マガジンのカバー画像

【エッセイ小説】シない二人

24
運営しているクリエイター

記事一覧

【シない二人】エピローグ

【シない二人】エピローグ

「いってらっしゃい」
今朝もいつも通り
健次郎に声をかけつつ自身も仕事の準備をする

「今日は忙しいかもなー」
職場で飲むコーヒーをカバンに入れながら
今日のスケジュールを思い返していた

あの日から既に1年が経っていた
レス歴で言うと既に4年目

私たちは仲良く暮らしている
生活する上での問題があれば話し合い
思ってることを我慢することも
曖昧にすることもない

健次郎は相変わらず忙しいままで

もっとみる
【シない二人】#21 決断(後編)

【シない二人】#21 決断(後編)

”何だろう、霧が晴れたような感じ”
奈々はこの結論に至ってからそんな気分だった

『友達に戻ろう』

健次郎は明らかに困惑していたが
奈々は全く意に介さない
”だって彼もこの先何のプレッシャーも感じずに
穏やかに過ごせるんだからいいじゃん”
そんな風に思っていた

だからこそこれは提案でなく結論なのだ
覆す気はない

「ちなみにさ、そもそもだけど
健次郎も別れたくないんだよね?」
「そりゃそうだよ

もっとみる
【シない二人】#20 決断(前編)

【シない二人】#20 決断(前編)

友達に戻る

奈々の中でこれは消極的な決断ではなかった
むしろ前に進むための
健次郎と別れないための
今できる最良の手段だった

元々親友だった二人
結婚生活だってそれの延長みたいなものだった
何でも話せて気楽に過ごせる関係
そこに夫婦としてのスキンシップがあっただけ
(セックスだけないけど笑)

「うん、大丈夫だ」
奈々は小さく呟いた

友達に戻ろう
親友として一緒に生きていけばいいんだ

1日

もっとみる
【シない二人】#19 分かれ道

【シない二人】#19 分かれ道

明日話をしよう

既にかなり冷静にはなっていたけど
私ももう少し考えたかったので
健次郎とはそう約束してその日を終えた

次の日、仕事をしながらもフト頭の片隅に考える
”『離婚はない』としたら…どうすればいいのか…”

