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【お仕事小説部門】パイロットまで、あと2年。

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⭐️あらすじ⭐️ 高校を卒業して航空自衛隊のパイロット課程に進学した俺。全国から集められたパイロットの卵たちは、今日も厳しい訓練に臨む。もうすぐ夏。なぜか泳ぐ訓練が始まった。のどかな…
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[1]パイロットまで、あと2年。

[1]パイロットまで、あと2年。

あらすじ高校を卒業して
航空自衛隊のパイロット課程に進学した俺。
全国から集められたパイロットの卵たちは、
今日も厳しい訓練に臨む。

もうすぐ夏。
なぜか泳ぐ訓練が始まった。
のどかな田舎を舞台に、
地獄の訓練が始まる。

なにもかもの初めての環境で、
仲間とパイロットになるために努力するお話。

本編「高卒でパイロットになれるの、
日本とベネズエラだけらしいよ。」

航空自衛隊最後の試験は宿泊

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[2]パイロットまで、あと2年。

[2]パイロットまで、あと2年。

入隊してからの2ヶ月は地獄だった。

先輩と教官が最強のタッグを組んで、
スクワットや腕立て伏せを強いる。
毎日、体力の限界を更新するから、
体のどこかが常に痛い。

「俺たちアイドルじゃん!」

宮崎出身のブン太がいう。
今年の入隊者が48人であると知って
ニコニコ顔だ。

「全員卒業すればね。」

俺は汗だくの服をエアコンに当てて乾かす。
自分で自分の体が臭いことがわかる。
さっき風呂に入った

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[3]パイロットまで、あと2年。

[3]パイロットまで、あと2年。

午前中はさんざん筋トレ、ランニングまでやった。
お昼をかきこんだらプールに集まる。

「まずは、
お前らの泳力を把握する。
100mのクロール実施!」
「はい!」

教官の指示に全員反応する。
自衛隊では、何かを命令する時に
「○○実施」とよくいう。
まだ慣れないが、
返事は「はい」か「イエス」だけ。
考える必要のないことだ。

さっそく泳ぎ始めるが、みんなレベルが高い。
泳げるのは当然でお互い速

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[4]パイロットまで、あと2年。

[4]パイロットまで、あと2年。

「え!ゴーグルつけちゃダメなの?」
「そりゃーそうだろ。
飛行機が墜落した先に都合よく
ゴーグルがあるわけないんだからさ。」
「積んどけよ!あんなデカいんだから、、、
最悪だ!」

誤算だった。
泳げはするが顔が濡れるのはイヤなんだ。
ゴーグルがないと顔を水中に付けることができない。
ペースが遅い分、
基本は立ち泳ぎと平泳ぎのハーフみたいな
泳ぎ方を強いられる。

さらに泳ぐ時は陣形を組む必要があ

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[5]パイロットまで、あと2年。

[5]パイロットまで、あと2年。

「あーー、やっぱここのイチゴパフェ最高だわ。」

ブン太がソファに沈み込みながら
ほっぺに手を当てる。

「かわいいな笑」
「お前に言われても嬉しくねーな!」

ここは基地の最寄りにある喫茶店ルノワール。
航空自衛官御用達で、
俺たちも先輩に連れてってもらったのが最初だ。
牛乳感の強いバニラアイスに
苺がたっぷり乗ったパフェを食べる。

「はー、彼女欲しい」
「今はムリだろ、門限17時だぜ!」

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[6]パイロットまで、あと2年

[6]パイロットまで、あと2年

「頼む!夏までに合コン開いてくれ!」
自習時間になって、さっそくブン太が頭を下げる。
詩音はキョトンとしていた。

「合コン?別にいいけど、あんたと前橋以外に、誰が来るの?、、、一応声はかけてみるけど、冴えないメンツね」
「おいおい何言ってんだよ!容姿はともかく、パイロットだぜ!パ・イ・ロ・ト!これ以上ないアドバンテージが俺たちにはあるんだよ!」
「何言ってんのよ、まだ飛行機に乗ったこともないくせ

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[7]パイロットまで、あと2年。

[7]パイロットまで、あと2年。

バスの車内は静まり返っている。
教官が一番前の座席に座っているから、不用意に発言できない。
寝そうなやつもヒジで突かれて起こされている。
あれは長島だ。
あいつ、ろくに泳げないのに寝不足だったら死ぬぞ。
もちろんスマホも没収されており、本当にすることがない。

