきまま進む
人間のためだけの温暖化対策

瀧口 昨今の地球温暖化の議論については、どのように考えていますか?

加藤 コンピューターの電力消費量は凄まじいので、それ自体がもっと省エネになることが、今後にとって大事なことだと思います。電力対性能比を上げて計算時間が短くなれば、電力消費も減りますよね。

合田 その通りです。ただ、それ以前に、私は「そもそも温暖化問題があるのか、あるのならばその原因は何なのか」という科学的議論が十分にされていないのではと感じています。

加藤 温暖化はデータ上、確実に進んでいるのではないのですか?

合田 それもさまざまな意見がありますが、科学的な議論をすっ飛ばしたまま、COP26(国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議)では、EVはエコカーである、といった認識で議論がなされている。科学者の立場からすると「それって本当なの?」と疑問を抱かざるを得ません。

松尾 直近の気温上昇は顕著ですが、地球環境はずっと変動し、温暖化と寒冷化を繰り返していますからね。

加藤 EVも「きっと環境問題に役に立つであろう」という認識の下で開発が進んでいますが、EVを製造するにも膨大な電力を使いますしね。本当に環境にとってプラスかは分からない。

暦本 合田先生のご指摘の通り、はっきりとしたことが分からないまま、行動や社会規範がどんどん決まっていっています。18年の日本の温室効果ガス排出量は世界全体ではわずか2.7%で、日本だけががんばっても限界があります。日本の中で、温暖化対策に貢献しているかどうかで「良い人」「悪い人」と決めつけて、無用ないさかいを生むべきではないでしょう。

 たとえば、紙ストローがまさにそうです。正しいけどつらい、しかもそれが正しいかどうかも分からない、という世界は嫌ですね。むしろ、発想を変えて、ポリ袋を再利用するのは美学の範疇と考えたほうがすっきりする。もったいないし、捨てることが美しいと思えないから回収する、などと前向きに考えた方が幸せなのではないでしょうか。

松尾 ただ、既に世界では温暖化対策がアジェンダセッティングされているので、そういう議論は非常にやりずらいですね。

加藤 正しい仮説の下でやりましょう、ということですね。

松尾 AIやDXで効率的になれば、それだけでプラスにはなります。

合田 さまざまな議論がありますが、私が問題提起したいのは、「誰にとっての環境問題なのか」ということです。たとえばゴキブリは3億年の間、全く姿を変えていません。恐竜時代や隕石落下後も生き抜いているわけで、彼らからすると今の環境変化なんか大した問題ではないということでしょう。その意味で、現在の環境問題は人間にとっての環境問題ということになります。先ほどの「能力拡張」で考えれば、人間が環境変化に適応していけば、問題はなくなるとも言えます。


移民がもたらす緊張感が
イノベーションを促進する

瀧口 議論は尽きませんが、次のテーマ「優秀な人たちの共通点は移民である」に移りたいと思います。

合田 イーロン・マスク氏やグーグルのセルゲイ・ブリン氏は、どちらも移民一世ですよね。米国は21年のノーベル賞受賞者を、科学3賞(物理学賞、化学賞、生理学・医学賞)の中では4人出しましたが、米国生まれの米国人は1人だけ。残りは米プリンストン大学上席研究員の真鍋淑郎氏をはじめ、移民やその子孫です。別に今回だけではなく、過去のノーベル賞受賞者も半分以上が移民です。移民が活躍しているというのは事実です。それは産業界だけではなく、基礎科学の分野でも起きています。

 移住することによって新しい価値観に触れて、新しい考え方を生み出せる機会が増えるということが大きいのではないでしょうか。また、常に移民が入ってくる状態なので、「自分がリプレイスされるかもしれない」という危機感にさらされることになります。さらに移住する人には、母国を捨てるからには一旗揚げようとする強いインセンティブが働く。そのエコシステムがうまく機能して、ノーベル賞などの成果を出しているというのが私の考えです。

瀧口 冒頭のコマンダー教育とソルジャー教育にもつながりますね。

合田 それこそマスク氏のような例外はいますが、移民一世はソルジャーですね。米国内で教育を受ける移民二世ぐらいになってくると、コマンダー教育を受けたりします。一方、移民の受け入れ側の一部には、努力しなければ生きていけない世界を作り出されている、という不満もあります。そうした人々がトランプ支持者となっていくのです。

加藤 これは、移民がすごいのか、それとも米国がすごいのか、どちらなのでしょう。やはり、移民の能力が高いからなのでしょうか。

合田 特に産業界や科学分野では、米国のみならずシンガポールやスイス、豪州でも移民は活躍していますね。

加藤 さまざまな文化と交わった方が切磋琢磨できて、かつ「リプレイスされるかもしれない」という良質な緊張感が競争意識を生むのですね。

合田 あとはやはり、新しいものが入ってくるダイバーシティは、既得権益を壊すのです。

加藤 そういう意味では、移民がそれほどいない日本は〝保守本流の鑑〟みたいな国ですね。

合田 中国のように世界に散らばった華僑を呼び戻すということもできませんし、海外からの留学生も圧倒的に少ない。企業などがうまく受け入れられていないですよね。留学生が活躍できる場所がありません。

