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【経営学24】M&A実務の流れ(法学分野を中心に)

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はじめに

法務という仕事柄、今まで何度かM&Aに関わってきました。
大学院でも担当教授がM&Aの世界の権威だったので有り難く講義を受講させていただいて、主に法務分野における研究をさせていただきました。
そこであることに気づきました😑

M&Aは難しい!

何が難しいかというと、知の総合格闘技的な難しさがあるのです。
まず、M&Aというのは経営権の移動が伴う行為なので、経営全般に関する知識が必要となります。
特に経営戦略論の分野に深く関わります。
そして、この経営戦略論は、MBA(経営学修士号)で実施される講義の中でも最も難しいと言われている科目の一つです。
そのため、極めて高度な専門知識がないといけません。

また、多くの利害関係者が絡む契約となる上、会社法上の組織再編が伴うことが多いので法律分野の中でも企業法務(ビジネスロー)に特化した知識が必要です。
弁護士の中でもこの分野に明るい人は極々一部です。
それほど難しく、かつ、経験しうる事例が少ない分野です。
M&Aの実務経験がある弁護士なんて、弁護士全体の中で何%いるかな?というレベルです。
ちなみに、その多くが大手弁護士事務所のパートナーの方々です。
私から見ると雲の上の存在です。

さらに、M&Aは資産が移動する行為でもあるので、会計・税務分野に関する深い知識が必要です。
またM&Aでは資金調達も兼ねる場合があるため、その場合はファイナンスに関する知識も必要になってきます。
これらの分野の専門家は、税理士・会計士・投資銀行・証券会社などがメインプレイヤーです。
ここでもM&A実務に携わったことがある士業・専門家は少数派です。

その上、売手・買手が出会わなければそもそもM&Aは成立しないので、通常は豊富な人脈を持ったM&Aアドバイザーが必要になります。
このアドバイザーの皆さんの中で、本当の意味でのプロフェッショナルはだいぶ多く見積もっても1割もいません🙄

これらの専門分野を全部高い次元で修めている人なんて、日本国内に数えられる程度しか存在しないでしょう。
そのため、M&Aは、原則として様々な専門家の力を借りながら段階的に実行されていきます
このような一連のM&A実務を「ディール(Deal)」といいます。
元々 “Deal” は「取引」という意味ですが、M&Aでは一連の実務全体をディールと表現しています。

ちなみに最初に言っておきますが、M&Aはアメリカから流れてきた学問なので横文字のオンパレードです!
覚えたての横文字を多用するイケてないおっさんのような記事になってしまう可能性がありますが、ご了承くださいませ🙇‍♂️

といういことで今回の記事では、M&Aディールの流れをざっくりとご紹介いたします😁
なお、ディールの流れはM&Aのスキーム(手法)や担当者の熟練度、売手・買手の親密度等で変わります。
なので今回ご紹介する流れは、よくある一般的な流れの一例だと思ってください👍


1.M&A実務の流れ

まずは全体像を知りましょう。
すべて文章で書いても良かったのですが、画像があった方がわかりやすいかなと思って作ってみました😨
思った以上に大変でした。
デザイン能力皆無なのでダサいのはお許しください。
以下の画像の3以降はM&Aのアドバイザーが間に入っているとお考えください。

今からこの15の流れを一つずつ説明していきますね🙄
長い戦いになると覚悟してください!


2.M&A実務の流れを解説

それでは、上記の図の流れに沿って、一つ一つ説明していきます😁


(1)意思決定

まず最初にやるべきことは、M&Aを行うという意思決定です。
売手は「売る意思決定」で、買手は「買う意思決定」です。

この際、単にM&Aをやってみたいからやるというのは絶対に辞めた方が良いです🤣
M&Aは所詮「手段」でしかありません。
何らかの経営上の目的があって、それを実現するためにM&Aが合理的だと言える場合に、単なる一手段として候補に挙がってくるものです。
そのため、M&Aを行うという意思決定の前提には必ず経営戦略があります

その経営戦略が不明確のままではM&Aは上手く行かないでしょう。
M&Aの成功の定義をどのように置くかによって変わってきますが、日本のM&Aの成功確率はけして高くありません🤔
感覚値でいえば7割くらいは失敗に属するだろうと思います。
そのため、M&Aを行うならば経営戦略をしっかりと練って、優秀な専門家の力を借りて慎重に行うべきだと思います。

