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vol.553「五輪と台湾に学ぶ、人財が育つ仕組み創り」


日本の強みと教育システムの課題

五輪が始まりましたね。日本のメダル数が現時点で世界一といいます。凄いことです。その報道に触れながら、半年前に聴いた大前研一さんの講演内容を思い出していました。

大前さんは「日本人は優秀だ」と言い、特に以下の分野で優秀だと主張しました。
・スポーツ
・アニメ
・ゲーム
・音楽
・料理

最後の料理に関しては、ミシュランの星の付いた店が世界一多いのは東京だそうです。インバウンドが殺到するわけです。

さて、そんな優秀な日本人ですが、大前さん曰く「これらは全部、文科省管轄外の項目。文科省が関与しない分野が強い」。それを聴いて確かにその通りだな、と思いました。

スポーツでも、最近の日本が強いのはスケボー、ブレイキン、サーフィン、ボルダリングなど。学校の授業では習わないな、うちの学校にはそんな部活はなかったな、指導者もいわゆる「教諭」ではなく民間の指導者ばかりの競技で強い。

大前さんは続けます。「文科省の教育は世界で一番古い。大学受験のために高校で学生を文系と理系に分ける。こんな国は世界中で日本だけ。そして6割が文系を選ぶ。これではAI時代に必要な人財は育たない」。と、わが国の失われた30年の根本原因が「教育の仕組み」にある、と指摘します。

台湾の教育改革

一方で大前さんは、教育の仕組みづくりで成功した国の例として台湾を取り上げました。台湾は、IT時代を担う人財を育てるべく、李登輝総統時代に、以下の教育改革を断行します。

・高校生には、理系の教育をする
・理系の院卒生は、兵役を免除する

すると、理系の大学院卒業生が大量に出現。その中の優秀な人財が米国に渡りさらに学びます。NVIDIAやTSMCの創業者は台湾人です。世界を代表する半導体メーカーを狙い通りに育った人財が支えているのです。

その話を聴きながら、人財育成には人が育つ仕組みをつくることが何よりも大切なのだと痛感しました。

中小企業における人材育成①関連企業への出向

では、中小企業が台湾のように先を見据えて次世代を担う人財を育成していくにはどうしたらよいでしょうか?

その一つの方法が「関連企業への出向」です。自社の技術力を高めたいときに取引のあるより高い技術を持っている企業に社員を出向させます。そこで多くの先端技術や管理手法を学びます。出向期間は2—3年。出向が終わると自分の会社に帰還し、身に着けたスキルを活かす仕事に就きます。そして自分のスキルや考え方を伝承しながら会社の受注量拡大や生産性向上等付加価値アップに貢献します。

また、出向者の帰還と入れ替わりに、次の人財が同じ会社に出向します。期間は前任の出向者と同じ。こうして、出向先をよく知る人財が社内に増え、協力関係がより強固なものとなります。

私自身、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)で部長をしていたとき、親会社であり、営業的なパートナー会社の三菱UFJ銀行に部下を一人出向させました。

2007年頃、私の部署では中小企業のM&Aを仲介する案件が増加していました。が、そのような案件を任せられる人財は一朝一夕には採用も育成もできません。どうしたものかと悩んでいたところ、銀行から「M&A案件をサポートしてくれる人財が不足している。一人でいいので出向者を出してくれないか」との要請がありました。銀行もまた、人財不足に悩んでいたのです。

渡りに船とはこのこととばかりに、私は喜んで一人の部下を出向させました。銀行には、人を育てるノウハウがありました。専門性がなくても構わないとのことでしたので「意欲だけはある人財」を送り出しました。

2年後、彼は大変高い実務能力を身に着けて帰ってきました。あっという間にチームのエースになった彼を見ながら私の下にいては何年かけても身に着かないスキルがたった2年で身に着く。「可愛い子には旅をさせよ」と言いますが、環境に飛び込む(ダイブさせる)効果を感じました。

中小企業における人材育成② ジョブローテーション

もうひとつ、社外に出さなくても社内でできることがあります。ジョブローテーションです。

小さな会社ほど、人財は一度配属したらずっとそのまま。製造業であれば同じ現場で同じ仕事を、問屋業であれば同じ顧客を担当し続けます。そこから動きません。そうするのは、その方が経営者も社員も楽だからです。毎年同じような成果を安定して出し続けてくれる。大変ありがたいことです。

が、こうした人財はいつしかそれしかできない人材になってしまいます。ある製造業の経営者に言わせればそれは奴隷と同じ。その人自身の可能性を奪ってしまいます。また、問屋業の場合は会社の成長が止まってしまいます。

御存知のように社員は2−6−2に分かれます。このうち、新たなマーケットを開拓し、新たな事業を軌道に乗せるのはトップ2です。トップ2が時代に応じて新分野を担当することで会社は成長します。それなのに貴重なトップ2がずっと同じ顧客を担当し、同じ業務をしていたら、その人の労働時間の限界が会社の成長限界となってしまいます。

会社のミッションを理解したトップ2にどれだけ自由に動ける時間を与えるかが会社の成長力に直結します。それにはジョブローテーションが欠かせないのです。

また、ジョブローテーションをするには仕事の属人性を最小限にしなければなりません。作業の仕方や管理方法の標準化、見える化、共有化を先に進めないと、異動のマイナス面が大きくなります。

人材育成の準備と実行

キーエンスでは「狙って、構えて、撃つ」の順番を大事にしています。

中小企業にってジョブローテーションは組織力増強の大きな変革ですから
狙って=ジョブローテーションをやると決める
構えて=時間をかけてマニュアルやDBの準備する
撃 つ=果敢に実行する
の手順を踏んで実行し、組織の硬直化を打破しましょう。

まだまだ続く五輪ウィーク。更なる日本選手の活躍に期待したいものですね。

実践に役立つ動画の解説

このメルマガを読んで、「自社でも取り組んでみたい」と思われた方は、以下のような疑問や質問に答えていますので、ぜひこちらの動画をご覧ください。


質問項目

  1. 中小企業は今後どのような人材を増やしていくべき?

  2. 取引先への出向と社内のジョブローテーション、どう使い分ければいい?

  3. 出向もしくはジョブローテーションに失敗する会社の特徴は?


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