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#039.アンサンブル 1(アンサンブルって何だろう)

最近は吹奏楽連盟のアンコン(アンサンブルコンテスト)に参加する学校も大変多くなり、中高生も室内楽を経験する機会が増えたように感じます。
僕が中学生の頃は(もしかしたら地域性かもしれませんが)アンコンという言葉すら聞いたことがなく、高校生になって初めて金管アンサンブルというものを経験しました。

アンコンに出場する学校や学生にとって、アンサンブルが吹奏楽コンクールが終わったら冬に向かって取り組むひとつの行事といった「時期モノ」になっている感じがあります。

しかし、吹奏楽とアンサンブルは似て非なる存在で、その違いを理解し、頭を切り替えないと、いろいろと混乱したりうまくいかない点が多くあります。

そこで今回から数回に分けて、アンサンブル(室内楽)についてのお話を書いてまいります。なお、室内楽編成で演奏することをこのブログではすべて「アンサンブル」と呼びます。


アンサンブルって何だろう

吹奏楽の合奏とアンサンブルの最も大きな違い、それは指揮者がいないという点です。では指揮者がいないと何が変わるのか。それを理解するためにまず指揮者のお仕事について正しく理解しておきましょう。

指揮者のお仕事

指揮者のお仕事とは何でしょうか。棒をブンブン振ってテンポを教えてくれる人間メトロノーム?確かにテンポを示すこともしていますが、それだけの存在ではありません。指揮者のお仕事は「現場監督」そして「演出家、プロデューサー」です。


演奏者は個々に「この曲が最も素晴らしいと思う完成形」「自分の演奏の方向性」を持っています(理想も含む)。それは個性という素晴らしい存在ではありますが、集団でひとつの楽曲を完成させるにあたっては、方向性を定める必要があります。

さらに、楽譜に書いてあるデータは、そのほとんどが絶対的指示ではありません。例えば、フォルテが書いてあってもそれが「〇〇デシベルで演奏しなければならない」などと決まっているわけではありませんね。
そもそもダイナミクス記号はデシベルだけで片付けられる存在でもありません。フォルテという記号の解釈は、作品、場面、演奏者の数だけいくつもの可能性があるのです。

そうした具体性のない指示では奏者各自のイメージする音楽も微妙に違うため、統一感がいまいち定まりません。そこで登場するのが指揮者です。指揮者は「このメンバーで今回作りあげる作品の方向性はこうです!」と決定する仕事をする人なのです。

吹奏楽やオーケストラは作品を演奏する「集団で1つの楽器」と考えるとわかりやすいかと思います。

指揮者は自分の中に確固たる作品の完成図を持っていて、いくつもの表現の可能性や選択肢の中から「これでいきます!」と示す人です。そうした解釈の中にはテンポも必然的に含まれています。

というわけで指揮者のお仕事がわかりました。アンサンブルに指揮者がいないということは、指揮者の仕事を奏者全員が担うことになります。

作品や場面において「『私たち』はこの場面をこうやって表現するんだ」という確固たる完成図を奏者それぞれが提案し、受け入れ、そして共有するのです。その方法については後日詳しく書いてまいります。

アンサンブルにリーダーは必要ない

アンサンブル練習時、奏者の誰か1人が指揮者化してしまう状況に陥る場合が結構あります。しかし誰かがリーダーになり、指揮者のような役割になってしまうのはアンサンブルの魅力が激減してしまいます。
しかも、そのリーダーは、部活動だったらほぼ100%上の学年になるはずです。

私の経験則ですが、アンサンブル練習の時に先輩がひとりで頑張って提案したり指摘したりリハーサルを進行し、後輩たちはそれに黙って従うだけの状況になっている姿をたくさん見たことがあります。確かに誰かが進行役にならないとダラダラしてしまう可能性は否めませんが、アンサンブルメンバー内で演奏上にも序列ができてしまうのは、絶対に避けたいところです。

喋らない音楽作り

そもそも、アンサンブル練習時に喋ることで曲作りを進めようとするその発想があまり良いものではありません。
吹奏楽やオーケストラに慣れていると、どうしても指揮者(指導者)が言葉で解説して実践、というパターンこそが音楽を作り上げる手段と思ってしまうのも無理はありませんが、アンサンブルの場合は演奏で提案したり主張したり合わせたりして作り上げていくものです。

指揮者はプロデューサーですから、その人が作ろうとしている音楽に向かっていけば良いですが、アンサンブルでは演奏を止めて喋ってを繰り返す曲作りは相性が悪いんです。民主主義になってしまうと少数派の素晴らしい音楽性が発揮できない可能性がありますし、だからと言って反発し合って全員が好き勝手な演奏をしたら崩壊します。音楽を作る楽しさや意欲が半減してしまいます。

上下関係を持ち込まないように!

アンサンブルに限ったことではありませんが、演奏に上下関係は不要です。すべての奏者が等しく重要で、1stが偉いとか上手じゃないから3rdをやっているなどという発想は絶対にあってはなりません(部活や趣味で演奏している団体の場合は、演奏レベルや経験年数によって技術的に難しい結果、3rdを担当せざるを得ない場合もありますが、それは今のこの話とは違う領域です)。それぞれのパートが担う役割が違うだけですから、アンサンブルにおいてもパートや立場の優劣をつけないようにしたいものです。演奏を聴く側になればそんなものが不要だとすぐわかりますよね。

というわけで、今回はまずアンサンブルとは何か、解説しました。次回以降はより具体的な練習方法やアンサンブルをする上で大切なお話をしていきます。

それでは、また次回!


荻原明(おぎわらあきら)


荻原明(おぎわらあきら)です。記事をご覧いただきありがとうございます。 いただいたサポートは、音楽活動の資金に充てさせていただきます。 今後ともどうぞよろしくお願いいたします。