マガジンのカバー画像

宛先のない手紙 vol.2

388
ほぼわたしの考えを垂れ流すエッセイのようなもの。その2。
運営しているクリエイター

2019年2月の記事一覧

侮れない「なんかいい」

侮れない「なんかいい」

「もっと女性の直感力を活用していくべき」

どこで見たのか読んだのかは忘れてしまった、だけど記憶に残っているフレーズだ。

女性の「なんかいい」「なんか好き」は根拠はないけれど侮れない、といったことがつづけて書かれていた。まあ、何かを売る商売はターゲットを女性に定めているものが多いから、何も不思議なことではないのかもしれない。



「なんかいい」は侮れない。

勘がいいほうだとまでは思わないけ

もっとみる
崖っぷちから引き戻してくれた一言

崖っぷちから引き戻してくれた一言

満員のバスの中、乗り込んできた幼い女の子とお母さんが目に入る。座席を譲ろうと声をかけたら遠慮されてしまい、目の前の女の子に「座る?」と聞いた。「うん」とうなずいてくれたため、席を譲る。恐縮するお母さんに「いえいえ、揺れて危ないですし」と笑って応えた。

実はこの日、わたしは生理痛でつらかったのだけれど、このちょっとしたやりとりでなぜだか少し楽になった。情けは人の為ならず。情け、というか善行と呼ばれ

もっとみる
充満して淀んだ空気を抜いて、換えて

充満して淀んだ空気を抜いて、換えて

空気は、いつも音を立てずに吹き込まれていく。

気がついたときにはぱんぱんにふくらんでいて、破裂寸前だ。引き伸ばされたゴムはぴしぴしと聞こえぬ音を立て、ほんの弾みで弾け飛ぶ。

大きな穴を開けて破裂するより、針で穴を開けた方がダメージは小さかったろう。破裂音を響かせて、誰かを驚かせてしまうこともなかった。

破裂しても再び直せるのであれば、まだいい。修復できない破裂は、突発的な死だ。死は、取り返し

もっとみる
聴くのが怖い

聴くのが怖い

音楽はタイムカプセルだ。

わたしはそのとき気に入った曲を、繰り返し聴き続けるクセがある。ヒット曲とは限らない。たとえば、映画「グレイテスト・ショーマン」を観たあとには映画のサントラを、「ボヘミアン・ラプソディ」を観たあとには、ひたすらQueenの曲を聴き続けていた。(後者は今もなお。今もSomebody To Loveを聴いている)

聴いている曲は、そのときの感情や空気のにおいや見ていた情景と

もっとみる
腐れ縁との付き合い方

腐れ縁との付き合い方

かれこれ15年以上、希死念慮と付き合っている。

「ふつうはそんなに死にたくなんかならないんだよ」と言われたときには、ああそうなのかと思うのと同時に、「ふつうってなんだよ」と思ったっけ。

ふつうイコール大多数ということであるならば、多くの人は死にたいと思うことなく生きているんだろう。

途中息を潜めたようにも思えた希死念慮は、きれいさっぱり別れられたわけではなかったらしく、未だにわたしと共にある

もっとみる
あの日、母に「泥船」だと言ってしまった

あの日、母に「泥船」だと言ってしまった

長らく専業主婦だった母が働きに出始めたのは、わたしが中学に入る頃のこと。

それまで、母はわたしと妹が学校に行っている時間を利用して、ホームヘルパーの資格を取りに行ったり、友人の紹介で知り合った老夫婦の家事手伝いに通ったりしていた。

父は「男は仕事、女は家庭」を求めるタイプで、母も異論はなかったらしい。というより、フルタイムの仕事と家庭とを両立できると思えなかったのだと聞いたことがある。

状況

もっとみる
「仕方がない」をお守りにする

「仕方がない」をお守りにする

「まあいっか」が増えていくことを大人だと言ったのは、マンガ「ソラニン」の芽衣子だった。

はじめてソラニンを読んだ二十歳そこそこのわたしはどうだったろう。「まあいっか」と思うことは少なかったような記憶がある。もともと頑固だということもあるかもしれないけれど。

