[6]パイロットまで、あと2年
「頼む!夏までに合コン開いてくれ!」
自習時間になって、さっそくブン太が頭を下げる。
詩音はキョトンとしていた。
「合コン?別にいいけど、あんたと前橋以外に、誰が来るの?、、、一応声はかけてみるけど、冴えないメンツね」
「おいおい何言ってんだよ!容姿はともかく、パイロットだぜ!パ・イ・ロ・ト!これ以上ないアドバンテージが俺たちにはあるんだよ!」
「何言ってんのよ、まだ飛行機に乗ったこともないくせに。」
鋭く切り返されて、俺もブン太も返す言葉がない。
「ま、期待しないで待ってるわ」
「はぁ〜?そんなテンションじゃ呼ばないわよ。あと、いつものノリでセクハラみたいな発言したら即刻つまみだすからね」
「おいおい適当なこと言うなよ前橋。とーっても期待してるからマジ頼むわ詩音様!」
「見返りは?」
「は?」
俺もブン太も声を揃えて気の抜けた返事をする。
詩音が邪悪な顔をして見つめる。
「じゃ、焼肉奢ってよ」
「う、、、。し、仕方ない。」
ブン太が苦虫を噛み潰したような顔で了承する。3人で割るならなんとかなる。
「これで、さんざん鍛えた夏ボディが報われる!あと参加するのは俺とコイツと東川の3人な。」
「え!東川!あんたはいいとして、前橋と東川なんてデートの経験さえないんじゃないの?」
「ぶふぉっ!」
図星だ。
変な咳が出た。
「ねーよ!悪かったな!!」
「そんなんで大丈夫なの?心配でならないわ」
「頑張るよ」
「女は気合いでどうにかなるもんじゃないのよ」
詩音が偉そうに言う。
「お、俺もいいの?」
東川がおずおず近づいてきた。
「はぁ?あんた知らなかったの?」
詩音が俺と文太を睨む。
「いや〜アイツ、水泳始まって死にそうだったし生き甲斐を与えないと溺れそうだから」
「そうそう、頼むよ。」
俺もブン太も詩音に両手を合わせる。
「拝むな!」
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「な?なんとかなっただろ?」
ブン太が胸を逸らして言う。
結局あのあと詩音が話をつけてくれたらしく、水泳訓練が終わった後の土曜日に合コンすることが決まった。
相手は福岡の短大生。
こんな青春俺にも来るんだな。
「と言うわけで、東川も死ぬわけには行かなくなったな!」
「うん!やるしかないね」
東川もやる気になっている。
しかし海で泳げるかどうかは別問題だ。
今日の水泳訓練は前回から30分長い1時間30分。
これでやっと半分だ。
俺もキツくはないが、流石にトイレに行きたくなった。
まだ耐えられるが3時間もちそうにない。
しかしたとえ広い大海原とはいえ、海パン履きながらおしっこするのは気が引ける。
「ションベンだけが不安だよ」
「大丈夫だって、シャーッと景気良くやっちゃえよ。目覚めるかもしれないぜ」
「それはそれで嫌だ。」
「これも合コンのネタになるな!」
「何考えてんだよ!詩音に殺されるぞ」
明日からいよいよ海で泳ぐことになる。
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