暦本 米国は、世界中の才能を集められる仕組みを作り上げたのが、最もすごい点かもしれませんね。日本は来てもらうための努力もしていない。地球の裏側に生まれたすごい才能に「来てください」とアプローチできる仕組みがないと、やはり根本的な発展はないでしょう。ただ、テレワーキングが国境を超えて人材を集めるための新しい手段となる可能性があります。

加藤 少なくとも移民を多く受け入れている国が、科学技術やイノベーションでは先手を打っています。ただ、格差や犯罪率の低さなど、国としての水準を考えれば、世界の中で日本もそれほど悪くはないですよね。何を見るかという問題かもしれません。

暦本 日本は調和の取れた没落に向かっていると言えるのかもしれません。

松尾 国内と国外の隔絶もひどいです。海外でがんばっている日本人に、本国がもう少し「がんばれ」と言ってあげた方がいい。私がスタンフォード大学に留学しているとき、「結構海外でがんばっているのに」と思って日本を見てみると、内輪でごちゃごちゃ揉めている。また、日本で「GAFAに倣え」という話が出ることがありますが、ではGAFAの本社で働いたことのある人たちと、日本人はどれだけつながりを持っているでしょうか。実態を知らないのに、架空の存在に基づいて妄想で話していても意味がありません。もっと、海外から多くの人たちが日本に来てくれるようになるといいですね。

合田 日本は典型的なムラ社会です。私はその最たるものの一つが「オールジャパン」という言葉だと思っています。米国は世界中の人たちが米国に集まって取り組む「オールワールド」ですよ。

加藤 私は、自動車の自動運転ソフトウェア「Autoware(オートウェア)」を誰でも使える「オープンソース」として公開し、それが今や世界中で使われ、最近では台湾の鴻海精密工業らが発表したEVにも搭載予定です。その経験から言えば、日本は輪の中心になることはできると思っています。米中みたいに対立せず、ニュートラルに振る舞えば、必ず中心に立てる。意外とデファクトスタンダード(事実上の標準)になれると思います。


GAFAと日本企業では
一体何が違うのか

瀧口 松尾先生は「ループ型組織を作るべき」を提唱されていますね。

松尾 単純な複利計算の式(下図参照)なのですが、従来の組織は「r=利率」を大きくしようとしていました。日本企業もこのタイプです。ただGAFAなどは「t=時間」を最大化しようとしています。本来であれば時の流れを待つしかありませんが、2つの事例を比較する「ABテスト」をオンラインで何万回と行うなどして、GAFAはPDCAサイクルを凄まじい速さで回すようにしているのです。そうすれば、tを実質的に大きくしているのと同じ効果が得られます。

 そうなると、今度は人が担う部分が足を引っ張ります。その中で人を早く動かすためには「失敗してもいいから、まず試してみよう」という姿勢になります。また、多くのアイデアを出す必要があるので「多様性は大事」「オープンイノベーションは大事」「フラットな組織の方がいい」と、自然とシリコンバレー的になっていきます。

加藤 先ほどの「天才ばかりでは意味がない」という指摘と同様、技術は突き詰めていくと組織の話になりますからね。

松尾 素早く動ける組織を作らねばならないという点において、日本企業は階層的すぎます。だから動きが遅い。テスラの場合ですと、ディーラーを持たない、テレビCMを打たない、ソフトウェアのアップデートはオンライン、工場の自動化と、これらは全てPDCAサイクルを早く回すためのものです。

 なぜインドで日本車が売れないのか、という話があります。品質が高すぎるなどといろいろ言われましたが、あれはPDCAサイクルが遅いので現地のニーズの変化に合わせられなかったのですよ。

 米国では、需要の探索を行うために、ホームページだけ先に作って、売るモノは注文を受けてから考えるというやり方すらあります。

暦本 米国のスタートアップは赤字でもどんどん走りますよね。利益が出ないフェーズがあるというのは、そうした探索を行っているのですね。

合田 シリコンバレーを国が模倣しようとするのはやめた方がいいですよね。シリコンバレーが成立したのは、首都ワシントンから最も離れた、対極的な場所にあったからですよ。国が関与しようとすると失敗します。

米カリフォルニア州シリコンバレーにあるメタ(旧フェイ
スブック)本社。シリコンバレーが成立したのは、首都か
ら遠いことも一因だ                 
(STEVE PROEHL/GETTYIMAGES)        

暦本 米国だとハーバード大学やスタンフォード大学、英国だとケンブリッジ大学も首都にはありません。政府とイノベーションは感覚が違う人が住み分けていると思います。その点では旧帝国大学は例外で、東大やソウル大学など、最高学府が政府に近いというのが果たしていいことなのか。

加藤 日本の社会はかなり性善説で動いていて、全て安全高品質でなければならない、といった風潮がありますよね。そうなると遅いサイクルにならざるを得ないのかもしれません。米国のような「約束を売る」という方法は、なかなか難しいのかもしれません。

松尾 少なくとも、根本的な問題を見ずに「オープンイノベーションだ」とシリコンバレーの真似をしても、意味がありません。日本には日本なりのtの増やし方があると思います。

瀧口 ハイレベルな雑談となりましたが、今後このメンバーを中心に、量子技術や脳科学、エネルギー、データ活用など、さまざまな分野の研究者をお招きし、未来を変える最先端テクノロジーについて考えていきたいと思います。次回の〝雑談〟も楽しみにしております。本日はありがとうございました。

出典:Wedge 2022年2月号

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