一社に一人は諸葛孔明ばりの戦略家がほしいですね。


(2)M&Aアドバイザーの選定

M&Aをやるぞ!と意思決定したあとは、通常はM&Aアドバイザーの選定を行います
これはもちろん必須ではありません。
社内にM&A部隊がすでにいて、幅広い人脈を持ち、専門家集団との連携も蜜であるならば、M&Aアドバイザーを使わずにM&Aを実現することもあり得ます。
ただ、そういう会社は極めて珍しいと思います。

そのため、多くの企業がM&Aアドバイザーの力を借りると思いますが、その選定は慎重に行うべきだと思います。
M&Aアドバイザーの質で成否が分かれると言っても過言ではないくらい重要な存在です。
相性などもあるので、じっくり話し合って『本当に信頼できるパートナーだ』と思える人を選定してください。
同じ会社の人間であってもアドバイザーの質には大きな差があります。
いろんなアドバイザーに会って話を聞かせてもらうと良いでしょう。

私は、自社の取締役又はM&Aの担当者として迎えても良いなと思えるくらいのアドバイザーでない限り、見送ったほうが良いとすら思っています。
仮に私がM&Aアドバイザーを選ぶのであれば、以下の要素を中心に観察して、厳選します。

・過去の実績(どのようなディールを担当したか)
・どれだけの見込み客(売手・買手)を持っているか
・言動にどれだけ信頼が置けるか(嘘をつく人は論外)
・法律知識がどれほどあるか
・会計知識がどれほどあるか
・経営戦略の知見がどれほどあるか
・秘密保持を厳守できるか
・最後まで責任を持ってやり遂げてくれるか
・面倒な作業でも丁寧にこなしてくれるか

など

M&Aアドバイザーは、人によってどこまで実務をやってくれるかが異なります。
同じ会社でも差があります。
そのため、ディール全体をよく理解し、どこまでその人に任せられるのかをしっかりと精査しましょう。
その上で、自社にとって最適な人を選ぶべきです。
初めてのM&Aであれば、実務経験10年以上のベテランアドバイザーを活用することをオススメします。


(3)NDA及びFA契約の締結

アドバイザーの選定が終わったら、NDAとFA契約を締結します。

まず、NDAとは、秘密保持契約書のことです。
英語で “Non-Disclosure Agreement” なのでその略称で呼ばれます。
自社が買手だろうと売手だろうと最初はNDAからスタートです。
このNDAの雛形一つとってみても、そのM&Aアドバイザーのレベルが測り知れることがあります😏
どこまで条項を理解しているか聞いてみるといいかもしれません。

次にFA契約とは、ファイナンシャル・アドバイザリー契約書のことです。
上場企業が行うM&AやクロスボーダーM&A(国境を超えたM&A)では通常FA(ファイナンシャルアドバイザー)がつきます。
このFAは、売手又は買手のどちらか一方のアドバイザーとして契約を締結します。
そのため、買手FA、売手FAがそれぞれいます。
何を行ってくれる人かというと、金額面やスキーム等に対する専門的なアドバイスを行ってくれる人です。
大手企業のM&Aなどでは投資銀行証券会社などがFAとしてつくことが多いようです。

しかし、FAは大きな案件でつくことが多いので、ベンチャー企業やスタートアップのM&Aではあまり見かけないかもしれないです🤔
なお、今後は増えていくだろうと予想します。
個人的にはFAはいた方が良いと思っています。
M&A実務ではわからないこと、判断がつかないことが大量に発生します。
そんなときにいつでも相談できる法律・会計・財務のプロフェッショナルがいることは非常に重要なことです。
ベンチャー企業のM&Aであれば、FAの役割をメインバンク・弁護士・会計士・税理士などが担当したりします!


