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【シない二人】#20 決断(前編)

友達に戻る

奈々の中でこれは消極的な決断ではなかった
むしろ前に進むための
健次郎と別れないための
今できる最良の手段だった

元々親友だった二人
結婚生活だってそれの延長みたいなものだった
何でも話せて気楽に過ごせる関係
そこに夫婦としてのスキンシップがあっただけ
(セックスだけないけど笑)

「うん、大丈夫だ」
奈々は小さく呟いた

友達に戻ろう
親友として一緒に生きていけばいいんだ

1日考え抜いて出したこの結論に
奈々はストンと腹落ちした感覚になった

これまで”夫婦”という言葉に囚われ
もがいていた毎日
それがこの考えに至ったことで
ギリギリに保っていた糸がプツンと切れ
開放されたような気さえしていた

「友達夫婦…
うん、いいじゃない」

彼女の中でスイッチが完全に
『夫婦→親友』に切り替わった

そして夜
健次郎が神妙な面持ちで早めに帰宅してきた
反して奈々が清々しい顔で出迎えたため
彼はかなり戸惑っている

「えっと、奈々?あの件だけどさ…」

「うん、いつでも話せるよ!
あのね、友達に戻ることにした」

「…は?」

突然の展開に困惑する健次郎
奈々は色々と端折りすぎだ笑

「だからね、友達に戻ればよくない?と思って」
「ちょちょちょっと待って、ちゃんと話そう」

前のめりすぎの奈々を落ち着かせ
健次郎はテーブルについた

対面に奈々が座り
3年越しにようやく彼らはこの問題と
正面から向き合うことになったのだ

「奈々、まずはごめん…!」
口火を切ったのは健次郎だった

「謝って終わりじゃないのは分かってるけど
とにかく傷つけてきたことは確かだし
それについては謝らせてほしい」

「うん…分かった」
奈々も受け入れた

「で、俺も今日のこと
それなりに色々考えたんだけど…
でもまずさっきのこと聞かせてくれない?」

「うん、今日考えてたことなんだけど」
奈々は率直に自分の考えとその経緯を話した
健次郎は複雑そうな表情を浮かべて
黙って聞いている

「それでね、私が今一番望むことは
”貴方と離婚しないこと”だって気づいたんだ
そしてそれは『友達』なら実現できる
『夫婦」のままだったら
きっと別れてしまうから」

「ん…」
健次郎は何と言っていいのか分からないでいた
彼だって離婚は絶対回避したい
でもだからって
夫婦をやめて友達に…?
友達になって結婚生活を送る…?
どういうことそれ

あまりに突拍子もない提案に
ショックというより単に混乱している健次郎は
何かしら反対しようと思っていた
だって自分は夫婦のままでいたい

だが言葉に詰まる
現状自分が性欲回復する自信がなかったから
またその場しのぎなことを言って
彼女を再度失望させるようなことは二度としない
今日彼なりに考えてきた中の一つだった

”待っててくれ、とは俺は言えない…”

言ったところで信じてくれないかもしれない
それくらい彼女の希望を
これまで踏みにじってきた自覚もある

「あのさ、それってどこが境界線…?」
ようやく言えたのがそれだった

「えー?友達って間柄考えたらわかるじゃん」

「うん…そっか、じゃあまあ、
それはそのうち分かってくるとして…
えっと…奈々、確認なんだけど
友達に戻らないと…離婚になるの?」

「いや、離婚したくないんだって」

「そ、そうなんだけど…」

なんだか会話もテンションもかみ合わない二人
まだ夜は長くなりそう

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