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墓場珈琲店。

15
現代社会における『死』をテーマとした、フィクションの短編集です。抵抗のある方はご遠慮ください。
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#小説

墓場珈琲店15。

墓場珈琲店15。

「……」

口に栄養調整食品を口に運ぶ。右手側においた即席のコーヒーを手に取り、飲む。冷めきった食卓に、一人座った女。

その母親は、疲れ切っていた。
早い段階で夫に先立たれ、それと同時に生まれ長年面倒を見てきた娘も死んだ。故に痩せ細り、隈ができた、異様な見た目。

何も知らない人は、彼女を不審者としてしか認識できず、
事情を知っている人は彼女を避けた。

彼女は孤独だった。

天井の、静かに灯っ

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墓場珈琲店。

墓場珈琲店。

霜のように張り詰めた空気。
降り積もる雪。
悴む手。

長靴が雪を踏みつける感触を確かに感じながら、俺は歩いていた。

今日はクリスマス。
まるで光の粒子があたり一面に飛び散ったみたいに、
町は煌びやかに輝いている。

そんな中、無論、俺の心も弾んでいた。

クリスマスで心が弾む、と聞けば、考えられるのは一つだけだろう。
そう、俺は今日、とある女に告白をするのだ。

アルバイトで忙しげな学生、

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墓場珈琲店2。

墓場珈琲店2。

俺の人生を一言で評価しろと言われたら、俺は間違いなく『最悪』の一言だけで説明を終わらせるだろう。

俺はそう思って、空を見上げた。

クソみたいな曇天が広がっている。
降りゆく雪が俺の眉毛や唇に当たり、積もってゆく。

こんな寒い日なのに、町は活気づいていて、楽しげだった。
積もった雪で遊ぶ子供やそれをよそに雪かきに勤しむ大人たちは、みんなマフラーと手袋をつけている。

今日は12月31日。
言わ

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墓場喫茶店3。

墓場喫茶店3。

私は朝早く、山を登っていた。
雪で不安定な足元に、杖を刺しながら登る。

私は時計を見た。

針は、午前6時を指している。
時間はあまり、残されていないようだと笑う。
雪混じる空気が、肌を刺している。

私の周りに、登山者はあまりいないようだった。
当然だ、皆、もう山頂にたどり着いているだろうから。

だが、それでいいのである。

私はグサッと杖を刺し、一旦休息を取った。
タイムリミットギリギリで

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墓場珈琲店4。

墓場珈琲店4。

……ピッ、ピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ、ピピッ……

カタッ。

僕は条件反射的に、目覚ましを止めた。

体が汗で、びっしょびしょに濡れている。
頭を押さえた。

……いやな夢を見た。

ほわほわとした幻聴、ピンク色の象が、まだ、頭に残って離れない。

気分は最悪だった。

真っ暗な天井を見ると、

誰かに笑われているような気分にならざるを得ない。

時計を見ると、午前3時。

いつもだったら遅く

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墓場珈琲店8。

墓場珈琲店8。

わたしは、ここ数カ月ずっと飲んでこなかったコーヒーを啜った。

いつもはミルク以外飲まないのだが、今日のわたしはブラックコーヒーの気分だった。黒い液体の温かい味が、舌に染み渡っていった。

その苦みと一緒に、脳内に記憶が溢れてゆく。
わたしはコーヒーの器を机の上に置き、目を伏せる。
悪い気分と苦い味を一緒に感じながら、さらにわたしは静かに涙を零す。

***

「なんで、延命治療なんて言うのですか

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墓場珈琲店12。

墓場珈琲店12。

「マスター、コーヒーを一杯」
「了解」

コーヒーは好きかな?

なんだかありきたりな会社のプレゼンみたいになってるけど黙って答えて。
正直に、好きな人は手を上げてみて。

まぁ僕にその結果は見れないんだけど。

僕は笑みを浮かべながら窓を見た。
雪が積もっていたのがつい昨日のことのようなのに、外にはゆき一つなかった。むしろ淡いピンク色の桜が咲いていて、春の訪れを感じさせる。

土筆……はまだ早い

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墓場珈琲店14。

墓場珈琲店14。

私はパソコンを叩く手を止め、あくびをした。
休日の昼下がり、カーテンも明けずに私はパソコンとにらめっこしていた。

その液晶の上には稚拙な文章がたくさん並んでいた。
私が書いた文章は、我ながら吐き気がする。でも具体的にその吐き気をどうやってなくせばいいのか分からず、結局諦めてそのまま投稿しているのだ。

そう、私はネット小説投稿サイトに作品を投稿している、いわば「作家志望」の人間だ。
いつか自分の

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