(4)相手探索

(5)ノンネームシート提出(受領)

(4)と(5)は密接に繋がっているので一緒に説明します。

アドバイザーやFAが決まったら、いざ相手探索です!
買手は売手を探し、売手は買手を探します。
買手としては、売手の候補となるような会社のイメージをアドバイザーに伝え、候補者リストを作ってもらいます。
また、売手は買手の候補者リストを作ってもらいます。
もちろん、人脈が豊富な会社であれば自社で作成することもあります。

その後、アドバイザーらが持っている人脈等を活用し、候補先の企業の経営層に連絡を取り、M&Aに興味があるかを確認します。

この際よく用いられるのが「ノンネームシート」という資料です。
これは、売手の会社名がわからないようになった粗い資料です。
すぐに特定できちゃうような場合もありますが、原則として特定されないようにぼかした書き方をした資料となります。
これを使って、買収意志を確認して回るのです😁

この際要注意なのは、M&Aアドバイザーの管理が甘いとあっという間に業界に情報が知れ渡るということです🤣
知られても全然問題ないような案件の場合はそれでいいのですが、極秘に進めたいM&A案件だとその時点で致命傷です。
「あの会社売られるらしいぞ」
という噂が一気に広まります😱
私もベンチャー界隈にいますから、たまにそういう噂を聞くことがあります。
アドバイザーが手当り次第にノンネームシートを開示してNDAもろくに結ばずに見せて回るから起こる現象です。

過去最高にダメだなと思った案件では、一斉メールでノンネームシートを送りまくった人がいました🙄
ちなみに、M&Aアドバイザーと自称しているだけのただのブローカー(怪しい個人仲介人)は山程いますから本当に注意が必要です。

ノンネームシートといえど、プロならある程度特定できてしまうので、開示前に必ずNDAを結び、相手に極秘である旨を伝えておかないといけません。
そういう意味でもアドバイザー選びは慎重に行う必要があります。
ちなみにWARCのアドバイザーは、ノンネームシートを見せる買手候補先を売手に選んでいただいています
つまり、売手がノンネームシートを見せることを了承してくれた買手候補にしか見せません。
これにより、M&Aの買手候補の数は減少することになりますが、情報を保持するためには重要なことです。


(6)ネームクリア

買手がノンネームシートを見て、興味があるとなった場合はネームクリア版の資料が提示されます。
売手の会社名が買手候補に明かされるのです。
この際、売手に買手候補の社名が明かされることもあります。

この段階になるとM&Aとしては結構進んでいる方で、買手側も真剣に考えるべき段階です。
そのため、ほぼ100%、売手・買手双方でアドバイザーとのNDA締結が終わっている段階になります。
この時点でもまだNDAを締結していないとすると…
ちょっと危ないアドバイザーだと思います🙄

十中八九、この段階になると買手側の経営層に話が持っていかれます。
そして、経営会議等で真剣に議論が始まります。
買収したとしてシナジーはあるのか、あるとすればどの程度か、買うとすればどれくらいの価格で買いたいのかなどを話し合う段階です。


(7)M&A資料の提示(受領)

買手の方である程度「買う意思あり!」ということが確定した段階で、売手から買手に、アドバイザーを通じてM&Aに関する資料が送られます
この資料には、直近数年間の財務諸表や事業計画書などが含まれます。
この際、通常は売手側から買収希望価格が提示されます。

買手側はこれらの資料を熟読して、買収希望価格が妥当なのかどうかを吟味します。
優秀な買手の場合、この時点で一度株価算定・事業価値算定等を行います
これを「バリエーション」といいます。
価値算定法についてはDCF法類似企業比較法時価純資産法など様々な算定方法があります。
算定方法によって金額に大きな開きが出やすいので、どの方式を採用するかが大きな論点になります。

また、その価値を算定し、実際にその価格で買収できた場合、一体何年で回収するつもりなのかも検討しておくべきです。
事業というものは必ずいつかは衰退するものなので、いつまでにその費用を回収するのかまで考えておかないといけません😱
これらの判断の基礎となるバリエーションは、自社の経理財務部門が算定することもありますが、外部の公認会計士等に委託する場合もあります。
WARCもよく請け負っています😁

客観的に見てどの程度の価値があるのかをこの時点で知っておくと、買手側もある程度客観的にM&Aの妥当性を判断することができます。
経営会議を開催するにしても、客観的資料がないと判断しづらいと思うので、ある程度買いたい意思が明確であれば、中立的な立場にいる外部の士業に算定を依頼する方が良いかと思います。
なお、弁護士さんもたまに算定業務やっていますが、法律家の多くは計算弱いので、公認会計士か税理士さんにお任せするべきだと思います。