「まあいっか」と思えないから苦しんだこともあったし、「まあいっか」と思えないから味わえた達成感もあったのだと思う。たぶん、きっと。


もっとみる

物語に育まれてきた

先日、子ども向け映画上映イベントに息子たちを連れていった。夏休みに学童で映画館デビューを果たして以来、長男は映画好きに拍車がかかっている。次男も冬休みにシュガーラッシュオンラインで映画館デビューを果たした。

映画は冒険ファンタジーもの。わたしは知らなかったのだけれど、原作は何冊もつづいているシリーズものの海外児童文学らしい。

「これ、本があるんだって」と観終わったあと長男に話したら、「え、読み

もっとみる
記憶に色濃く残るのは、ハッピーじゃなかったバレンタイン

記憶に色濃く残るのは、ハッピーじゃなかったバレンタイン

2月14日。昨日はバレンタインデー。

何もするつもりがなかったのに、仕事で新宿に出てきてしまったので、帰り際に小田急の催事でチョコレートを3つ購入。昨夜の次男の「チョコレート、食べてみたいなあ……!」というキラキラお目めを思い出してしまったのだ。食べたこと、あるくせに。我が家のあざといボーイめ。

果たして夫へのチョコレートは本命なのか義理なのか……とぽやぽや考えながらレジに並んだ。ここ数年、バ

もっとみる
一線を越えてもいい理由

一線を越えてもいい理由

数年前に幾度となく聞いた不適切動画の投稿が、またここのところ取り沙汰されている。某回転寿司の次は、某中華系ファミレス。投稿したのはアルバイトだ。

回転寿司の件では、刑事・民事ともに訴えることにしたらしい。これに、「妥当」「当たり前」の声が寄せられるなか、「アルバイトにどこまでの倫理観を求めるの」「社員がいない労働環境のせいだろう」といった意見が混じっているのを見た。

まあ、確かに社員なしで回し

もっとみる
背中を通して世界を見る

背中を通して世界を見る

子どもには無限大の可能性がある。大人になるにつれて、ひとつずつ可能性の芽を失っていき、そうしてわたしたちは大人になる。

……と、言われて育った。「いいねえ、まだまだ可能性だらけなんだよ、若菜は」。10代の頃に親に言われたセリフだ。「そうなのかあ」と思いながら、どこか釈然としない気持ちも抱えていたことを憶えている。

「子どもは夏休みがあっていいなあ」と毎年のように言っていたのは父だ。でも、わたし

もっとみる
蓄えられる会話と消費の場

蓄えられる会話と消費の場

「たくさんの人とわいわい過ごすことで元気になれる」「ひとりで過ごすことで元気になれる」さあ、あなたはどちらのタイプですか?

なんていう質問がある。内向的か外向的かの判断などで見られる質問だ。毎回、わたしはこの手の質問に「どちらともいえない…」と選択していた指を止める。

強いていえば「ひとり」かなあと思ってみては、「いやいや、ひとりだと鬱まっしぐらになりかねなくない?」とも思ってみたり。グレーの

もっとみる
映画館が好きな理由

映画館が好きな理由

予定がなくなったため、急遽映画の上映情報を調べる。幸い時間帯も席も問題がなかったため、さくっと予約。いそいそと出かけた。

2時間ほどの、わたしを解き放てる贅沢な時間。ふだんの2時間とは異なる時間軸に、心と頭を預けられる。

満員御礼でも空いていても、映画館のシアターにいる間、わたしはひとりだ。 氾濫する情報から離れて、映画とだけつながる2時間。せわしなく動きつづけていたわたしの粒が、本来いるべき

もっとみる
楽にならざりじっと手を見る【子育て編】

楽にならざりじっと手を見る【子育て編】

喉元を通り過ぎたからではなく、わたしは赤子時代の方が子育てストレスを感じていなかった。

たまたま我が子が比較的楽なタイプだったのかもしれないけれど、とはいえ「楽だった」わけではない。それなりにしんどかったし、寝不足だったし、体重が減りすぎて心配されたりもしていた。

ではなぜ育児ストレスにそれほど悩まされていなかったのかというと、自分のペースで物事を進められないことを受け入れられていたからなのだ

もっとみる