目的地は海水浴場。
楽しく泳ぎに来たのではない。
3時間泳ぎ続ける訓練に来たのである。
教官いわく、まだ本番じゃないから
"とりあえず"

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[8]パイロットまで、あと2年。

[8]パイロットまで、あと2年。

海から上がってから身体中がヒリヒリする。
もはや痛い。
「なんか痛くね?」
隣のブン太にも確認する。

「あれ?お前も?なんか俺も股間がムズムズしててさ」
「やっぱそうだよな!ち◯こが痒いわけでも、股ずれともなんか違うんだよな」
「それ、セクハラなんだけど」
詩音が睨む。
「いやいや、マジなんだって!」
「日焼けなんじゃないの?着替える時に何か塗った?」
「塗る?なにを?海に入るんだから落ちるでし

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[9]パイロットまで、あと2年。

[9]パイロットまで、あと2年。

曇天。
まだ夜が明けてないと錯覚するほど空が暗い。
今日はいよいよ3時間海で泳ぐことになる。
プールでの練習を3回。
海での訓練も1回経験した。
とはいえ、こんな天気は想定外だ。
海の家に着いた段階で波の荒々しい音が聞こえる。
俺たちを飲み込まんとする勢いで砂浜に波が打ち寄せている。

「え、マジ?」
さすがのブン太も戸惑いを隠せない。

「いや、さすがにやめるっしょ。」
「だよな?」
周囲からも

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[10]パイロットまで、あと2年。

[10]パイロットまで、あと2年。

「あー、そろそろ限界だわ」
「だよな」
「ああ」
「東川もヤバいんじゃない?」
「‥‥な、なにが?」
「何がってションベンに決まってんだろ?」
「‥‥‥‥い、い、いや俺はいいや。‥‥今のペースが崩れると、また溺れそうだから。」
「 そうか、無理すんなよ!詩音!ちょっと一旦トイレ休憩いいか?」
ブン太が先頭に合図すると、ペースメーカーの詩音が嫌々振り返って手を挙げる。

「じゃ、ちょっくら最後尾でや

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[11]パイロットまで、あと2年。

[11]パイロットまで、あと2年。

「‥‥え?」
「だから、溺れてくれ!」
そりゃそうだ。
東川は悪くない。

「足がつったことにしよう。せーの!」
「いやいや、待ってよ。そんな急に無理だよ。」
「今こそお前の演技力の見せ所だ。
俺を助けると思ってさ!」
「そんな余裕ないって。
頼むからほっといてくれよ」
「俺だってそっとしておきたいさ!
でも、それどころじゃないんだよ!」
「詩音にまた引かれちゃう。」
「大丈夫。あいつは寛容だから

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[12]パイロットまで、あと2年。

[12]パイロットまで、あと2年。

外出するには面倒な手順が必要だ。
まず平日に外出申請を行う。
これはフォーマットに外出する日を書いて、
教官に提出すればいい。
俺たちは土日しか基地の外に出れないから
書かなきゃいけないことも大してない。

しかし県外へ移動するには
もっと詳細な行動計画が必要になる。
いつ基地を出て交通機関は何を利用して
帰りは何時になるのか報告する必要がある。
面倒なのは上官に見せなければ
許可をもらえないと言

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[13]パイロットまで、あと2年。

[13]パイロットまで、あと2年。

「入ります!」

ブン太が教官室に向けて大声を出す。
入り口で俺と東川、詩音が横並びなって
右へ倣えをして列を整える。
それを確認したあと
ブン太が1番偉い教官に向けて敬礼する。
今日は5区隊、区隊長の関1尉だ。
部屋に入るだけでも作法がある。
非常に面倒だが関1尉は
どちらかといえばフレンドリーだ。
あくまでも、どちらかといえば、だか。

複数人で教官室に行くときは、
基本的に代表者がしゃべる。

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[14]パイロットまで、あと2年。

[14]パイロットまで、あと2年。

土日の基地はいつもよりのんびりスタートする。
とはいえ、いつも6時になるラッパが
7時に鳴るくらいのもんだが。
それでも眠れる時間が増えるのは嬉しい。
昼寝をしていると先輩に捕まって
筋トレスタート‥なんて最悪の経験をしており
なるべく基地にいることを避けている。

いつも寝泊まりしている部屋にはカーテンがない。
理由はわからない。
ブン太いわく、
首に巻いて自殺する可能性があるからだそう。
ま、

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