(8)トップ面談

上記の資料を熟読してもまだ「買いたい!」という意思がある場合、今度はトップ面談が行われます。
CEO同士の面談です😍

ここまで来るともう本格的なお話になりますし、双方本腰を入れた交渉をしないといけない時期です。
しかし、相手を敵対視するのは御法度です。

そもそも、M&Aというのは両当事者のインセンティブ構造が真逆です。
売手は自社をより高く売りたいと願い、買手は他社をより安く買いたいと願っています。
そのため、客観的に見ると両者の利益は完全に相反していて、敵同士です。

これをそのままトップ面談で表してしまうとほぼブレイク(交渉決裂)します。
それは勿体ない…

売手は、自社のビジネスを引き継いでくれる後継者だと考えてほしいです。そうすれば正当な後継者に高く売りつけてやろうとは思わないでしょう。
そして買手は、売手のビジネスや従業員を大切に引き継いでいくという意思表示をしましょう。
そうすれば買い叩いてやろうとは思わず、正当な価格で引き継ごうと思えるのではないでしょうか。
イメージでいうと、結婚相手のお父さんにご挨拶に行くような雰囲気です🤣
売手のCEOにとっては、自分のビジネスも従業員も我が子みたいなものだと思うので、どこの馬の骨かわからんような人に買ってほしくないと思うものです。
だからこそ、「この人になら託せる」と思ってもらった方が価格交渉も上手く行きやすい。
上手にトップ面談を乗り切って欲しいところです。

また、売手側も自社のビジネスにバイアス(偏見)が必ず発生していることを自覚しましょう。
誰よりもよく知っているビジネスだからこそ評価が甘くなりがちで、高く算定しがちです。
でも、買手から見ると未知の部分が多く、高い価格を出せないのだということも知っておかないといけません。
情報の非対称性が存在することを前提に交渉にあたるべきです。


(9)意向表明書の提出

トップ面談が上手く行き、双方良い感じで面談を終えることができたら、買手から売手に「意向表明書」が提出されます。
これは、買手側から売手側に対する「私は御社を~~円で買う意思があります!」という意思表示です。

ただし!
買手は意向表明書内で必ず法的拘束力に関する事項や購入条件等を明示しておきましょう。
意向表明書に法的拘束力はあるのかという論点は法学分野でも争いのある論点です。
仮に法的拘束力があるとして、どの程度の拘束力を帯びるのかは意見が分かれます🙄

なので、売手買手双方にとって争いにならないように、意向表明書には様々な条項を入れておきたいところです。
今後のDD(後述する)で問題が発覚した場合は金額が変わったりしますから、購入条件をしっかり明示しておきましょう!

そして、売手側も意向表明書≒購入決定だと思わないようにしましょう。
M&Aは最後の最後まで何があるかわかりませんから。


(10)基本合意書(LOI)の締結

意向表明書が受理し、ある程度交渉が進んで固まってきた段階で「基本合意書」を締結することになります。
基本合意書とは、これまで交渉してきた内容を今の時点で一旦まとめて、基本的な合意部分を明文化しましょうという程度の契約書です。
そのため、意向表明書と同様に様々な条件が付されることが普通です。
ここは複雑になるのが普通なので、必ず弁護士の力を借りましょう!

なお、基本合意書は英語では “Letter Of Intent”(通称LOI) “Memorandum Of Understanding”(通称MOU)などと呼ばれています。
カッコイイですね🙄
しかし、私は意地でも「基本合意書」と呼び続けます。
なぜ日本語でいうかというと、英語の定義が論者によって違うからです。
LOIを意向表明書として認識し、MOUを基本合意書と認識している人もいますし、LOIもMOUも同じもので、最終契約書の前に締結される拘束力の弱い契約と認識している方もいます。
なので、認識に齟齬がないように、私は基本的に日本語を使用します。
意向表明書と基本合意書はとても良く似たものですが、私は別々の目的で使っているので、分けて考えています😁

さて、話を戻します。
仮に売手の企業・ビジネスが大人気の場合、複数の買手から意向表明書が出されますから、基本合意書に至る前にブレイクすることは大いにあり得ます。
人気の高いビジネスを行っている売手は「選ぶ権利」があるのです。
この場合、売手有利な状況で交渉が進んでいきます。

一方で、売手の人気がない場合、意向表明書のあと数ヶ月放置しても基本合意書は締結可能です。
このようなケースでは買手が有利であることが多いです。
この辺りは案件次第です。

