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作家の印象論~場をつなぐために

 今日は筆のおもむくままに、作家の印象をつらつらと。

志賀直哉

 THE・白米のような文章。『小僧の神様』は寿司が出てくるから特にそう思ってしまう。徒然なく書いているように思われながら、文章をじっくり眺めると仕掛けだらけであることがよくわかる。

武者小路実篤

 こちらは食パンのような文章。今から読んでみるとちょっとバタ臭い。十代のうちに作品を読んでいたら、面白く読んでいたんだろうな。『友情』や『愛と死』を筆頭に起承転結がはっきりとしている。小説を書こうとしている人はまず武者小路の作品を分析すると良いのではないかしら。

森鴎外

 薄味の文章だと言われるけれども、現代の我々からすれば全然そんなことはない。作品によって違いはあれど、白身魚、昆布〆した鯛のような文章を書く。『青年』、『雁』、『ヰタ・セクスアリス』などは割と読みやすい文章。それが『渋江抽斎』ぐらいになってくると、「しっかり昆布〆されているんだなあ」という印象になる。

夏目漱石

 志賀直哉の文章よりもやや噛み応えがある。つまり夏目漱石の文章は玄米である。だがどちらも簡潔な文章であるのには変わりない。『こころ』と『明暗』を優先的に読みたいところ。
 漱石ファンの方には申し訳ないのだけれど、『こころ』があまりにも傑作だったので、『三四郎』などを読んでもあまり感動できなかった。ちょっとした漱石不感症に罹ってしまったのかもしれない。

大江健三郎

 大江の文章は納豆味。『死者の奢り』や『万延元年のフットボール』を読んでいると特にそう思う。途中で志賀直哉の文章が恋しくなるのだ。やはり納豆と白米は合わせなければ。納豆味の文章は読む人をかなり選ぶ。実は村上春樹より好き嫌いが別れるのではないかと思っている。
 また彼の文章を読んでいると、どんな場面でも、曇天の夕暮の森に囲まれた山村が浮かんでくる。たとえ文中で「晴れている」と言われていても、曇天の映像が浮かんでしまうのだ。それが不思議で仕方がない。

遠藤周作

 文章としては意外とスタンダード。フランスパンのようである。第三の新人で彼だけが残った。(吉行淳之介や安岡章太郎は講談社学術文庫でしかお目にかかれない気がする。)初心者でも読みやすい文章なので、ぜひ。
 キリスト教徒を主人公にすることが多いためか、作品の舞台がばらつく。『深い河』ではインドに、『死海のほとり』ではイスラエルなどに行ける。

川端康成

 豆腐のような文章。ずっと食べ続けてはいられないけれども、日本の代表と言われたら確かにそう思える。さりげない文章が広がっている中に、光っている一文が紛れ込んでいる。
 短編になるほど、この黄金の一文の濃度が高くなっていく。そのため、『掌の小説』における各掌編小説がひとつの詩となってしまう。そのような作家である。

梶井基次郎

 まさに檸檬。宝石だけで文章を構成しようとするので短編しか書けない作家という印象。ちくま文庫の梶井基次郎全集は全一巻しかないのを見ると悲しくなる。

芥川龍之介

 こちらは蜜柑。ダンボール一箱分貰ったのに一日で食べ尽くしてしまうような文章。スジは取っても取らなくてもおいしい。『羅生門』や『地獄変』のようなまじめな短編を残している一方で、『好色』のようなフザケた作品も残している。

綿矢りさ

 フルーツつながりで紹介する。『蹴りたい背中』は衝撃を受けた作品である。キウイフルーツを初めて食べたときのように、フレッシュな酸味がいの一番にやってくるのだ。

川上未映子

 梅の味。梅干しではなく、梅の味。ちなみに彼女の代表作である『乳と卵』を百年間寝かせておくと、樋口一葉の『たけくらべ』のような味になる。

尾崎紅葉

 『金色夜叉』は古文と言われて避けられがちだが、個人的には鏡花や露伴よりも読みやすいと思う。擬古文入門としてまずオススメ。味としては鰻の蒲焼? 

泉鏡花

 鏡花の文章は鮪の赤身。高級だが脂はそこまで多くない。リズムがしっかりと整っているので、速く読もうとしても速く読めない。個人的には純文学作家という感じがしない。幻想文学の味付けがしっかりとついているからだろうか。

谷崎潤一郎

 トロのような文章。脂が舌を流れていくように、文章がよどみなく流れていく。句点がいつまで経ってもやってこない文章を書くが、内容はとらえやすい。『痴人の愛』がいちばん抵抗感なく読めるかしら。

永井荷風

 そうすると永井荷風の文章をどのように喩えればいいのかわからなくなってくる。永井荷風の文章は美麗ではあるけれども、いくら読んでも胃もたれしない。具だくさんの茶碗蒸しを食べているような感覚に近い。

吉本ばなな

 そろそろデザートを食べたくなってきたので彼女を挙げる。彼女はプリンのような文章を書く。バナナではない。体調が悪くて読書が覚束ない日は、吉本ばななの作品を読んで少しでも栄養を摂取する。

三島由紀夫

 焼肉。満腹になると一生食べないと誓うのに、一時間するとまた食べたくなってくる。他の記事で語りまくっているからここではあまり書かない。以上!

さいごに

 書くべきネタはあるのだけれども、文章がまとまらない。こういう時には作家の印象論を書いてお茶を濁すに限る。太宰治とか、島崎藤村とか、村上春樹とか、有名な作家はまだたくさん残っている。このネタは継続的に使っていこう。

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