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#掌編小説
グラウンドの中心を見つめて~青年編~
「まさか、こんなことになるとは思わなかったよ」
真夏の横浜スタジアムのマウンドの上で、奏多と正対して亮太はこぼした。
「オレは、そうは思わなかったけど?」
あっけらかんと、ここにいることは当たり前だと言わんばかりの表情で、奏多が口にした言葉は疑問文であった。まるで、その先に隠した何かを触ってほしいと訴えているように亮太の目には映った。
「さすがだよ」
亮太は敢えて触れることなく、奏多の後方で
グラウンドの中心を見つめて~思春期編~
[いよいよだな」
そう呟いて亮太は三塁側のベンチでストレッチをしている奏多を見つめた。奏多は、防具を着た背番号二番と談笑をしている。それがなんだか気に入らなかった。
お互いの意思で選んだ道で、再び交わることになった現実は亮太を高揚させ、いつも以上にアドレナリンが脳内から放出され、全身に通っていくのを自覚していた。しかし、それと同時に奏多のボールを受けるのが自分でないことへのやるせなさと相手捕手
バッティングセンター
身体は嘘をつかない。
年齢に勝てないという事実が
打席の後ろにあるキャッチマットに
軟球がぶつかる音によって自覚的になる。
あの頃、当たり前に打っていた
速度のボールが当たらない。
気を取り直して、構える。
マシンから放たれる山なりの
ボールを見据え、コースを読む。
ここだ。バットを振り出す。
イメージでは真芯に当たり
勢いよく飛んでいくはずだった。
でも現実はあまりにも残酷だ。
弱々しい打球が転
休日の日差しは優しくて
日曜日の昼下がり、駅前は賑やかな声が響く。
深夜には聞こえない子ども達の
明るく無邪気な高音が聴覚を刺激する。
いつも見ているはずの風景なのに
なんだか普段とは色が違う。
「ねぇ、何食べる?」
僕の横を歩く彼女が不意に言う。
「そうだな……何食べたい?」
質問に対して質問で返すあたり
女性、いや人との関わりに
難ありだなと自嘲してしまう。
「質問に質問で返さないでよ」
至極当然な返しに、苦笑いを浮