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歴史本書評

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オススメ歴史本の読書記録。日本史世界史ごちゃ混ぜです。
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#戦国時代

【書評】金子拓「長篠合戦 鉄砲戦の虚像と実像」(中公新書)

【書評】金子拓「長篠合戦 鉄砲戦の虚像と実像」(中公新書)

 天正3年(1575)に起きた長篠の戦いでは、織田信長・徳川家康の連合軍が武田勝頼を撃破しました。
 教科書に載る「長篠合戦図屏風」には、織田・徳川連合軍の馬防柵と鉄砲隊の活躍が描かれています。いわゆる「三段撃ち」が後世の創作ということは一般にも知られてきましたが、「織田信長が鉄砲を活用した戦い」という認識が普通でしょう。

 昨年発行されたばかりの本書は、これまでの長篠合戦の研究をコンパクトにま

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【書評】和田裕弘『柴田勝家』(中公新書)

【書評】和田裕弘『柴田勝家』(中公新書)

 数多の戦国武将の中でも、柴田勝家はかなり有名な方です。織田信長の重臣であり、信長の死後、賤ヶ岳の戦いで羽柴秀吉に敗れました。

 猛将として知られる一方、歴史の敗者である勝家には負のイメージも付きまといます。創作では、あまり頭のよくない猪突猛進型の武将で、時代の流れについて行けず敗れ去った――という人物造形になっていることが多いようです。

 しかし、勝家については同時代の史料に乏しく、実像は謎

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【書評】西股総生『杉山城の時代』(角川選書)

【書評】西股総生『杉山城の時代』(角川選書)

 埼玉県の比企地方に、杉山城という中世城郭があります。建造物のない土の城ですが、完成度が高いため城マニアの間で「知る人ぞ知る名城」になり、最近ではテレビなどに取り上げられるようになりました。

※訪問記事はこちらです。

 しかし、杉山城について記した文献は乏しく、誰が築いたのかについては謎に包まれてきました。この杉山城の謎に迫ったのが本書『杉山城の時代』です。

2000年代に登場した新説 この

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【書評】渡邊大門『豊臣五奉行と家康』(柏書房)

【書評】渡邊大門『豊臣五奉行と家康』(柏書房)

 一般的に、関ヶ原の戦いは「豊臣秀吉の死後に主導権を握ろうとした徳川家康と、それを阻止しようとした石田三成の戦い」と認識されていると思います。

 しかし、近年は研究の進展が著しく、合戦のとらえ方はかなり変化してきています。例えば、合戦中に寝返ったとされてきた小早川秀秋は、実は開戦と同時に裏切っていた、という風に認識が変化しました。

 本書は、「豊臣五奉行」に焦点を当てて、関ヶ原合戦に至る権力闘

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【書評】柴裕之『徳川家康 境界の領主から天下人へ』(平凡社)

【書評】柴裕之『徳川家康 境界の領主から天下人へ』(平凡社)

 来年の大河ドラマの主人公である徳川家康。創作の中では、「人質から天下人になった苦労人」「信長や秀吉に信頼された律儀者」「豊臣家を滅ぼした陰険な狸親父」など、一定のパターンで描かれているようです。

 しかし、近年の研究の進展により、古い家康像は書き換えられています。2017年刊行の本書も、そうした成果の一つといえるでしょう。

「境界の領主」としての徳川家康 本書の副題で、繰り返し出てくるキーワ

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【書評】『現代語訳 信長公記』(ちくま学芸文庫)

【書評】『現代語訳 信長公記』(ちくま学芸文庫)

 織田信長の家臣であった太田牛一による信長の一代記。信長を知る基本史料である。

『信長公記』の活字翻刻版は刊行されておらず、同書の全貌を知る貴重な書籍である。もっとも、ちくま学芸文庫版は1980年に刊行されたものの復刊で、見解が古い点もある。

 例えば、桶狭間の戦いは従来言われてきた「奇襲説」は否定されており、『信長公記』本文を分析した「正面攻撃説」が有力になっている。が、本書67ページの地図

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【書評】本郷和人「日本中世史の核心」

【書評】本郷和人「日本中世史の核心」

中世史の専門家である本郷和人氏の著作。日本の中世史(鎌倉・室町・戦国時代)を概観するための8人のキーパーソンが並べられている。

その内訳は以下の通り。

源頼朝、法然、九条道家、北条重時、足利尊氏、三宝院満済、細川政元、織田信長。

源頼朝と足利尊氏、織田信長はわかる。法然は中学、細川政元は高校の日本史教科書に載っている。が、九条道家・北条重時・三宝院満済というメンバーは知名度も低いし、なかなか

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【書評】西股総生「パーツから考える戦国期城郭論」(ワン・パブリッシング)

【書評】西股総生「パーツから考える戦国期城郭論」(ワン・パブリッシング)

 城ファン・戦国ファンの数の多さ故、城の解説書はたくさん出回っている。なので、一般人でも堀、土塁、天守といったパーツの基本的な知識はひととおり身に着けることができる。

 が、「ひととおり」の知識では満足できない人には本書がお勧めだ。著者の西股先生は、従来のアカデミアが苦手としてきた軍事の視点から、独自の論考を世に出してきた。大学所属ではない研究者ならではだと思う。

 軍事の世界では、失敗はすな

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【書評】乃至政彦「謙信越山」(JBPressBooks)

【書評】乃至政彦「謙信越山」(JBPressBooks)

越後の戦国大名・上杉謙信は「義の武将」として知られている。北条氏に敗れて没落した関東管領・上杉憲政を保護したり、武田氏の侵攻を受けた信濃諸将の求めに応じて武田信玄と戦ったりしたため、「損得より正義を重視した」イメージが強いのだ。

個人的なことを言うと、上杉謙信については敬遠気味というか、理解しがたい人物という感情を持っていた。乱世ならば自己の生存や利益を追求するのが普通だ。義を押し通した謙信は、

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