一日中頭を悩ませていたが
以前のようにレス問題に悶々としていた時と違う

なぜなら既に
『離婚はしない』という着地点があるから

今回はその為に何をすればいいかを考えるだけ
本質も

もっとみる
【シない二人】#18 背中

【シない二人】#18 背中

飛び出したものの

特に行く当てもなく車を走らせて
既に1時間は経っていた

車内で泣きながら罵詈雑言を怒鳴り散らしてる内
いつの間にか謎の林道に入りそうになっていることに気づきようやく我に返った

「え、どこここ…」

これは…入ったら戻れなくなるやつ…!
急に色んな意味で怖くなり
慌てて夜道を慎重にバックしながら
無事大通りに戻ることができた

「はぁ…やっちゃったな…」

別の恐怖で既に涙は

もっとみる
【シない二人】#17 大爆発

【シない二人】#17 大爆発

自身でもこんな声が出るのかと思うほど
怒りに満ちた奈々の怒鳴り声が響く

「AVなんか見てんじゃねえ!!
性欲なくなったんじゃないのか!
レス問題で私がどれだけ辛いか
マジでまだわからないのか!!
ふざけんな!!ふざんけんな!!!」

一般的に夫がAV見ていたくらいで
ここまで激高する妻は珍しい
この3年間がいかに奈々が辛かったかを物語っている

「ごめん、奈々…落ち着いて、マジで…」

オロオロ

もっとみる
【シない二人】#16 着火

【シない二人】#16 着火

離婚

ずっと打ち消していた言葉だが
前回親友達と会った後から
少し意識するようになっていた

性の不一致というのは離婚事由としてアリだけど
そんなの周りに何て言うの?
恥ずかしくて本当のことなんて言えない

それに健次郎と別れて
誰かとまた一から関係を築いて結婚…
そんなことできる?
健次郎ほど長い歴史と共に
信頼関係を作ってきた相手に
今後出会えるとは思えない

だからと言って
このまま永遠に

もっとみる
【シない二人】#15 よぎる言葉

【シない二人】#15 よぎる言葉

そして3年が経った

途中、健次郎が事故で全治3か月という
ハプニングはあったが
その期間がノーカウントだったとしても
レス期間記録がどんどん更新されていく

「深刻な事態だね…本当に」
この3年間を見守ってきた親友達は
なんとも言えない顔で
これまでの話を聞いてくれた

美幸も沙織もおそらく
ここまで長引くと思わなかったのだろう
私ですら思ってなかった

「何でなのか、イマイチ分からないね」

もっとみる
【シない二人】#14 子供

【シない二人】#14 子供

会社からの帰り道

電車の中から夕暮れ時の街を眺めていると
見慣れた公園に小学生くらいの子供達が見えた

「子供かぁ…」

結婚前、健次郎と子供の話はしたことはある
「そういえば結婚したらすぐにでも
子供欲しいって言っていたなぁ…」

思い出した途端、イラっと来てしまった
どの口が言ってんだか
やらずにできるとでも思ってんのか

逆に私はしばらく二人でいいと伝えていたけど
それを尊重しているわけで

もっとみる
【シない二人】#13 葛藤

【シない二人】#13 葛藤

あの日から二人の間には
ピリついた空気が流れ始めた

「俺最近ようやく仕事落ち着いてきたよ」

「…そう」

「…」

健次郎がいつも通り話を振っても
奈々は空返事
コミュニケーションを大事にしてきた食卓にも
なんとも気まずい沈黙

何でも話せていた関係のはずなのに
この2年弱という長い期間
どう話したってレス問題の深い部分が
健次郎に伝わらない事への失望感

「私たち、本当に
心から理解しあえて

もっとみる
【シない二人】#12 何もしない

【シない二人】#12 何もしない

”静”の努力をする

そう話してから本当に何もしなかった
誘うような発言や恰好
あからさまに香りや雰囲気を変えるとか
とにかく徹底してやめた
私にとってこれらの慣れない努力は苦痛だったのか
やめようと決めたら少し気が楽になった

プレッシャーを与えると
確かに繊細な男性は勃起しなくなると聞いたことがある

レスになってからずっと
ネットや書籍を駆使して少しずつ知識を増やしていた
それなのについ焦り

もっとみる
【シない二人】#11 保留

【シない二人】#11 保留

「今のどういうこと?」

寝ようとしている健次郎に
強めの口調で聞いた

「え、起きてたの?💦」
「それより寝てて良かったって何?」
「いや、眠そうだったから…」

そんな感じじゃなかった
そういう意図なら『寝てて良かった』はおかしい

あんなに楽しい気分だったのに
悲しみと苛立ちが一気に押し寄せてきて
自分でも止められない

「ねぇ何で?何がそんなに苦痛なの?
私とセックスってそんなに嫌なの?

もっとみる
【シない二人】#10 一周年

【シない二人】#10 一周年

今日は結婚記念日ディナー

奮発して有名シェフの高級イタリアンを予約した
いつもよりドレスアップしてロマンチックな空間
料理だって1名1万円以上のコースなんだし
今日は終始良い雰囲気で過ごしたい
重い難しい話はしないつもり

「乾杯ー♪」

シャンパンのグラスを合わせて
久々にデート気分❤️

「初めて来たけど素敵だね」
「うん、前菜すでに旨すぎ!」

毎日日常会話はよくしているけど
ムードのある

もっとみる
【シない二人】#9 何度でも

【シない二人】#9 何度でも

温泉で

あの後夕食時間まで健次郎は起きなかった

夕食は地産地消の食材に拘った
彩豊かな美しい会席料理で味も素晴らしかったが
私の心はなんだか淀んでいる

健次郎は純粋に料理を楽しんでいた
「これ食べた?すげーうまいよ!」
心なしか義務を果たしたような
ドヤ顔が少々鼻につく

でもこのモヤモヤを
どう表現していいか分からない
「うん、美味しい」
笑顔が少し引きつっているのは自分でも気づいたが私も

もっとみる