いうてしまえば、案件によっては基本合意書を省略することだってあるくらいです。
ではなぜ基本合意書を締結するのかというと、主に買手側のためです。
通常、基本合意書のドラフトは買手側が作成しますが、この際ほぼ間違いなく「独占交渉権」を契約書内に入れてきます😁
今後、3ヶ月間、うち以外と交渉しないでね!という条項です。
さらにいうと、優先権条項も入れてくるでしょう。
基本合意書を締結した日から一定期間内(3ヶ月以内など)に買手が一定価格(基本合意書内で規定)で買うという意思決定をしたら、売手はそれに応じる義務を負うのです。
これを破った場合は損害賠償請求となります。

このような条項をなぜ入れるのか。
それは、買手としてはここまで交渉をしてきたことを無駄にしたくない+この次の手続であるDDにコストがかかるからです。
DDは後述のとおり大勢の人間を使って行うものなので、買手側はコストの面でリスクを負っています。
それをカバーするために基本合意書で独占交渉権を規定しているのです。


(11)DD実施

遂にM&Aも大詰めになってまいりました。
M&A最大の大変さといっても過言ではないDDです!
DDとは“Due Diligence” (デュー・デリジェンス)の略称で、買手側が行う監査のことをいいます。

DDには、主に以下の3つの種類があります。

・財務DD
・法務DD
・事業DD(ビジネスDD)

それぞれ、財務的問題がないか、法的問題がないか、事業的問題がないかを監査していく作業です。
当然それぞれの専門家が行う必要があるため、原則としてコストがかかります。
DDを社内のメンバーのみで行うのはとてもしんどいです。
私も行ったことがあるのですが、もうやりたくないです😱
終わりの見えないレースを走らされているようなそんな気持ちになるのがDDです(笑)

WARCの中にCo-WARC(コワーク)という事業部がありまして、そこには公認会計士が数十人いるんですが、彼らがよく財務DDを請け負っています。
もう尊敬しかないです…
膨大な量の資料(数字ばっかり)を読み込んで、問題がないかをあらゆる角度から検証していっています…
とてもじゃないですが、私の能力ではできない🙄
私は彼らを神だと崇め奉っています。

このように、M&Aでは、外部の専門家の力を借りつつDDをこなしていきます。
基本的には、財務部門+外部の会計士・税理士等法務部門+外部弁護士等経営企画+外部コンサル等でそれぞれDDを行います。
その結果、なかなかのコストがかかります🤣
DDの時間数✕20~30万円くらいかかると思っていただけたらいいかなと思います。
そのほとんどはDDにかける人件費です。
人数を減らすか従業員の割合を増やせばコストは下げられますが、DDで見落としが発生するとM&A自体が失敗に終わる可能性が高まるので、DDはコストをかけるべきところです。
売手の会社の規模によりますが、たとえば合計30時間(約4日)で売手の財務・法務・事業のリスクをチェックできたとしたら、600~900万円程度のコストです。

DDはやろうと思えばどこまでも細かくできてしまうので、ある程度当たりをつけて、最もリスクの高い部分から見ていくのが普通です。
それでも数日はかかるかなと思います🙄
売手企業の規模が大きければ、DDだけで1ヶ月くらいかかることもあるそうで、その場合は億単位でコストがかかることもあります。
クロスボーダーM&Aだともういくらかかるか検討もつきません🤣
前にとあるM&Aの専門家(弁護士)がいうてましたが、1件のDDで2億円の報酬をもらったことがあるそうです。
私ならそこで引退しますね。2億あれば十分一生暮らせる。


(12)最終契約書締結

買手のDDが終わって、財務・法務・事業それぞれで大きな問題がないとわかったら、いざ最終契約です😁
この最終契約にはいろいろな類型があります。
そして、その類型はM&Aのスキーム(手法)ストラクチャー(構造)によって変化します。

この辺り知識については以前記事を書きました。

ただ、8割くらいはただの株式譲渡です😁
たまーに事業譲渡形式が使われますが、あまり一般的ではありません。
ちょっと難易度高いやり方だと新設分割という方法が併用されて株式譲渡をするという形が取られますが、新設分割は主に売手が大変なだけで、買手はむしろ楽になります。

この辺りの詳しいメリット・デメリットは、必ずM&A専門の弁護士・税理士さんに確認しましょう。
法的リスクや税務メリットなど、様々な点で検討の余地があります。
そして、売手・買手で交渉も必要になるので、できれば初期段階で決めておいた方が良いです。
それによってコストも全然違って来るので。


