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【読書ノート】25「裏切りと陰謀の中国共産党建党100年秘史 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐」 遠藤誉

遠藤誉氏の本は今まで何冊も読んできて感銘を受けてきたが、この著作もまた現在の中国共産党の在り方そのものを問うもので、他の「中国専門家」とはその情報力や洞察力の深さで一線を画す素晴らしい内容である。

 本書の内容は主に建国前の時代において西北革命根拠地を築き革命に大きな貢献を行った高崗や習近平の父親である習仲勲と権力奪取のために毛沢東に取り入って彼らを自殺や失脚に追い込んだ鄧小平とその一味を描いている。

 毛沢東は憎むべき相手倒すべき相手を間違えてしまったのではないだろうか。その間違えさせたのは他ならぬ鄧小平だ。鄧小平が天下を取るために次々と捏造していった無根の事実に毛沢東は惑わされ、あるいは惑わされたふりをして無駄な時間を使い、犠牲にならなくていい人たちを犠牲にしてきた。 鄧小平の罪は重い。自分が善人として歴史に残るように「細工」した分だけ、その罪はさらに重い。

p158

歴史に「もし~ならば」というのはないにしても、あえてもし、鄧小平があの高崗を打倒するために事実無根の捏造をして陳雲と示し合わせて毛沢東に密告するようなことをしていなければ、毛沢東は劉少奇を倒すために文革を起こす必要もなかったわけで、文革による2000万人の犠牲者(中国政府発表)を招くこともなかっただろうと思われる。
その意味で、あたかも「善人」として位置づけられている鄧小平の実像を浮かび上がらせることは、中国共産党政権とはなんぞや、そして現在の習近平政権は何を目指しているのか理解する上で不可欠の作業の一つだと信じる。 

p162

また革命後の時代では無実の罪で16年の投獄されていた習仲勲が復活して辣腕を振い、広東地域の経済特区を作り上げていった姿と、当時権力を持っていた華国鋒を権謀策術で追い落とし権力を掌握し、習仲勲の実績を横取りして追い落としていく鄧小平の姿が検証されている。そしてそのことが現在の権力者である習近平の政策にどのような影響を与えているか様々な考察がなされている。

「特別行政区」という概念は、第5章で述べたように「経済特区」同様、習仲勲が香港やマカオを視察した時にすでに提示している。 今では「経済特区」も「一国二制度」も「特別行政区」もまるで全て鄧小平が 言い出したように、「鄧小平神話」が作り上げられているが、それは鄧小平の意図的な認識形成操作の結果であって、真実とはかなりかけ離れている。 

p279-280

著名な中国問題研究者エズラ・ボーゲルに象徴されるように、少なからぬ欧米の中国研究者は鄧小平を「現代中国の父」と崇め「改革開放の総設計師」と讃えているが、それは鄧小平が作らせた鄧小平神話」であって、毛沢東が「抗日戦争のために戦った」という事実無根の「抗日神話」よりも、もっと罪深い側面を持っている。
なぜなら「鄧小平神話」はいくつかの国に「中国が経済的に 発展すれば、いつかは民主化するのではないか」という「幻想」を抱かせて抱かせたからである。それにより中国を巨大化させ、今では中国は手に負えない存在となりつつある。その最大の「犯人」は日本の財政界であることは日本は気がつかなくてはならない。

p309

  やはり印象的なのは習仲勲の高潔な人格とその能力の高さであり、また革命の成功に大きな貢献を行い、改革開放の基礎を築き上げたにも関わらず、権力闘争の結果、不遇で歴史の片隅に消え去ってしまった悲劇の姿である。
  また我々が長い間信じてきた(信じ込まされてきた)鄧小平神話の大半は創作であり、権力を得るためならば何でも行うであろう鄧小平の悪辣な姿が良く理解できる。
  このことは以前読んだ春名幹男の「ロッキード疑獄 角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス」を彷彿とする。(この本では歴史を詳細に検討することにより、悪辣な人格のキッシンジャーがいかにして田中を失脚に追い込んでいったのかを検証分析した。)

 習仲勲のような人物がトップに立つことができないのが中国であり、その習仲勲のために「復讐」の思いで国家戦略を進めている習近平は、絶対に譲らない。だからこそ、国家主席の任務制限を撤廃するために憲法を改正することさえしている。
 習近平が李克強と権力争いしているなどという「甘い幻想」を抱かない方がいい。そんなちっぽけなことで習近平は動いていない。彼が睨んでいるのは「世界」だ。「人類運命共同体」という外交スローガンを軽んじない方がいい。100年前のコミンテルンのヤドカリ作戦のように世界各国に潜り込んで成長してんやがて中国共産党が支配する世界を作ろうとしているのだ。
 習近平はウィズ・コロナの世界で、社会主義体制の優位性まで強調して人類の上に立とうとしている。私たちは言論弾圧をする世界の中に組み込まれていっていいのか?一党支配体制の維持を国家の最優先目標に起き、そのために情報を隠蔽する中国により、いま世界は未曾有のコロナ禍に苦しんでいる。 犠牲者の数は世界大戦以上だ。
人間は何のために生きてるのか?
日本の覚悟を問いたい。

p385

遠藤氏は既に80歳を迎えかなりご高齢であり「この執筆が人生最後の仕事になるかもしれない」とあとがきに書いておられるが、彼女のように幼少期より中国と関わり、真に中国と中国共産党を理解していてそれを批判分析できる人は(少なくとも日本人の中には)ほかにいないと思われるので、ぜひ長生きされてこれからも歴史の真実に迫る素晴らしい著作を執筆し続けていただきたいと思う。
(2021年12月22日) 



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