(13)クロージング

(14)決済

クロージングと決済は連携しているので一緒に説明します😁

まず、クロージングとは、最終契約書の締結から1~3ヶ月以内に行われる引き渡し手続のことをいいます。
M&Aの実行そのものといってもいいです。
手続の中には取締役会決議株主総会決議などが含まれます。
会社の経営権が移動するのでいろいろと大変なのです😱
ここでは司法書士を活用する機会が増えます。
法人の登記がほぼ確実に必要になるので、司法書士に立ち会ってもらう機会が増えます。

その後、買手側も決済(支払い)を行います。
小型のM&Aであれば、通常は自己資金で決済を行いますが、大型のM&Aだと銀行等にお金を借りる必要もあるので、クロージング期間が長めに設定されたりします。

このクロージング及び決済の方法についても最終契約書で定めることになるので、最終契約書はとても長くなりがちです🤣
一般の企業内にいる法務担当者が作るのは大変だと思うので、普通は経験豊富な弁護士にドラフト(案)を作ってもらいます。
まぁ弁護士は山程雛形持っているので簡単なんですけどね🙄
それを売手と買手で少しずつ編集して、オリジナルのM&A契約書が出来上がります。

クロージングで注意すべき点としては、クロージングの期間中に新たなリスクが発覚したりすることがたまにあるという点です。
例えば売手側の重要人物(キーマン)が退職の意思表示をしてきた場合などです。
IT企業を対象とした買収だとこのキーマンが居なくなるだけでM&Aの意味がなくなってしまうこともあります。
一般的には凄腕エンジニアです。
このような場合には最終契約締結後であっても再交渉しなければなりません。
そういう事態に備えて、様々なリスクヘッジ条項を入れるのが普通です。
ちなみに、キーマンに関する条項は「キーマン条項」と呼ばれています😁

この他にも、財務的経営的リスクを考慮して入れておく「MAC条項」(Material Adverse Change条項)なんてのもあります。
Material Adverse Changeとは、重大な不利な変化または重大な事態の変更という意味です。
キーマン条項もMAC条項の一種です。
MAC事由として考えうるのは、簿外債務の存在の発覚帳簿資産の不在の発覚などです。
BSに乗っかっていた数億円の不動産が、実は他人に売却済みで登記だけはまだされていなかったとか🙄
なかなか起こらない事象ですが、備えないわけにはいきません。

その他の宣誓事項、禁止事項などは「コベナンツ条項(誓約条項)」に入れてしまうことが多いです。
Covenantsには、誓約、約束、合意などの意味があります。
例えば、クロージング中の約束事とか競業避止義務とかですね。
M&Aの完了後に元売手の経営陣が全く同じ事業を始めて、競合他社になったら意味がないので、コベナンツ条項では様々なリスクヘッジをしておきます。
この辺りは必ずM&A専門の弁護士にチェックしてもらいましょう。
経験豊富な弁護士は様々なリスクを経験してきているので、コベナンツ条項の規定漏れを防ぐことができます。
なお、私が過去に見たことがあるM&A契約で最も長かったものでは、コベナンツ条項だけで数ページありました🙄


(15)引継ぎ/PMI計画策定

M&Aの不思議なところは、引き渡し後も通常は関係が続く点です。
売手の経営陣は売ってバイバイできるわけではないのです。
通常は、売った後も会社に残り、引継ぎをしないといけません
この期間は様々ですが通常は6ヶ月以上の期間を設けられます。
長いときは2年ほど残って、完全に経営権を引き継ぐ期間が設けられます。

この際よくあるリスクとしては、売手のモチベーション低下です。
売ってしまえばあとは知らん!という状態になりやすいのです。
だからこそ、最終契約で決済を「分割払い」にして、引継ぎが誠実かつ正確に行われることを決済条件にしてしまうという方法があったりします。

その他、何らかの経営目標(売上高、営業利益、フリーキャッシュフローの金額等)を設けて、その目標を達成したら残金を支払うという「アーンアウト条項」(Earn Out 条項)というものを入れたりもします。
その逆もあります。
経営目標を達成できなかったら、支払い済みの対価の一部を返還してくれ!という逆アーンアウト条項ですね🤣

さらにいうと、M&Aで買収された企業にいる経営陣に、引継ぎ期間中も役員報酬を支払うのですが、真面目に経営しなかった場合にはこの報酬を返還させるという「クローバック条項」(Clawback条項)なるものもあります。

他にも、なんかあったら価格調整しましょうね!という「価格調整条項」を入れたりもします。
M&Aは法律分野から見ても奥が深いのです🤔
面白いけど、ややこしい。


一方で、買手側も大忙しです。
なぜなら、PMIを行わないといけないからです。
PMIとは、Post Merger Integrationの略で、経営統合を意味します。

M&Aで何が一番大変ですか?と聞かれたら間違いなくPMIでしょう🙄
買手側は最終契約締結あたりからPMIの計画を策定しないといけません。
どうやって買収した会社を自社と統合していくかです。
一般的にはPMIは以下の3段階で考えていきます。

・経営レベル
・業務レベル
・文化レベル

最初に行うべきは経営レベルの統合です。
買収した会社の経営陣がもし残るのであれば、その経営陣と自社の経営陣の意識を合わせないといけません。
経営理念・経営戦略などの統合です。
買収した会社の経営をまるっと任せる!という判断もありです。
どのようにして経営を行うのかをまず決めるべきです。
ここが失敗すると全部上手くいきません😨

そして、経営レベルでの統合が終わったら、次は業務レベルの統合を行います。
会社にはそれぞれ独自のルールがあって、独自の稟議申請ツールなどがあります。
こういう業務プロセスを一つ一つ統合していきます。
感の鋭い方ならわかるはず。
これが大変なのです🙄
経営管理部の特に経理財務のメンバーの皆さん…がんばって…

最後に、文化レベルの統合を行います。
これは、経営レベルでの統合と業務レベルの統合の集大成のようなもので、徐々に慣らしていって文化を統合していくプロセスです。
頻繁にイベントを開いて打ち解ける機会を作ったり、飲み会を企画したり…
やれることはいっぱいあります。
この際、CEOは何度も経営理念を共有しないといけませんし、PMIに携わる皆さんも気持ちを一つにして同じ方向を向いて努力する必要があります。
M&Aの前と後で、後の方がより良い状態になったよねといえるような文化を築ければ大成功です。

そもそも買手にとってのM&Aの目的は、何らかのシナジー(相乗効果)を得ることなので、M&Aの前より後の方が良くなっていないと失敗なんです。
売上高、営業利益、企業文化、何らかの点でメリットを得ていないといけません。
そのためのPMIです。
PMIは難易度が非常に高い行為で、かつ、人間の感情に左右されやすいので成否の予測が難しいところです。

そのため、M&AにおいてはあえてPMIをほとんどしないというパターンもあります。
M&Aによって子会社にするけれども、あくまでも独立採算制を採用し、経営レベルの統合をほとんど行わないというケースです。
連結決算の作業くらいであとはそれぞれが独立した経営を行う。
たしかソフトバンクグループのM&Aはそれに近い状態だったと思います😁

いろんなM&Aがあって面白いところです。


3.あとはPMIの実施

上記の引継ぎ・PMI計画策定が終わったら、あとは半年~数年かけてPMIを実施していきます。
買手の担当者(主に経理・財務・経営企画)の皆さんは本当に大変だと思います😱
計画通りにいかないことが普通なので、経営陣と連携して少しずつ、一つずつ課題を解決していきましょう!

どれくらいかかるかわかりませんが、PMIを行っていることすら忘れる頃にはPMIが終わるはずです。
その時点でM&Aディール終了です😁
これで一件落着です。

お疲れさまでした!



おわりに

今日はM&A実務の全体の流れを時系列に沿って説明させていただきました😁
ちょっと難易度の高い分野なので、いきなり全部を理解し、実行しようと思わないようにしましょう!
専門家の力を上手に借りて、ディールを完遂してくださいませ!

もちろん、WARCもお手伝いできます!
WARCでは、M&A経験の豊富な公認会計士・税理士やM&Aアドバイザーが在籍しているので、以下の業務が可能です。

・M&Aアドバイザー(仲介)
・株価算定
・事業価値算定
・全体的なスキームアドバイス
・その他ご相談

いつでもご連絡ください😁
私宛にDM送ってくだされば相談内容にしたがって専門家につなぎます。
軽く私とM&Aについて雑談したいという依頼も受け付けています👍
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著者:瀧田 桜司(たきた はるかず)
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